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税負担が増える!? 実家を「管理不全空家」にしないための方策とは?

今年3月いわゆる空家特措法の一部を改正する法律案が閣議決定され、今の国会での審議を経て成立する見込みです。最大のポイントは「管理不全空家」という区分が新設されたこと。所有している空き家が、自治体に「管理不全」と指定されてしまうと、税負担が最大6倍に上がる可能性があるといいます。一体、「管理不全」とはどんな状態を言うのか、相続した実家など、所有する物件を管理不全空家にしないための方策は?国交省の住宅宅地分科会空き家小委員会で委員を務める齊藤広子さんに聞きました。

空き家専門家 齊藤広子 横浜市立大学 空き家小委員会 
齊藤広子さん/横浜市立大学国際教養学部教授 不動産会社勤務等を経て2015年より現職。専門は不動産学、不動産マネジメント論

1:管理不全空家とは? 

ー「管理不全空家」とは、どういう空き家なのでしょうか?

齊藤さん

今回の法改正の狙い・心は「手遅れになる前に」です。空き家対策を巡って国は2015年の空家特措法の施行時に「特定空家」という概念を作り、放置すると倒壊する危険性が高い物件を指定することで、自治体が所有者に対して除去や修繕などの措置をとるよう助言・指導できるようにしました。「勧告」の段階で税の優遇措置が解除され、それでも改善されない場合には行政代執行という強制撤去まで進みます。

指定され後のフロー
齊藤さん

一定の成果はあったものの、増え続ける空き家に対応が間に合っていません。また特定空家とは「倒壊等著しく保安上危険となる恐れ、著しく衛生上有害となる恐れ、著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」とされ、この状態になったあとに自治体が介入しても所有者の特定が難しかったり、解体撤去するにも費用がかさんでしまう等の課題がありました。

新設の管理不全空家の狙い
齊藤さん

今回、新設された「管理不全空家」「放置すれば特定空家になる恐れがある空き家」とされています。すなわち強制撤去するしかないような状態に陥る前に、自治体が介入できるようにして、所有者に対して管理の意識を促し、場合によっては譲渡や賃貸に出す等の有効活用につなげようというのが今回の法改正の狙いです。

2:管理不全空家に指定されたらどうなる?

ー管理不全空家に指定されたらどうなるのでしょうか?

齊藤さん

固定資産税の住宅用地特例が解除されます。多くの人は気づいていませんが、実は住宅やアパートとして利用されている土地、いわゆる「住宅用地」は、固定資産税の特例措置が適用されており評価額が基本的に6分の1に、200平方メートルを超える部分については3分の1に圧縮されています。つまり特例が解除されると税負担が最大で6倍に膨らむケースが出てきます。

3:どんな状態が「管理不全」?

ー空き家がどんな状態になったら「管理不全」とされてしまうのでしょうか?

齊藤さん

国は法案が成立すれば、市町村の判断に資するよう管理不全空家のガイドラインを策定するとしています。現時点では、既にある特定空家のガイドラインを元に考えると以下のような状態が想定されます。

管理不全空家の要件 特定空家との違い
想定される「管理不全空家」の状態
齊藤さん

この表の項目は一部であり、さらに2023年5月時点での私の想定ですが、外見上は一部の破損であっても、周りへの悪影響があると見なされた時点で「管理不全」とされる可能性があります。法案の狙いは「手遅れになる前に」所有者の意識を向上させることや有効活用なので、行政が早めに指導や介入ができる要件になると思います。

4:「管理不全」とされないためには?

ー「管理不全」とされないためには、どうすればいいでしょう?

ポイントは以下の3つです。

(1)親の意思を確認しておく

(2)利活用の道を探る

(3)定期的な管理・点検を怠らない 

4-(1):親の意思を確認しておく

ー(1)親の意思を確認しておく、とはどういうことでしょう?

齊藤さん

実家に対する思いは兄弟や姉妹によって、それぞれ違います。また中には、相続の権利がない親の兄弟や親戚が「実家」をどうするかについて、口をはさんでくるケースもよく聞きます。それぞれの立場や意見が異なった場合でも事前に親の意思を確認しておけば「最後は親がこう望んでいたよね」ということで議論を収める方向性が見えてきます。


神奈川県居住支援協議会のHPに「空き家にしない 「わが家」の終活ノート」が掲載されています。親の意思確認ができるチャートの他「生前に売却・贈与する場合」「死後、家族が相続する場合」など様々なケースに対して、それを実現するための必要書類や相談先等なども記載されています。これを元に親や兄弟と相談しておくのもいいかも知れません。

齊藤さん

「亡くなったあと家をどうしたいか?」を生前の親に聞くのは少々つらいことかも知れません。でも私は「実家の終活」を手伝うことも、大切な親孝行の一つではないかと思っています。

4-(2):利活用の道を探る

ー(2)利活用の道を探ること、それはなぜでしょうか?

