ページの本文へ

NHK長野WEB特集

  1. NHK長野
  2. 長野WEB特集
  3. 天龍村!郷土料理会議

天龍村!郷土料理会議

  • 2024年01月10日

 

12月10日に長野県の南端に位置する天龍村で、村の女性たちから郷土料理を学ぶ教室が開かれました。村が行っている「秘境大学」という関係人口を増やすためのプログラムの一環です。
村内外を問わず、埼玉県や東京都などの県外からも参加者が集まりにぎわいをみせました。
同日、秘境大学と併せて第4回信州もぐもぐmeetingを開催!
第4回のテーマはもちろん「郷土料理」。多くの人が郷土料理を学び、語り合いました。

  1.村の女性たちから学ぶ郷土料理
  2.第4回信州もぐもぐmeeting テーマは「郷土料理」
  3.郷土料理はどのように受け継がれてきたのか?
  4.郷土料理を日々研究
  5.今後どう継承していくか?
  6.県外からの参加者も
  7.細かいレシピよりもコミュニケーション

村の女性たちから学ぶ郷土料理

料理教室で作ったのは、
「大汁(おおじる)」、「ゆぼし」、「柿巻(かきまき)」の3品です。

 

大汁

天龍村地域で年末年始に食べる大汁は大みそかに大きな鍋いっぱいに作り、お年取り(※)に頂くとのことです。元旦にはお餅を入れてお雑煮にして食べるそうです。各家庭で具材は変わりますが、具材の数は縁起の良い奇数の7とされているとのことです。
※お年取り・・・12月31日に正月に食べるようなごちそうを食べる習慣のこと

ゆぼし

ゆぼしはゆずの皮を煮詰め、乾燥させてグラニュー糖をまぶしたお菓子です。
チョコレートやチーズなどと一緒に食べてもおいしいそうです。

柿巻

柿巻は干し柿16個を薄くのばし、その上に先ほどのゆぼし・くるみ・チーズをのせ、のり巻きのように巻き、切って食べます。チーズを入れるのは村の女性の一人、伊藤祐子さんのオリジナルだそうです。冷凍保存がきき、冷凍庫に入れておけば2~3年ももつそうです。

村の女性たちは手際よく料理を作り、瞬く間に洗い物も終わり、あっという間に食事会がスタートしました。

料理教室で作った料理の他にも、ちらし寿司や卵焼き、漬物など村の女性たちの手作り料理も振る舞われました。大汁は具材のうまみがよく出ていて、1つ1つの具が大きめに切られており、とても食べごたえがありました。柿巻は甘い干し柿としょっぱいチーズの相性がよく、ゆずの風味とくるみの食感がいいアクセントになっていてやみつきになる味でした。
3品と手作り料理、とてもおいしかったです。

第4回信州もぐもぐmeeting テーマは「郷土料理」

食事も終わり、村の女性たちと参加者の方たちの連携によりあっという間に片付けも終わり信州もぐもぐmeetingに移りました。

司会の藤原正賢です。
普段は長野市にいるのですが、天龍村に年に1回ほどお邪魔して、地域の外と地域住民の接点を作っていくという取り組みを長くやらせてもらっています。
今日は3人の村の女性をメインゲストに迎え、郷土料理を「受け継ぐ」と「広げる」を
テーマに話していきたいと思います。

郷土料理はどのように受け継がれてきたのか?

藤原さん

今日の料理教室で作った3品はどのように受け継がれてきたのですか?

メインゲスト・伊藤祐子さん
伊藤さん

天龍村に嫁に来て60何年になるんだけど、村のおばあさんから教えられて
お年取りの時にはこの汁を食べるんだよという教えがあってずっと続いています。

メインゲスト・遠山直代さん
遠山さん

私も母から教えてもらいました。
母からの教えで、具材は基本的にはちくわ、豆腐、切り昆布以外はうちで作ったものを使うというのがあります。

後藤三八子さん
後藤さん

私は嫁に来て40年になるのですが「年の汁」とか大汁の呼び名は色々あって、
具材や切り方も家や場所によって違います。
私の家では油揚げを入れます。

藤原さん

家によって違うのですね!

遠山さん

家で大汁を作ると、汁が少なくて煮物みたいになってうまくできなくて子どもたちもあまり食べないのですが、今日作った大汁はおいしいって3杯も食べていました(笑)

藤原さん

実際に子育て世代の方もお年取りの食べ物として作っているのですね。
うちの大汁にはこの具材をいれるよって何かありますか?
今日作ったものと一緒ですか?

