NABE学生編集サポーター×「イチとも」コラボ記事
「就活生必見ドラマ!わたしの一番最悪なともだち」
〜押田友太プロデューサーに直接取材〜
就活生の悩み、若手社員の悩みを等身大で描いているので、今、就活で思い悩む学生の皆さん、
就活を終えて社会で働く皆さんなど、就活を経験したことがある人ならば何かしら共感できる部分がきっとあるはずです。
そんな「イチとも」のプロデューサー押田友太さんに、
実際に視聴して感じたことや疑問に思ったことを直接ぶつけてみました! 取材日:2023年9月27日 聞き手:NABE 学生編集サポーター田口陽菜
■ 大事にしたのは、役に合っているかどうか
田口:主要キャストの皆さんの年代を調べて、
20歳から23歳前後の方が多いなと思ったのですが、
主要なキャストの方を選ぶ際に、
年齢以外で大事にしていた事はありますか?
押田:やっぱり役に合うかどうか
っていう部分が一番大きいですね。
ほたる役の蒔田彩珠さんは以前「おかえりモネ」
で一緒にお仕事させてもらったので
「イチとも」の台本を最初読んで、
ほたる役の書かれていたセリフを見た時に
「もしかしたら、蒔田彩珠さんが合うかもな」
と思ったのが大きいです。
押田:美晴役は、オーディションを行ったんですけど、
「表向きでは元気で明るい姿だが、
実は裏では何か秘めている」
というのが結構大事だったので、
そこを基準として探しました。
田口:美晴が持つ裏表の姿っていうのは、
どういう部分でわかるんですかね。
押田:実際に何パターンかお芝居を
やってもらうんですけど、演出部で話し合って、
蒔田さんと良い化学反応が起きると確信しました。
決め手は内緒です(笑)。
田口:毎週ゲストの方が登場しますが、
ゲストの方を選ぶ上で
意識している事はありますか。
押田:やはり、基本的には、
役に関係している人・合っている人
にしています。例えば、
第2週ゲストのお笑いコンビ・ジャルジャルの
後藤淳平さんは、YouTubeで面接を行うコントなど
就活のことを動画にされていて、
就活と関係があったのは大きいですね。
第3、4週ゲストの筒井真理子さんについては、
女性の方が活躍している会社であるという意味で
女性の面接官の方にいていただきたく思いました。
また、その人の本質を見抜いてくれる実力派の人は
誰か、となった時に名前があがりました。
■ 想像上の就活ではなく、大学生の声をドラマへ
田口:ドラマを制作する上で、リアルさを出すために、
大学生や企業の方々に取材を行い、
リアルな声を取り入れるというのを
大事にしていたと思うのですが、
取材内容をドラマに活かし、制作する上で
最も注意していたことは何でしょうか。
押田:今の人たちの何が大変なのか、
知りたくて色々な話を聞いた時に、
コロナ渦中に学生生活を送った方が多くて、
「学生生活が思ったものでなかったからこそ、
社会人で自分らしさを出したい」
という声が結構多くありました。
そう思っている人が実際にいるってことを
想像ではなくて直接聞くこと
は大事だなと思いました。
例えば、ほたるが母親に内定をもらったことを
報告する場面も
直接ではなく電話でするんですけど、
あんまり泣いて喜ぶとかではなく、
淡々と報告する感じだったことなど
取材したことを元にしました。
押田:あと、自分が受かったこと、受けている企業を
友達とかに言わないという方が結構いて。
ドラマの中でもほたるのバイト仲間である
「36度5分」のメンバーがいつの間にか
内定を得ていて、
ほたるに内緒で温泉旅行に行ったりしてますが、
別に悪気はないんですよね。
だからこそ、ほたるもいいねするという(笑)。
こういう微妙な空気感は、
実際に取材してみないと分からなかったですね。
とはいえ、私もいまだに分かっているかというと
そうではないんですけど(笑)。
田口:想像ではなく
リアルな声をそのまま
ドラマに取り入れること
を意識されていたんですね。
■ ほたると美晴、真逆な2人の関係性
田口:全ての場面に思い入れはあると思うのですが、
ドラマの中で、特に印象に残っている場面は
どこでしょうか。
押田:第4週の最後に、ほたる自身が美晴に
「自分は実はあなたとして
エントリーシートに
書いて受かった」
と言おうとするけど、
辛そうな顔のほたるを見た美晴が、
「それって
ほんとに言わなきゃダメ?
