ジェンダーのモヤモヤ 語り合う場
- 2023年07月03日
6月は岩手県の男女共同参画推進月間でした。
多様性を尊重する今の時代、ジェンダーの平等が求められています。
「ジェンダー」について今一度、考えてみませんか?
盛岡市内にはジェンダーに関してモヤモヤを抱える人たちが集まって日常生活で感じる違和感や悩みなどを語り合う場があります。 その名も「ジェンダーカフェinもりおか」。
仕事や学校、恋愛、家事、見た目など 毎回異なるテーマについて月一回ほど語り合っています。
今回は「婚姻制度」について5人で話し合った会を取材しました。
(NHK盛岡 キャスター 中條奈菜花)
主催は大学生と社会人の女性
大学生の遠藤諒子さん(19)は、中学生の頃からいわゆる女性らしい服装に違和感を覚えていました。制服で男女がはっきりと分けられしまうことが嫌で、私服の高校に進学したものの、それでもモヤモヤが残りました。
遠藤諒子さん
男子生徒に任せる仕事と女子生徒に任せる仕事に差があったり、セクシャルマイノリティの人を考えない発言があったり、私服でも男女ごとの規制や注意点があったり、普段の生活の中でモヤモヤすることがありました。
以来、遠藤さんはジェンダー関連の本を読み始め、大学に入学すると委員会活動を通じて、学生どうしで語り合ったり、イベントを開催したりすることでジェンダーに対する考えを深めてきました。
社会人の濱田すみれさん(38)は、10代後半から20代前半の頃、特に恋愛をする際、ジレンマがありました。
濱田すみれさん
その頃は雑誌でも女性はこうあるべきというジェンダーロール(性的役割)が結構強くあったと思っていて、その理想とされるものにはなれないけれど、恋愛には必要なんだろうと葛藤があって苦しかったです。
これまで10年間東京でNGO団体に所属し、国内外で女性の地位向上を訴えるなどジェンダー平等を目指して活動をしてきました。
3年前、濱田さんは岩手で大学職員として働き始め、遠藤さんと出会います。
多くの人と日常のモヤモヤを共有しようと、ジェンダーカフェを2022年11月から月一回のペースで開くようになりました。
今では毎月、社会人や学生など男女問わずさまざまな境遇の人たちが集まって語り合っています。
今回は、遠藤さんと濱田さんのほか、
社会人のゆきのさん(24)、大学生のソラさん(19)といつきさん(20)が参加しました。
安心して話せる場であるために
この場では本名を名乗る必要はありません。呼んでほしい名前で話し合います。
そして、安心して話せるためにルールを設けています。
1.参加者の個人が特定できるような話は別の場所では話さない
2.すべての参加者が発言できるように一人で話し続けない
3.相手の考えを否定しない(考えが違う場合は自分がどう思うか伝える)
4.言いたくないことは言わない、無理やり聞かない
このようなルールをはじめに共有していました。
結婚したい?したくない?
ズバリ、結婚したいかしたくないか。婚姻制度という観点から話し合いました。
どちらにしろ、誰もが生きやすい社会であってほしいという意見が多く聞かれました。
結婚自体はしたいと思いますが、日本の法的な整備が十分ではないと感じていて、結婚にまつわるいろいろなことを聞いてげんなりすることが多いです。
私自身はあまり一緒に人と常にいたいと思わないので、自分は一人家族で、一人だけ家族メンバーでやっていくだろうなと思っています。
いざ結婚したい時に、自分がいいなと思った人が仮に同性だった場合、(結婚など)次のステップに進んでいけないのがモヤモヤします。
結婚したい人がいればしたいです。だけど、恋愛しなければならない、家族になるにはそういう関係性が必要、前提とされているのは苦しいなと思います。
結婚や子供がほしいなどの気持ちはないけれど、一緒に過ごしていきたい人が現れたら、不利なことが起きない世の中になったらいいなと思います。
広がるパートナーシップ制度
パートナーシップ制度の話題にもなりました。
パートナーシップ制度は、LGBTQと呼ばれる性的マイノリティーのカップルや異性同士の事実婚など、法律上は結婚できない人たちを結婚に相当する関係と公的に認める制度です。
この制度を導入する自治体は全国で徐々に広がっていて、その数は240にのぼっています。
岩手県内ではこれまで一関市や盛岡市に導入されました。
この制度が広まってきていることを評価する一方、 場所に依存してしまうことや法律的効果がないことなど、課題も上がりました。
問題は山積みなんだと、導入されたことで明らかになったことが多いと思います。
住む場所が変わってその地域に制度が導入されていなければ、パートナーとの社会的なつながりが途切れてしまうのが課題です。
今は岩手に住んでいるけれど出身は宮城。宮城県ではどこの自治体も一切認められていないのが実情です。
パートナーシップ制度は法律的効果が生じるものではありませんというのがすごく気になりました。結婚はある意味法律的効果を持つようにする制度で、男女カップルならできるのに同性カップルには認めないというのが引っかかってしまいます。