参加者の皆さん

大体一緒だな~

藤原さん

そうなんですね。
みなさん柿巻とゆぼしは作られているんですか?

遠山さん

うちでは柿巻もゆぼしも作らないですね。

藤原さん

そうなんですね。
家によって何を教わったかで作る料理が違ってくるんですね!

伊藤さん

柿巻めんどくさいもんでなぁ。
でも正月のお菓子に柿巻があるとまた違う。

郷土料理を日々研究

藤原さん

大汁の定義とかってあるんですか?
こうなったら大汁になるみたいな…

伊藤さん

具材の数は奇数で作るってことかな
どうして奇数なのかは明確には分かりませんが…(笑)
奇数でやれよっておばあさまからの指令でやっていたから…。
あとは基本的に野菜は根菜を使うことと海のもの(ちくわと切り昆布など)を入れるというのが決まっていることかな。

藤原さん

具材の数は奇数というのが大まかな決まり事なのですね!
ゆぼしと柿巻にもベースとして決まっていることはありますか?

伊藤さん

それは別にないね。

藤原さん

そうなんですね!(笑)
柿巻にチーズを入れたりしたのがすごく印象的だったのですが、
どうアレンジしているのですか?

伊藤さん

柿とチーズは偶然合っちゃったんだよ。
料理っていうのは発想で、今日の大汁に入っていた里芋とさつまいももそう。
里芋を煮ると泡がすごく出るんだけど、さつまいもと一緒に煮ることで抑えられて、甘味が泡に流れていかずに強く出るようになる。そういう少しのアレンジで料理はおいしくなる。

藤原さん

守ってきた部分と変えてきた部分があるってことなのですね。

伊藤さん

自分の身につくように勉強しなくちゃいけないし、
味も自分なりに研究しています。

藤原さん

大汁はお年取りの料理で作る機会が限られていると思いますが、研究はどのようにやっているのですか?

伊藤さん

お年取りだけじゃなくいつでも煮て食べます。
おいしいから(笑)

藤原さん

行事の時だけでなく日々の食卓でも出して
具材を足したり研究しているのですね!
みなさん日常的に作って研究しているのですか?

上野さん

そうですね。
母が大汁を作る時に、にぼしを袋の中にいれて出汁をとっていて。
最近は うまみ調味料みたいに出来上がっているものも多いですが、母を思い出して手間をかけて出汁をとってみたりしています。

藤原さん

こういう場を通して大汁ってこうやって作っていたよなとか、大事にしていることなどをお互いに学びあったりしているのですね!

今後どう継承していくか?

藤原さん

今日作った料理、特に柿巻は作るのが大変だと思いますが
今後どんな風に伝えて、受け継いでいってほしいですか?

伊藤さん

郷土料理を作る体験をしてもらって、その時のことを覚えていてもらいたい。
そうすれば自分の中の財産になるから…。

藤原さん

財産になるって大事ですよね。
皆さんも郷土料理を教わっていてよかったなと思う瞬間はありますか?

遠山さん

郷土料理を作る度に、「お母さんはこの時にこう言っとったな」と教えてくれた人やその人との思い出を思い出すことができるのでよかったなと思います。
それをもっと伝えていけたらいいんだけど、こういう機会でもないとなかなかね…。

藤原さん

そうですよね。
それに昔は輸送技術も発達していないから自分たちで作るのが主流だったかもしれないけど、今は何でもお取り寄せできる時代になって郷土料理を作る機会が減っていそうですよね…。

伊藤さん

そうなのよね~
うんと昔は雪がすごく降って外に買い物にも出られなくなることがあったので、
地面に穴を掘ってわらをかけて野菜を保存しておくわけ。
それを引き出してきて作った料理が大汁らしいんです。

藤原さん

だから大汁の具材には保存がきく根菜が多かったということなんですね!


藤原さん

こういった郷土料理についての情報交換は普段からできているのですか?

伊藤さん

できるのよ これが!
村役場の内藤さんたちが一生懸命に取り組みをやってくれて、
たくさんの人が興味をもって参加してくれて…
そこで得るものは必ずあるからこういう場は絶対必要だと思うの!

藤原さん

単に教えるだけじゃなくこういう場が一種の刺激になって、また新しいレシピが
生まれたりするわけですね!
内藤さんはどうして村としてこういう場を開いているのですか?

