小山怜央四段インタビュー プロ1年目を振り返る
- 2023年12月22日
岩手県釜石市出身のプロ棋士・小山怜央四段。同県出身者として初のプロ棋士です。
ことし2月に「プロ編入試験」を見事突破し、戦後初めて、プロ棋士養成機関・奨励会を経験せずにプロになりました。プロとして歩み始めた2023年を振り返ってもらい、現在地を聞きました。
小山四段に伺った私、黒澤は将棋にハマっておよそ3年。一向に強くはならないけど(泣)、将棋愛は負けない。放送では伝えきれなかった小山四段の言葉をここに詰め込みます!
※この記事は12月14日の番組インタビューなどから構成されています。
「強くなるには…20代後半ってギリギリのライン」
(黒澤アナウンサー)
まずはこの1年、振り返っていかがですか。
(小山四段)
本当に、いろいろあった1年だなと思います。編入試験第4局に勝ってプロになれた、これは一番うれしかったですね。長期間頑張ってきたことが結果になったということで本当にうれしく思います。
小山四段は先月(11月)初めての本を出版。タイトルは『夢破れ、夢破れ、夢叶う』です。
(小山四段)
「奨励会を、ざっくり言うと2回受けて、落ちて、今回プロになった。なのでそういうタイトルをつけました」。
プロ棋士になるには、原則として、棋士養成機関である「奨励会」に合格し、26歳までに「四段」に昇段することが必要です。小山四段は中学生のとき、奨励会入会試験にチャレンジして不合格。さらに「アマチュア名人」のタイトル獲得後、大学を休学してまで挑んだ奨励会の編入試験も通りませんでした。
そんななか、去年 「対プロ戦での勝利数」などの厳しい条件などをクリアして、プロ棋士編入試験の受験資格を獲得。挑戦の過程で、勤めていた会社も退職して研究に専念しました。そして3勝1敗で見事編入試験を突破し、当時29歳、3度目の挑戦で夢をかなえたのでした。
(黒澤アナウンサー)
会社を辞め、安定した生活を断ってのチャレンジでした。今振り返ると?
(小山四段)
確かに今考えるとよく決断したなと思う部分もあるんですけど、やっぱり当時は、将棋が強くなるためには20代後半って結構、ギリギリのラインかなと思っていて。会社辞めて頑張れば強くなれるかなと思ったので、それで決断したっていうのもありますね。
(黒澤アナウンサー)
中学生でプロになった皆さんはそうそうたる棋士ばかり。やはり早熟の世界なのですか?
(中学生棋士となったのは、加藤一二三九段、谷川浩司十七世名人、羽生善治九段、渡辺明九段、藤井聡太八冠の五人)
(小山四段)
そうですね。確かにやっぱりプロになったのは、ちょっと他の人よりは遅いと思うんですけど、だからこそ、周りの人にも頑張れるんだということを伝えられるかもしれないので。そこは頑張りたいと思いますね。
プロとして戦ったことし 苦しい結果をどう見る
(黒澤アナウンサー)
5月にあったプロ初戦は見事勝利を飾りましたね。
(小山四段)
最初よければ、ということもありますので、勝って安心しました。(対局室に報道陣もたくさん来ていて)さすがに多くてびっくりしましたね(笑)。
しかしその後の小山四段は苦しい時間が続き、ここまで公式戦で3勝6敗。
3連勝と調子を上げた時期もありましたが、なかなか結果が出ていません。
(小山四段)
やっぱり全体で見るとちょっと負けすぎかなと思うんですけど、普通に勉強不足だなって思うところもあれば、ある局面で決断を間違えた対局もあり、さまざまですね。どの対局もやっぱり敗因はありますし、そこはしょうがないのかなと思いますね。
(黒澤アナウンサー)
「アマチュア同士」で戦う勝負との違いはありますか?
(小山四段)
例えばアマチュアの人に負けたりすると、プロがアマに負けたという構図になるので、その責任というのは少し違ってくるのかなとは思います。ただ、そのプレッシャーというのはそこまで感じていません。
(黒澤アナウンサー)
プロと戦う、という点ではどうでしょうか。
(小山四段)
心境の違いはそこまで大きくないんですけど、アマチュアのときほうが思いっきりぶつかろうといいますか、そういう気持ちにはなれますね。でも、アマチュアでもプロでも、負けたときの悔しいっていう思いはずっと変わらないです。
小山四段の今の目標は、将棋界で最も歴史のあるタイトル「名人」を争う「順位戦」への参加です。 現在、小山四段は「フリークラス」。「順位戦」参加のためには、「良い所取りで、30局以上の勝率が6割5分以上」などの条件を達成しなければなりません。達成のためには、タイトル戦のトーナメントなどで勝利を重ね、対局数も増やす必要があります。
(黒澤アナウンサー)
アマチュアとプロで、勝負における一番の違いはなんでしょうか。
(小山四段)
まずは持ち時間が全然違うので、戦い方もちょっと変わってきます。プロは持ち時間が長いので、やっぱり正確性が求められるんですね。アマチュアの場合は短時間でいっぱい指すので、正確性というよりは自分の得意な形に持っていって、勝ちきるのが得意な人が有利、みたいなとこがあります。(アマチュア時代は)結構無理やり自分の得意な形に持っていったりしていましたし、やっぱり持ち時間が短いからこそできる戦い方をしてました。
(黒澤アナウンサー)
プロになると、自分の得意な戦法に100%持っていけるとは限らない?