配偶者控除など税制上の優遇は受けられないし、病院での面会も自治体や病院の判断によるかもしれません。さまざまな権利がないと感じます。
同性婚も実現できる世の中へ
パートナーシップ制度が認められたことがゴールではない。
同性婚の実現が遠ざかってしまう可能性があるといった声も上がりました。
パートナーシップ制度は同性婚の合法化に向けて第一歩になるはずなんですけど、これで満足してゴールとしてとらえられてしまって、合法化はいらないんじゃないかという流れになってくるのが個人的不安です。
当事者がわざわざ勇気を出さなくても背中を押してくれるのが法律制度だと思います。同性婚は早く議論が前に進んで成立してほしいです。
現行の結婚制度ですでに結婚している方から同性婚の制度がなくていいんじゃないと言われて矛盾を感じました。矛盾と思わないくらいの社会の風潮もあると思います。
世の中の風潮へのモヤモヤ
参加者の多くが感じていたのは、世の中の風潮へのモヤモヤです。
・結婚して子どもを産むのが当たり前
・同性婚は生産性がない
・夫婦は同じ苗字でなければならない
こうした何気なく投げかけられる言葉たち。 参加者たちは実際に感じている思いを話してくれました。
結婚して子どもがほしいけど自分たちではできない人もいらない人もいます。私は結婚も考えていなければ子どももほしいという次元じゃないので生きるのはハードルが高いと思いました。
子どもを産まないことで少子化が進むと言われていますが、同性婚が認められていないからといって、同性愛者の人が異性と結婚して子供を産む数はかなり少ないと考えます。
自分に関係ないことなのに止めたがる人が世の中すごく多いんだと感じます。
特に人の結婚について、パートナーについて、周囲で言いたがる人が多いです。夫婦別姓の問題も当事者はよくないと言って(選択的夫婦別姓制度を求める)裁判も起こしているのに、これで十分だと言うのは納得できません。
安心して話せるひとつのよりどころに
ふだん身近な人となかなか話す機会のないジェンダーの話。
1時間半にわたって語り合った参加者たちは何を感じたのでしょうか。
ふだんは自分ひとりで考えたりインターネットで情報集めたりすることが多かったので、自分の中で考えたことを口に出すことで整理できて、意見交換を対面ですることに意味があると感じています。
自分と似た考えを持っていることが嬉しかったですし、自分にない考えもあるなと刺激になって楽しかったです。
ジェンダーに関して話し合える場はなかなかないので、貴重な機会で、ひとつの居場所ができたなと感じています。
ジェンダーカフェのこれから
現在、新しく参加してくれる人も継続して参加してくれる人もいて、 自分のモヤモヤを話せる場所があるということを 徐々に知ってもらっているという状況だという「ジェンダーカフェinもりおか」。
今後は勉強会なども企画しながら、活動の輪をもっと広げていきたいとしています。
濱田すみれさん
自分だけが変なんじゃないかとか自分だけが悩んでいるんじゃないかと思う人はすごく多いと思います。社会が大きく変わらなくても、仲間がいて安心してしゃべれる空間があれば生きていけるし、前向きになることもあると思うので、大切な活動としてやってきています。
遠藤諒子さん
みんなでお茶を飲みながらお話しする場を継続していきたいということもありますし、勉強会や講演会など新しい活動を通して知識をつけたり制度を知ったりそういう場所も企画していけたらなと思います。
取り組みについて詳しくは、「ジェンダーカフェinもりおか」のホームページやSNSをご覧ください。(NHKサイトを離れます。)
【HP】https://gendercafeinmorioka.wordpress.com/
【Twitter】https://twitter.com/moriokagencafe
【Instagram】https://www.instagram.com/moriokagendercafe/
取材後記
私が「ジェンダーカフェinもりおか」の存在を知った時、純粋に参加したいと思いました。言語化できずにモヤモヤしたままにしていることが自分の中にあることに気づいたからです。実際に参加してみると、初めて会った人たちなのにどこか安心できて、たくさんの共感や発見が生まれる場所でした。このような場があるということを一人でモヤモヤを抱える人たちに知ってもらいたいと思い、本来は公にしない場にもかかわらず、特別に取材をさせていただきました。印象的だったことは、取材先の皆さんが快く取材に応じてくれたことです。覚悟を持って思いを伝えたいという強い意志を感じました。
日常のモヤモヤ、特にジェンダーに関してのモヤモヤは気軽に人に話せないという雰囲気があると思います。家族のあり方や常識と言われるものは時代とともに多様化していますが、大多数がしていることを選択しないというのはまだまだ勇気がいること。かけがえのない自分を大切にするために、自分は一人ではないと思えることが必要です。「ジェンダーカフェinもりおか」はこれからもさまざまな人がつながる場所になっていくと感じました。