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岩手発!「もったいない」に目を向けて 商品開発

  • 2024年05月15日

物価の高騰が続く中、これまであまり注目されてこなかったものに価値を見いだし、商品化する動きがあります。その背景にあったのは「もったいない」という思い。
消費者に選んでもらうため、工夫をこらして新商品を売り出しています。
(盛岡放送局 記者 川原玲奈) 

はじめは、とんだ勘違い

取材をお願いしたのは4月。
「すみません。椎茸ガソリンを取材したいのですが…」とメッセージを送った私に、すぐに電話がかかってきました。
「取材ありがとうございます。実は椎茸ガソリンではなく椎茸ガリリンです」
何とも恥ずかしい勘違いからスタートした取材。
それもそのはず、あえて“勘違い”や“見間違い”をして、商品を手に取ってもらえれば、とこの名前が付けられたといいます。
まんまと引っかかって取材した商品がこちらです。

“椎茸ガリリン”

容器は、こしょうや岩塩をすりつぶす「ペッパーミル」。
2023年のWBC=ワールド・ベースボール・クラシックでは、ヌートバー選手のパフォーマンスで一躍話題となりました。
このミルに入っているのは乾燥させた「しいたけ」。
といっても、入っているのは「軸」の部分だけ。
久慈市で菌床しいたけを栽培・販売している会社が作った、その名も「椎茸ガリリン」です。
ミルでひいてパウダー状になったしいたけの軸は、味噌汁やサラダだけでなく、さまざまな食べ物にしいたけのうまみをプラスしてくれるそうです。

松下幸平 専務

椎茸ガリリンの開発を手がけた専務の松下幸平さんです。
5年前に札幌から妻の実家である久慈市に引っ越し、しいたけの栽培を始めました。

きっかけはBBQ

 松下さんがしいたけの軸に目を向けたきっかけは、地元のバーベキューでした。
焼きしいたけ。
でも、みなさん傘の部分しか食べていなかったそうです。

大矢内きのこ園 松下幸平 専務
「バーベキューに参加した際に、しいたけを焼いてパクッと傘の部分だけ食べて、軸が捨てられてしまうというシーンがあった。食べられる部分なのに捨ててしまうっていうのはもったいないなと思っていた」

確かにすき焼きやしいたけの肉詰めなど、しいたけ料理はたくさんありますが、軸の部分ってあんまり食べた印象はないですよね。
でも、この軸がおいしいそうなんです。

日常のひらめき

乾燥させたしいたけの軸

松下幸平 専務
「たまたま使い切った岩塩のミルがあったので、そこに乾燥したしいたけの軸を入れてみたら、思った以上に甘い香りがして風味のいいものができあがった。これはいけるかなと」

ミルの中に入れたしいたけの軸をガリガリとすり潰す。するとなんとも甘い香りがしたそうです。 
乾燥させたしいたけは、生のものよりもうまみや栄養が凝縮されているといいます。
軸だけですり潰したところ、傘の部分を一緒にした時よりも、まず色味が白っぽくきれいに。さらに甘み・風味ともに、傘の部分を入れた時よりも強く感じたといいます。

地元の道の駅などで販売したところ、評判は上々で、「なににかけて食べたらいいか」という声も寄せられているようです。
ちなみに松下さんのいちばんのオススメは「塩+ガリリン+ごはん」。甘みと風味が際立つそうです。また近所の人からは納豆に混ぜるとふわふわになっておいしいという声を寄せられているということです。

松下幸平 専務

松下幸平 専務
「しいたけの軸は、ほかのしいたけ生産者の方も含めて、ほとんど捨てられている方が多い。
最終的にはそういった捨てられるものも弊社でもいいので、それを仕入れてすべて活用できたらと考えている。加工して悪くならない商品になるので、海外にも持っていけたら最終的にはいいなと思う」

多様な“豚肉”を食卓へ

 二戸市でこだわりのブランド豚を生産・販売している会社では、ことし新たなブランド豚の販売をはじめました。

飼育されている母ブタ

注目したのは、ブランド豚のお母さん、「母豚」です。
母豚は何度か子豚を産み、育てたあとに出荷されていましたが、飼育期間が通常の豚に比べて長く、肉質が硬いなどの理由から通常の豚肉の半分以下の安値で取引されていました。
この母豚に注目したのには理由がありました。

久慈剛志 社長

久慈ファーム 久慈剛志 社長
「いちばんの大きな理由は、餌代が高いということ。自分たちが飼育している餌は、輸入に頼っているのですが、その価格が3年前の倍ぐらい高い。これをどうにかしなきゃという思いがあって、これを乗り切る方法の1つとして母豚に注目。今まで価値が付かなかった母豚を自分たちで販売したいというのがきっかけでした」

特徴をどう生かす?

ブランド化するうえで苦労したことは、母豚の特徴である硬い肉をどうアピールするかでした。
一般的に柔らかい肉がおいしいと言われている中で、母豚の肉は、硬く歯ごたえがあります。
社内で検討を重ね、母豚ならでは“歯ごたえ”を隠すのではなく、逆に個性としてアピールすることにしたのです。
「噛めば噛むほど味わいが出てくる」、「おそ咲きノ豚」というブランドで商品化しました。

久慈剛志 社長
「いちばんの特徴は歯ごたえ。歯ごたえを楽しむとか、そういう豚肉があってもいいと思う。科学的に調べると、アミノ酸値は一般的なブタより1.7倍ぐらいあることがわかっていて、それをどういうふうに伝えるか、どういうふうな形で知っていただくか、硬さが受け入れられるのかといういろいろな葛藤を、社内で検討を重ねた」

通常のブランド豚と今回ブランド化した母豚を食べ比べしてみました。
通常のブランド豚は口に入れてかんだ瞬間に、硬さを感じるまでもなぐ、じゅわ~っとうまみがあふれ出てきました。
一方、母豚は、まず見た目が大きい。ブランド豚1頭の精肉はおよそ50kgなのに対し、母豚は100kg。コストパフォーマンスに優れ、サイズ感をいかしたメニュー展開が可能だそうです。
ギュッギュッとした歯ごたえに加え、文字通り噛めば噛むほどうまみがあふれ出てきました。

母ブタで物価高騰をぶった切る

独特の歯ごたえと味の濃さが特徴の母豚。
部位によってはこれまでの母豚の倍の値段で売り出しています。
それでも、これまでにない豚肉として消費者に選んでもらうことで、厳しい経営環境を乗り越える切り札になればと考えています。

久慈剛志 社長
「肉の業界も多様性が求められるというか、いろいろな肉があっていいと思うのです。個性があっていいと思うのです。柔らかいだけじゃない、サシが入った牛肉じゃない、そういう多様性のある肉を提案して、“おそ咲きノ豚”はやっぱりいいねって言っていただけるように頑張りたい」

  • 川原玲奈

    NHK盛岡放送局 記者

    川原玲奈

    2023年入局
    岩手県金ケ崎町出身
    警察・スポーツ担当
    剣道四段

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