天龍村役場の内藤孝雄さん
内藤さん

都市部の皆さんと地元の皆さんが交流する場を作りたいと思ったことがきっかけです。移住をしたい方やローカルに興味がある方がどこから入っていいのか分からないというところがあって…。
地元の人の交流に都会の皆さんも来てもらったら楽しいのではないかという思いつきで始めました。実際に、東京などで天龍村の食べ物を振舞うとすごく好評だったんですね。コロナも5類になったので、今までは一連のプログラムでやっていたのを何回も回を設けてみたら面白いんじゃないかと思ってやってみたら、毎回いろんな方が来てくださって、中にはリピートしてくださる方もいて、思わぬ形で交流ができてすごくいい企画になっているなと自画自賛しています(笑)

県外からの参加者も

藤原さん

そういう形で地域の外にも広げていったり、受け継いでいくっていうことがこれからのテーマかなと思います。ちなみに今日、天龍村以外のところからの参加の方ってどのくらいいらっしゃいます?

和智さん

私は東京都港区から参加しました。
転勤が多く故郷と呼べる場所がないので、故郷や遠くの親戚とか郷土料理に憧れがあって…。山梨県の小淵沢に家を買ったので、近くの長野県を周って笹ずしなどの郷土料理に挑戦しています。
料理教室はびっくりするぐらいアットホームでほっこりしました。
柿を巻いたり初めての体験も多かったのですが、料理だけでなく親戚の家に来たみたいなほっこり体験ができてうれしかったです。

福島さん

飯田市から親子で参加させていただきました。
大汁、ゆぼし、柿巻どれもこの時期にまた作りたいと思えるくらいおいしかったです。うちも大みそかに汁物を作るのですが大汁とはまた違って、とり肉をいれます。でも今日の大汁はとり肉をいれなくても十分おいしいと感じました。
皆さんに色々教えて頂き、楽しい時間になりました。

和奏さん

普通に生活していたら知ることのできなかった料理やそのレシピを皆さんが優しく教えて下さり楽しく学ぶことができて、すごくいい体験になりました。
まずは家族や学校の友達に体験したことやどんな料理だったかを伝えたいと思います。

田名網さん

埼玉県から来ました。
私は旅が好きで、その土地の風習にも興味がありまして…。
このイベントは友人に誘われて参加しました。
郷土料理の中でも家庭料理が家庭ごとにそれぞれ違うところが面白いなと思いました。今日作ってみて、温かさや代々受け継がれてきた思いが込められてるのが感じられていい体験になりました。

和光さん

私も埼玉県から来ました。
出身が長野県白馬村なのですが、天龍村には4年ほど通っています。
皆さんのお話を伺いながら、料理ってコミュニケーションでもあるんだなというのをすごく感じました。料理のレシピそのものだけでなく、ご先祖の皆さんの思いやこの料理を食べて味わった幸せな時間も含めて受け継いでいくことが大切だと感じました。

熊谷さん

今年の4月から小学生の息子と山村留学で天龍村に住んでいます。
知り合い作りのために第1回から参加させていただいています。
東京という買えば何でも手に入る環境から来て、正直に言うとなんでこんなに面倒なものを作るんだろうと思っていました。回を重ねるごとに、この時期にこういうものが採れるから作るんだなというのがだんだん分かってきました。

藤原さん

郷土料理教室を通して地域を知っていくんですね!

熊谷さん

最近気になっているのは「お年取り」という言葉です。
私は正月に向かって、正月が山場だと思っていたのに対してここでは大みそかに山場を迎えるというのもお話していくうちに分かって、そういう感覚の違いも楽しんでいます。

藤原さん

お年取りって、この地域の特徴なんですか?

伊藤さん

お正月よりも31日にごちそうを食べます。

西野さん

私も東京から来ました。
東京ではお店のディスプレイや店頭に並ぶ商品が変わることで季節の変化を感じていたのですが、天龍村では作る料理とか咲いている花の匂いなどで季節を感じられることが多いなと思います。この料理教室も家族感があって、地域の人と交流する中で学ぶことができるのが好きで来ています。

藤原さん

県外から参加の方も多くいらっしゃいますね!
村の皆さんは参加者から何か感じたことはありますか?

後藤さん

皆さんがわいわい楽しそうに取り組んでいてよかったです。
あちらにいる、村の小中学校の給食に携わっている栄養士の櫻井さんが毎回来てくれて、ここで習った料理を学校の給食にも出して下さり、子どもたちにも広めることができています。

藤原さん

給食に郷土料理を出すと子どもたちはどんな反応でしたか?

