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齋藤孝さんが語る宮沢賢治~没後90年「賢治とわたし」~

  • 2023年10月04日

岩手が生んだ偉人、宮沢賢治。2023年9月21日に没後90年を迎えました。
37年という短い生涯でしたが、残された詩や童話900あまりの作品は、時代を超えいまも読み続けられています。
その魅力とは一体何なのか。宮沢賢治を愛し、思いをはせる3人に話を聞きました。

教育学者・齋藤孝さん

明治大学文学部教授の齋藤孝さんは、日本語教育という観点から宮沢賢治の表現方法について論じた研究書や、音読書として子ども向けに宮沢賢治の童話を再編集した書籍を出版するなど、長年賢治に注目をしてきました。

実は、今回インタビュアーを務めた山口瑛己アナウンサーは、大学時代に齋藤さんの授業を受けたことがあるそうで……。

山口瑛己アナ

教育学者としてNHKの「にほんごであそぼ」の総合指導も務めていらっしゃいます、齋藤孝先生です。よろしくお願いします。

齋藤孝さん

よろしくお願いします。

実は、齋藤先生、私は大学時代お世話になりまして、 教育実習の指導などもいただきました。

ですよねぇ。懐かしいですね、よく覚えています。

SDGsは宮沢賢治もとなえていた!?

先生は授業の中でも宮沢賢治の作品や詩について触れながら教えて頂いた記憶があるのですが、賢治の魅力、具体的にはどういうことなんでしょう?

賢治って光の当て方によって本当にいろんな面があると思うんですよね、詩人であり、童話作家であり、そして教師でもあり、そして羅須地人協会を作ってやっていく実践者でもあって。

さまざまな面があってその真ん中を太い“こころざし”の矢がド〜ンっと通ってるようなね、それがすごい魅力ですね。

“こころざし”っていうと?

これは小学生の時なんですけど、『よだかの星』を読んですごい衝撃を受けたんですね。

宮沢賢治の童話『よだかの星』は、「よだか」という容姿が醜い鳥が主人公のお話。

ほかの鳥から嫌われていたよだかは、あるとき鷹に脅され殺されそうになり、巣を飛び出します。

そうして、空を飛び続けるよだかですが、虫を殺して食べながら生きようとする自分自身に苦しみを覚えるのです。

ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。(中略)ああ、つらい、つらい。僕はもう虫を食べないで飢えて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。

                               『よだかの星』より

このままじゃ自分も食う側に回ってしまう。そうしたときに、落ちていく地上で反転して昇っていって星になる。あれがずっと映像に残ってて。ああ、これ“こころざし”で星になっていくんだって。自分自身が自分の意に沿わないことはしないっていう強さですよね。他人に左右されずというか、ある意味確固たる自分を持つというか。やっぱり、人を利用したり傷つけたりするぐらいだったら違う道を選ぶ。

今、働いている中でも人を利用して傷つけちゃう場合がありますよね。そういうのではない、もっとみんなが傷つかない社会をつくろうっていう、社会に対する賢治の強いメッセージを感じましたね。

今SDGsと言われていて、誰一人取り残さないと言ってますけど、宮沢賢治は世界全体が幸福にならないうちは自分一人の幸福はありえないって言ったんですからね。 SDGsでいろいろ言われていることって賢治が凝縮して言っているという感じがしますね。

新しい世界の感じ方を教えてくれる賢治の言葉

先生は教育学者として、賢治の表現についてどう捉えていますか?

賢治は、自分自身も教育者であって、世界というものをこういうふうに楽しめるんだよという事をみんなに知らせてくれたと思うんですね。 例えば、「にほんごであそぼ」で扱わせてもらったのは“どっどどどどうどどどうどどどう”、『風の又三郎』ですね。

怪しいものがやってくる、又三郎がやってくるって感じがありますね。風がピューピューではなくて“どっどどどどうど”と読むことで、読者の風の感じ方が変わるんですよね。だから宮沢賢治は詩や童話で世界をこういうふうに感じることができるんだよっていうことを教えてくれている。

ほかにも、先生が好きなフレーズはありますか?

例えば、有名な『雨ニモマケズ』でしたら、「アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ」。これだけでも深いですね。やはり自分を勘定に入れないっていう事によって、物事がすっきり見えるんですよね。 よく見聞きし分かりだから明晰なんです、でも“でくのぼう”と呼ばれてもいい。 こういうあり方っていうのは、祈りなんだなって。こういう風に生きたいという祈りなんだなということが伝わってきますね。

「にほんごであそぼ」でも、これを使わせてもらったら全国の子どもたちが覚えているんですよ。結構長い詩なんですけど覚えたくなるんですね。賢治の魂が子どもたちに伝わるんだなと感じましたね。

教師としての宮沢賢治

賢治は教師でもありながら、詩人でもあり、作家でもある。様々な顔を持つ賢治について、先生はどう感じていますか?

教師としての賢治というのはすごくひかれるんですね。 この大事なものをみんなに伝えたい。一方的にというよりは、一緒にいろんな実習に行って、これがそうだよ、みたいな感じで教えている時の賢治はとても生き生きとしているんですね。

私も学生たちの教員養成しているとき、教師になる学生たちに宮沢賢治の詞を朗読してもらうんですよ。「この四ヶ年が わたくしにどんなに楽しかったか わたくしは毎日を 鳥のやうに教室でうたってくらした」って。これ賢治が言ったんですよ。「誓って云ふが わたくしはこの仕事で 疲れをおぼえたことはない」って。これが好きなんですよね。

教育実習の最後、私も一緒に読みましたね。

僕が山口君を教えたときは疲れを覚えたことが無いからね(笑)

賢治とは?

齋藤先生にとって、賢治とは?

“自然・宇宙との出会い方を教えてくれる先生”ですね。私たちは普段生きていても意外と出会っていないんですよね、自然、宇宙と。こんな形で地・水・火・風、ぜんぶと通じてつながれるんだ。それはどうやってかと言うと、想像力でつながれるんだよってことを学ぶことができる。この世界は宮沢賢治のおかげで非常に豊かになりましたね。

もっといい世の中にしたいという“こころざし”が、ただ社会変革という形じゃなくて、自然宇宙というものと私たちがどう向き合っていくのか、という大きな課題とともにその“こころざし”を進めているとこがいいですよね。

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