今日楽しかった、
それでよくない?」
って言ってくれる場面が印象に残っています。
「ああこの2人の関係性って
そういうところだな」
と思いましたね。
言えなかったからこその苦しさが
ほたるに残るシーンでもありました。
なので、ここは大事だなと思いました。
■ 変身して失うもの
田口:台詞で印象に残っているのはどこでしょうか?
押田:「変じゃなく変わった」という台詞です。
これはほたるが、自分を受け入れていくときに
聡美さんに話す言葉ですが、
このセリフを言う前の展開がすごく好きです。
変身する、つまり美晴になると、
いいことが起こると思うけど、それだけに
フォーカスしたドラマではないんですよね。
得るものもあるけど、
失うものもある。
慎吾が離れてしまったり、
お土産選びも量産的なものになったり、
悪いことではないけど、
ちょっと人間が変わってしまうことが、
元の自分とは違う。
本当のほたるの良さを
失っている感じ。
その捉え方がいいなと。
ここはすごいなと思って、大好きな台詞ですね。
■ 就活生の本心は全部バレる!?
田口:押田さん執筆の「イチとも」に関する記事(※)
の中で、押田さんご自身の就活を
振り返られていた箇所もありましたが、
就活生時代に自分を「盛る」と言いますか、
本当の自分とは少し違う話をしてしまった
という様なご経験はありますでしょうか。
押田:僕はドラマを作りたいという気持ちが強くて、
就活はテレビ局や映画関係、広告代理店を
中心に行っていたので、
自分を盛るということは
なかったですね。
でも、
試しで受けたような会社は、
実際話しても
別に行きたくないから、
バレてしまって、
絶対落ちるんですよ。
なので、業界は絞った方がいいと思います。
田口:でも皆さん同じ目標を持って臨む方が多い中で、
より良い人が選ばれると思うのですが、
それでも自己PRでも自分を盛るということは
あまりなかったのでしょうか。
押田:エントリーシートの時点で
自己PRは書いてあるので、
そんなに自己PRをする機会はありませんでした。
でも多少は盛ったこともあるかもしれません(笑)。
■ 「3年経っちゃった」
田口:ドラマのなかで、「3年」というところに
着目されていたと思います。
ただ私は、社会人1年目というのも、
大学生から社会人に変わりますし、
先輩社員からの視線やプレッシャー
というのも感じるはじめの1年で、
就活と同じように自分を偽ることも
あるのかなと思ったのですが、
なぜ社会人1年目の要素を
ドラマには含まなかったのでしょうか。
押田:今言っていただいたことが全てで、
そういうドラマになると思ったからです。
みんな想像つくじゃないですか。
「多分こうなるんだろうな」と。
それで、ダンスできることが
そんなに仕事に生きるのかというと
そうではないし、
英語ができるので(仕事の中で)英語使ってなんか
やってくださいということもそこまでないし、
日本の社会では、面接の時に喋ったことが直接、
社会に生きることってほとんどないと思うんです。
だから大体そういうのを忘れていくんです。
押田:大事なのは、忘れてしまった後
なんです。要はやっぱり
その3年経ってしまって、
ある意味乗り越えてきたんですが
でもそこから、自分でずっと
偽ってきたんじゃないか
みたいなことがあるわけです。
それに自分は向き合ってこなかった
ってことが、多分自分にとって
一番大きいショックなんですよ。
なので、そこはあえて3年間飛ばした話にした方が
良いのではないかということになりました。
■ 自分じゃない自分:嘘について
押田:嘘ついたことをあんまり
マイナスには捉えたくない
なと思って。
原田泰造さんがやっているほたるの上司、