齊藤さん

空き家の所有者になった場合、売却や居住する予定がなければ、誰かに使ってもらう「利活用」という選択肢を排除しないことが大切です。人に貸すのはちょっと不安、手続きが面倒という気持ちも分かりますが、何となく空き家にしておくことは避けるべきです。空き家はあっという間に劣化していきます。私の知るケースでは、空き家になった後、1年をまたずに水漏れが発生し近所からクレームの連絡が来た、ということがあります。劣化が進むことは資産価値が低下していくことで「いざ売りたい」「貸したい」と思ったときにはニーズがなく、手遅れという状態になりかねません。


また利活用の道を探らない理由として「うちの実家は地方だから」とか「駅近でもない郊外のニュータウンだから」という声もよく聞きます。空き家問題は人口減対策など総合的施策が必要なので、利活用といっても一筋縄でいかないことも理解しています。一方で、勝手な思い込みからチャンスを逃すケースがあるかも知れません。


私が視察した大阪の泉北ニュータウンは空き家の利用が取り合いになっています。戸建て住宅が並ぶニュータウンは貸しスペースが少なく、パン教室やヨガ教室などコミュニティビジネスを開きたいと思っても適当な物件が少ないそうなんです。また埼玉県の鳩山ニュータウンでは、近隣に大学のキャンパスが増えたことに目をつけ、5LDKの戸建てを学生向けのシェアハウスにした例もあります。


今、どこの自治体でも定期的に空き家相談会を開いたり、相談窓口を設けているはずです。是非、最初の一歩を踏み出し、どんな可能性があるかを相談してみることをお勧めします。想像もしなかった利活用先が見つかるかも知れません。

4-(3):定期的な管理・点検を怠らない 

ー(3)定期的に管理・点検をすることは、やはり大切なんですね?

齊藤さん

とても大切です。将来、誰かが住む可能性があったり、売却や利活用がうまくいかない時でも、定期的な管理や点検は欠かせません。実家が遠方だったり定期的に帰省するのが難しい場合は、民間のサービスを利用するのも一つの手です。最近では空き家の巡回点検や掃除などを代行してくれる業者も増えています。また、ふるさと納税の返礼品として福岡県の太宰府市や香川県小豆島の土庄町、神奈川県二宮町等では空き家管理サービスを選ぶことが出来ます。実家のある地域には「どんなサービスがあるのか」「料金はいくらぐらいか」を少し調べておけば、いざという時の安心にもつながります。ぜひ、空き家になる前に一度しっかりと向き合ってみることをお勧めします。

5:もし管理不全空家に指定されたら、どこに相談?

ーもし管理不全空家に指定されてしまったら、どこに相談すればいいでしょうか?

齊藤さん

空き家のある自治体です。現行の特定空家の場合もそうなのですが、ほとんどのケースでは「管理不全空家」と指定される前に、自治体から「このまま放置すると指定しますよ」という連絡がくるでしょう。その時点で、自治体の担当部署と今後の方針を相談することになります。


今回の改正のもう一つ大きなポイントは「民間活用」です。「支援法人」という制度が新たに設立され、行政が委託した民間企業やNPOなどが窓口となって、より具体的なアドバイスや支援ができるようになります。


東京・世田谷区では、この先行事例とも言える取り組みを始めていて、ベンチャー企業と共同で相談窓口を作り、民間の「空き家専門アドバイザー」が活躍しています。アドバイザーは、所有者一人一人の希望を聞き、相続に悩む人には弁護士、賃貸に出したい人にはリフォーム会社や不動産会社をつなぎながら、個別の解決プランを作り上げます。所有者の料金負担はなく、会社は修理や解体を担った企業から紹介料を受け取る仕組みです。

法律の改正後は、この世田谷区のように所有者の気持ちに寄り添った取り組みが全国に広がっていくことが期待されています。

最後に「実家が管理不全空家に指定されてしまわないか」不安に思うみなさんに、何から始めれば良いか、齊藤さんからアドバイスを頂きました。

齊藤さんは「空き家になる前から空き家対策をしておくことが結果的に手間も費用も少なくてすみます。まずは実家のある『自治体名』と『空き家対策』の2単語でネット検索をしてみてはいかがでしょうか。思ったより沢山の支援策や相談会、サービスがあることが分かり、漠然とした不安が解消されるのではと思います」

先送りすれば、どんどん解決の選択肢が減っていく空き家問題。
「管理不全」と指摘される前に、まず一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

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