栄養士・櫻井さん
櫻井さん

1回目で習った料理を保護者の方も集まる試食会で出したのですが、食べたことがないって子がいたり、おばあちゃんが作ってくれたって子もいたりしました。
校長先生が天龍村出身なのですが、懐かしく思って下さりました。
郷土料理を給食に出すことで次の世代に残していけたらという思いで参加させていただいています。子どもたちが大人になった時にこういうの食べたな、懐かしいなって思い出してもらいたいです。

藤原さん

今日の大汁も給食に出したり…?

櫻井さん

大汁は毎年12月末にお年取り献立として出しています!

藤原さん

そうなんですね!
単に食べ物だけじゃなくて食文化なども給食を通して伝えているんですね。

櫻井さん

天龍村の小学校は村との関りが深くて授業や行事で色々やるのですが、
食文化は給食じゃないとできない部分もあるので伝える手段としてやっていけたらなと思います。

細かいレシピよりもコミュニケーション

藤原さん

皆さんのお話を聞いていてレシピをただ教えるだけじゃなくて体験として受け継いでいくというのが印象的でした。
これまでにこういう料理教室はあったんですか?

伊藤さん

なかったですね。

藤原さん

そうなんですね!
こういう場があるとレシピとしても残るし、レシピだけじゃ伝えられないことも伝えられそうですね?

伊藤さん

そうなの。
家庭的で楽しくおいしい料理が出来ればそれが郷土料理になっていく。
それが一番大事で私の目標です。

藤原さん

柿巻にチーズが入っていたりアレンジが加えられていたりしていて、
レシピ通り受け継いでいくことよりもこのコミュニケーションが
大事なんですね!

内藤さん

毎回レシピの紙に分量は書いていないですね。
材料だけを伝えて、味のバランスはそれぞれの家庭で好きなようにしてもらいます。なので帰って作ってみるとまた違う味になると思います。

藤原さん

それが研究するということにつながるんですね。

伊藤さん

今日はもうレシピ通りにはやっておりません!

藤原さん

そうなんですね(笑)
それはやっぱり親御さんから受け継ぐ時も単にレシピを教えてもらうだけじゃなかったなって思いますか?

伊藤さん

適当に教えてもらったことなの。
見て覚えろよってことでね。

藤原さん

それを今コミュニケーションを通して引き継いでいってほしいってことなんですね。そして単にレシピが残っていくだけじゃなく、地域の歴史や文化を伝えることにもつながっていくんですね。地域の文化を受け継ぐ事=郷土料理ということなのかなと思いました。

天龍村地域おこし隊・加藤さん
加藤さん

こういう会でしかお会いできない方と会えたり、なかなかお宅に行って教えてもらうことってできないのでこういう機会はいいなと思います。私は九州出身で
長野の料理は未知で、お年取りという言葉も知らない状態で来たのでこういう場はすごくありがたいです。たまに祐子さんに呼ばれてお食事をごちそうになって料理の作り方も教えてもらうのですが、分量はいつも適当なんですよ(笑)
それを皆さんと共有出来たら面白いなっていうのと、料理というテーマで色々な年代の方がつながるのもいいなと思っています。天龍村だからこそできるゆずのお菓子だとか、地元でたくさん採れるものをどう消費しているか、他の家庭ではどうしているか知る機会もそんなにないと思うので知るいい機会にもなっていると思います。

藤原さん

ありがとうございます。
次回の郷土料理教室で作ろうと思っているものってありますか?

伊藤さん

また考えます(笑)
遠くから参加してくれた人が郷土料理を持って帰ってもらって、天龍村っていいところだよってことが広がっていけばうれしいです。

皆さんのおっしゃる通り終始、親戚の集まりのような和やかな雰囲気でなんだか懐かしい気持ちになりました。郷土料理を作る機会が減っているとのことでしたが、郷土料理教室には県外からの参加者や若い世代の方もみられ、これからも受け継がれていく可能性を感じました。
柿巻にチーズを入れるなどよりおいしく、食べやすくなるようアレンジが加えられていたのが印象的でした。時代に沿って変化はしていくけれど、郷土料理そのものや料理にこめられた思いが失われないようにこれからも受け継がれていってほしいと思いました。
信州もぐもぐmeetingでは、これからも信州の食材や食文化などを深掘りしていきます!
(もぐしんスタッフ)

ページトップに戻る