木下が言ってくれましたけど、
ウソをつくことは、誰かを、自分を守るときに
言わざるを得ないことがこれから必ずあって。
だからこそ、嘘をつくことに慣れてはいけないと
言ってくれるわけですよ。
必ずしも嘘をつくことは悪いことではないけれど、
嘘には向き合わないといけない。
その向き合う3年間が
ほたるにはなかった
っていうことを伝えるドラマでありたい
とは思っていました。
押田:要は、ほたるじゃない自分のまま
3年間を過ごしちゃったということ
ですね。ある意味止めて欲しかった気持ちも
あると思いますよ。
でもその止めてくれる人やきっかけが
どこにあるんだろうっていう。
止めてくれないと自分はずっとこのまま
い続けるわけなんで、それがそんなに
いいことじゃないだろうなって思ってるからこそ、
でも自分では止められないんだということですね。
■ 悩んでいる自分もありのままの自分
田口:押田さん執筆の「イチとも」に関する記事(※)
にあったように、
「何かを完全に否定せず自分を肯定する」
ことが大事とわかっていても、
やはり私たち就活生の周囲には大人がいるので、
その人たちの意見も
どうしても気にしてしまうんですね。
例えば、「大手に行った方が安定はする」とか。
そこで、「ありのままの自分」を否定せず揺るがず
持ち続けるためには何が必要だと思いますか。
押田:今悩んでるその状態で充分ですっていうことです。
今例えばほたる自身も他人のエントリーシートを
使って自分じゃないまま就職しちゃってることに
悩んでいますけど、
悩んでるってことだって実は自分だ
っていう考え方になっていくんだろうと思ってて。
いや大手に行きたい、行った方が良いんだろうかっ
て悩んでいるのも(結局どこに行こうが)
それもそれで全然自分だと思うし、
今どこに行きたいかわからないっていうのも
自分でいいと思っていて、
そこは嘘つかなくていいと僕は思います。
自分らしくあらねばみたいに
なっていても、
そういう風に思ってしまうその姿
こそが自分らしさです
って思いますし、
そこを否定しようとするから、
しんどくなるだけだなと
思うんですよね。
まあいくらでもやり直しはきくと思うので、
それで全然良いかと思います。
■ 一言では終わらない感想
田口:実際にこのドラマがオンエアされてから、
視聴者の反応はいかがでしたか。
押田:就活生と同じ世代ぐらいの人に見てほしいなあ
と思ってたんですけど、その人達からは、例えば、
「面白い」といった単純な感想が
一個もないんですよ。
なんかここについて考えてってしまったとか、
これはなんでこうなのか、
私自身と重ね合わせてこう思ったとか、
なんかそういうことが結構多くて
一言で終わる感想がないから
結構深く考える内容になっているのかなと
僕は思いました。
■ 押田さんが関わった他の「よるドラ」のご紹介!
ここで少し「恋せぬふたり」をご紹介させてください!
こちらのドラマも、今回取材させていただいた押田さんが制作に携わっています。
*「恋せぬふたり」とは、、?
恋愛についても分からないし、必要のない主人公、咲子。
「恋愛をする=幸せ」という考え方への不信感を持つ中、咲子と同じような考え方を持つ,
高橋羽に出会います。
恋人でも…夫婦でも…ない、家族(仮)としてアロマンティック・アセクシュアルの2人が同居生活を始めます。同居生活をしていく中で、咲子の両親、元カレなど周囲の人には理解してもらえず、動揺されてしまう日々...。
そんな2人の行方は、、?
(参考:NHK『恋せぬふたり』〈https://www.nhk.jp/p/ts/VWNP71QQPV/〉)
*アロマンティックとアセクシュアルって知ってる?
