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外国ルーツの子ども 高まる教育熱

求められる支援の在り方は?
  • 2023年08月22日

近年外国ルーツの子どもの進学率は上昇傾向にあり、教育への期待が高まっています。
そうしたなか、昨年塩尻市に外国ルーツの子どもを対象とした学習塾が開校しました。

外国ルーツの子ども 進学の壁

 両親、もしくはどちらかが外国出身であるなど日本に住む『外国にルーツ』をもつ子どもたち。
その日本語能力はさまざまです。たとえ日常会話を話すことは出来ても、勉強で使う難解な日本語の習得が難しいために教科学習の理解が遅れてしまうなどの学習課題が入試や進学の大きな壁となっています。
長野県ではこれまでそうした外国ルーツの子どもたちのために、主にボランティアによって教育支援が行われてきました。近年は将来日本で暮らしていくために、日本の高校へ進学を希望する外国ルーツの子どもが増加。受験に向けて高い費用をかけてでも、受験に役立つ授業を受けたいと考える人が増えているといいます。

外国ルーツの子ども対象の学習塾が開校 増える生徒数 

長野県塩尻市にある学習塾。『外国ルーツを持つ子ども』のみを対象に、2022年4月に開校しました。教室を運営するのは、木下千夏さん。
 

教室長 木下千夏さん

日本語教師の資格をもち、外国ルーツの子どもたちへ支援をしてきた経験を活かして
指導にあたっています。

問題を出し合う2人の生徒

この日、塾では中学3年生の生徒2人が問題を出し合っていました。 

太平洋高気圧によってつくられる気団は?

・・・。(答えを悩む)

オカザハラ・・・

あー、言おうと思った。

2人のやり取りを見ていた木下さん。すかさず漢字の読み方が違っていることを教えます。 
 

木下さん

おがさわら きだん

生徒2人

(生徒2人で言い直す) おがさわら きだん

『小笠原(おがさわら)』 は小学校で習う地名です。しかし複数の読み方をもつ漢字の習得は外国ルーツの子どもたちが難しさを感じている学習課題の1つ。このように正しい読み方を習得する前に、授業が進んでしまっていることも少なくありません。木下さんはこれまでの支援の経験から、子どもたちがつまずきやすいポイントをあらかじめ想定し、ひとつひとつ確認や訂正をしながら授業を進めていきます。 
 

教科学習で習った用語にひとつひとつに、ふりがなをつけて覚えている

この塾の費用は週に2回で月におよそ1万5千円。
開校当時から生徒は増え続け、現在は南米や中国にルーツを持つ中学生10名が通います。 
 

さまざまなルーツをもつ生徒が通う
木下さん

将来ちゃんと日本で生活が出来るようにしっかりお金をかけて勉強してほしい、良い人生を送ってほしいと思ってらっしゃる親御さんはすごく多いと思います。子供も安心して勉強に取り組める。みんなで前を向いて将来を前向きに作り上げていこう、という風に出来たら良いなと思っています。

外国ルーツの子どもの教育課題 

生徒のひとり、川野洋明(ひろあき)さん。両親は日系ブラジル人です。

川野洋明さん

将来日本の大学に進学したいと、高校は進学校の受験を志望しています。
 

洋明さん

これから好きな仕事とかを見つけられるような、体験とかがいっぱいできるような高校に行って(将来の夢を)見つけたいですね。

 日本で生まれ育った洋明さん。日常会話はもちろん日本語を使います。しかし日本語が得意ではない両親と話すときは、簡単な会話で話すことが多いといいます。 そんな洋明さんの受験の課題は、教科学習で使われる難しい日本語を理解すること。塾で指導を受けている数学では、計算問題は得意ですが文章問題で使われる用語がよく分からず、問題を理解することが苦手といいます。 

授業を受ける洋明さん(左)

この日、授業では学校の授業で既に習った『平方根』の問題を洋明さんに解いてもらっていました。答え合わせをしながら、木下さんは念のため用語の理解が出来ているか確認をします。
 

木下さん

平方根の意味は・・・?

洋明さん

・・・。(首をかしげる。)

洋明さんは平方根とはどういうものか理解できていないまま問題を解いていました。
木下さんは、外国ルーツの子どもたちの学習課題をここでも指摘します。

木下千夏さん
「平方根ってルートなんだ」「平方根って出てきたらあのルートの形を書けばいいんだ」みたいに勘違いしてしまいやすい。

 木下さんはひとつひとつ確認しながら、難しい用語を外国ルーツの子供にもわかるよう、 
図にして教えていきます。 
 

木下さん

二乗の『根っこ』を知りたいですって言ってるんだよね?

平方根を図示して説明

今回学習した平方根は、「花」と「根っこ」にたとえて説明をしました。 
 

木下さん

勉強の言葉が苦手な外国ルーツの子供たちは授業の中で、先生の言っていることがいまいち意味が分からない。やりたくてもやれないという状況が学校の授業とか日々の学習のなかで積み重なってしまう。その負の連鎖は断ち切らないといけないと思っています。

塾では保護者へのサポートも

塾では生徒だけではなく、その保護者へもサポートを行います。

洋明さんのお母さん(左)に日本の受験制度を説明する木下さん

 実は日本人にとっては当たり前の受験制度も外国人の保護者にとっては母国と違う、聞きなれない制度ばかりです。日本語に不慣れなこともあり、必要な情報が十分に知られていません。内申点や総合テスト、高校見学など日本人には当たり前かもしれない些細な知識がなかったために事前の準備を必要だと知った時にはすでに手遅れ・・・なんていうこともあるといいます。
 
ブラジルから来た洋明さんのお母さんもその一人。複雑な受験システムをあまり理解できてないお母さんに、木下さんは面談を実施しサポートをします。今回は受験制度を説明するポルトガル語の資料も作成しました。 

日本の受験制度をまとめたポルトガル語資料
洋明さんのお母さん

成績を見ても点数が上がったのか下がったのか分からないので、(塾で)説明していただいてそれで初めて知りました。先生と相談しながらどこかの高校、良い高校に行ってほしいです。

木下千夏さん
基本的に日本人が、日本語が普通に使える親御さん向けに作られているので、どれだけ日本語を長く使われてきた方でもやっぱり分からないことってたくさんあって。親御さんに丁寧に説明するところが最終的に子供の安心感、子供の前向きな受験につながってくると思うんです。

編集後記 

外国ルーツの子どもたちを対象とした長野県の新たな学習支援の現場に密着しました。学習塾では、目をキラキラさせて将来の夢や目標を話す子どもの姿や、これから日本で暮らしていく子どもたちの未来のためになる教育環境を用意してあげたいと話す保護者の姿が印象に残っています。 外国人散在地域である長野県では、子供たちの支援もその住む地域によってさまざまです。長野県にまた1つ新たな教育支援の場ができたように、さまざまな背景を持つ子どもがひとりでも将来を前向きに考える機会が増えるよう、外国ルーツの子どもたちの支援の現場を今後も取材していきたいと思います。

  • 大塚美侑

    長野放送局ディレクター

    大塚美侑

    2022年入局。 
    学生時代は、雪氷学と科学技術コミュニケーションを学ぶ。

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