(小山四段)
持っていけても、なんて言うんですかね…戦法としては妥協しているんですよ。自分で無理やり得意な戦型に持っていく代わりに、そんなに優秀じゃない作戦と言われていたりするもの(になること)もあります。
(黒澤アナウンサー)
具体例はありますか?小山四段の得意戦法の一つ、角換わりなどでは?(序盤に大駒の「角」を交換する戦法。プロでもよく指され、研究が進んでいる)
(小山四段)
そうですね、角換わりにもっていきたかったら、自分から角を交換すればいいじゃないですか。でもそうすると、自分から交換するぶん、一手損をする。その(一手の損の)差はプロでも、もちろんアマチュアでももちろん大きいんですけど、持ち時間がいっぱいあったりすると、じっくり考えられて、しっかりとがめられたりします。
仲が良いのは〇〇先生…東北棋士でつながる
(黒澤アナウンサー)
プロになって、想像と違ったことってありますか。
(小山四段)
意外と皆さん、仲いいですよ(笑)棋士同士の交流とか、結構あります。私自身はまだなりたてなのでそこまで交流はないですけど、阿部光瑠七段とかは昔からお世話になっていて、将棋を教わったりもしています。
(黒澤アナウンサー)
阿部七段は東北(青森県)のご出身ですよね。
(小山四段)
そうです。同じく東北(宮城県)出身の中川大輔八段にも編入試験のあとにお祝いしていただいたり、お世話になっています。東北人同士、出身地っていう1つのつながりで仲が深まったり、通ずるところがあるかもしれないですね。
宮古での叡王戦 藤井八冠に学ぶこと
2023年の将棋界。前人未踏の活躍をみせたのは、藤井聡太八冠。史上初の八冠達成に向けて、その対局に大きな注目が集まりました。
小山四段に、対局以外で印象に残った仕事を聞くと…
(小山四段)
やっぱり叡王戦の大盤解説の仕事は、すごく自分の中では大きな仕事でしたし、本当に印象に残っています。
ことし5月の叡王戦第四局は、岩手県宮古市で開催。小山四段の地元・釜石市と同じ、岩手県の沿岸にあります。
小山四段は現地の解説を任され、当時の藤井六冠が「叡王」を防衛した一局を見届けました。
(黒澤アナウンサー)
藤井叡王と菅井八段との対戦。千日手が二回という大変な将棋でした。
(小山四段)
正直言うと、解説する側ももちろん大変です。でも対局者には当然、そういうことは気を遣わないで対局してほしいという思いがあります。
(黒澤アナウンサー)
藤井八冠の将棋の強さは、どういうところにあるんですか。
(小山四段)
何て言うんでしょう…とにかく正確さが、際立っていると思うんですよね。 少し良くなってから、全然間違わずに勝ちきるというのは、その精度が、他の棋士と比べると本当にすごいところなのかなとは思います。将棋って見えた手の中から選択しなきゃいけないじゃないですか。 その手を選択する際の読みの深さといいますか、裏付けといいますか。 そういうのがすごいからやっぱり強いんだなという…
一方で対局後には、三陸鉄道でのイベントに二人で一緒に参加。
(小山四段)
その時もオフと言えるかどうかちょっと分かんないんですけど、藤井先生は鉄道が本当にお好きで。その時は目を輝かせていて、意外な一面というのは見られたと思います。車両の仕組みから、ダイヤの組み方まで、細かいところをたくさん質問されていた姿を覚えています。好きなものに没頭する姿は将棋にも通じるかもしれないんですけど、とてもにこやかでした。一緒に敬礼したのは…ちょっと恥ずかしいんですけどね(笑)
「やってきた努力を続けていく」飛躍の2024年へ
インタビューの最後に聞いた来年の目標。小山四段が力強く書いた言葉は…「継続」。
(小山四段)
目標ではないんですけど、やっぱり今までやって来たことをずっと継続して、努力し続けるのが大事かなと思ったので、このように書きました。今はフリークラス棋士なので、そこを抜ける、というのが具体的な目標なんですけど、そのために継続することが大事かなと思います。
インタビューを終えて…
アマチュアからプロへと立場が変わり、環境や練習方法など、たくさん変える必要があるのかな…と思っていた私。それでも小山四段は、今までの練習を継続すれば結果がでるのではないか、と考えていました。その目線には、これまでの自分を支えてきた研究への自信と、さらに厳しいプロの世界を歩き始めている小山四段の覚悟を感じ取ることができました。
来年も小山四段の指す一手一手に注目していきたいと思います。
取材:黒澤太朗(盛岡放送局)
アナウンサー二年目。新型コロナウイルスが流行し始めた2020年、家でも楽しめることから将棋にハマる。好きな戦法は右四間飛車。某将棋アプリでは初段に遠く及ばず、限界を感じている。