この2つのセクシュアリティは、LGBTQ+のQ+に含まれているセクシュアリティで、
・アセクシュアル:性的指向の一つで他者に性的に惹かれないこと。どちらの面でも他者に惹かれない人
を意味しています。
「恋せぬふたり」も「イチとも」と同様に、見応えのある作品となっています。
多様性を大事にする現代だからこそ、色んな個性を持つ人がいて当たり前。
自分はこのままの自分でよくて、同じように「相手もそのままのあなたでいい」。
こんなふうに、思う人が増えれば、多種多様な社会、世界は実現するのかな、と
改めて実感したドラマです。
NHKオンデマンドから見れますので、ぜひご覧ください!
■ 少し話が脱線してしまいましたが、、
*「イチとも」に関する取材でも、「恋せぬふたり」と絡めて聞いてみました!
■ 恋愛をエンタメにすることへのモヤモヤ
田口:「イチとも」と「恋せぬふたり」は、
最終的に「ありのままの自分で良い」
というテーマだったり、ドラマの中に
「偽る、装う」があったり、
あとは恋愛要素が少ない、入ってないなど
似ている部分が多いなと感じました。
田口:「イチとも」でも恋愛要素が少し
含まれていますが、恋愛が中心ではないドラマに
なっていると思います。
もちろん、恋愛要素が含まれていない理由は、
「リアルな声を伝える」など様々だと思いますが、
「恋せぬふたり」を制作されたご経験も
活かされているのでしょうか。
押田:「恋愛ドラマは良くない」というのもそれはそれで
良くないと思っていますが、ただ
エンタメとして
消費する題材にするのは違う
と思っています。
なんだろう、必然性がないのに、異性同士が
出てくるだけで恋愛関係になったり、
無理やり恋愛要素を見せ場にしているのには
違和感があります。
押田:例えば、(「イチとも」の中では)慎吾がほたるに
さらっと告白するんですけど、
ラブコメディ的なドラマだった場合、
それに対してちょっと言い合って
別れるみたいになると思うんです。
でも、慎吾はこれに対して、
「ちゃんとほたるのことを考えてなかった」
と謝ります。
それはすごく大事で、誠実に向き合っているという
描写なんですよね。
単純にドラマを面白くすることに使われている
訳ではないと思っています。
押田:あとは、グループディスカッションで、
色付きリップの話をしていましたね。
「男性ってあんまり使わないんですけど」といった
話にはあえてしていなくて、なんとなく
登場人物の言葉の端々では(多様性を)
意識はしていることは当然のことなど、
「恋せぬふたり」の制作経験が
あったからこそできたさじ加減
のようなところはあった気がしますね。
押田:それから、前半の物語では女性みんな
スカートのスーツなんですけど、
ほたるの後輩役の出口夏希さんはパンツスタイルに
しているなど、
スカートの人もいれば
パンツの人もいる、
こんな人がいればあんな人もいる
みたいなことがさりげなくですが、
ドラマの中で表現されています。
殊更に協調はしていませんが、意識はしたい
というのが今回のドラマのねらいだと
思っています。
■ 押田さん、ありがとうございました!
今回の取材は、「イチとも」について私自身が感じた疑問を直接、押田さんにぶつけることができた貴重な時間でした。
この記事を読んで少しでも、このドラマに興味を持ってくださると嬉しいです!
特に就活で思い悩む人、このままで良いのかと思い悩む人にぜひ視聴していただきたいです!!!
※10月12日(木)が最終回!
※最終回のNHKプラスでの配信は10月19日(木)午後11:00まで
記事の中でも登場した、※押田さん執筆の「イチとも」に関する記事も、ぜひあわせてご覧ください!
(note NHK広報局 押田友太『「ありのままのあなたでいい」就活生のリアルと向き合った私たちが伝えたいメッセージ』〈https://note.com/nhk_pr/n/n3ff92bc3cebf〉)
下の画像をクリックしても飛ぶことができます。
押田さん、この度はありがとうございました!