
“つらいことを乗り越えるために、ユーモアを” 南部・ミコライウ市長
水道水がない生活が1か月。30キロ離れた場所ではロシアとの戦闘の最前線になっているというのに、男性は不思議と笑みを絶やしませんでした。南部の港湾都市ミコライウのオレクサンドル・センケービッチ市長は「つらいことを乗り越えるために冗談を言い、ユーモアで受け止めようとしています」と語り、常に人々を励まそうとしているのです。視線の先には、ウクライナの「未来」がしっかりと見据えられていました。
“あなた方を排除しませんよ” ユーモアたっぷりの市長
オレクサンドル市長はウクライナの国旗を背景に、ゼレンスキー大統領のトレードマークと同じオリーブグリーンのシャツを着てオンラインの画面に登場しました。
インタビューの冒頭、私たちは「ウクライナ語は使えないので、ロシア語でお話ししてもいいですか」と伝えました。
すると笑いながら「かまいません、そんな理由であなた方を排除したり“脱ナチス化”したりしようとは思いません」と答えを返してきました。
プーチン大統領やロシア政府がウクライナに対し「ロシア語を話す住民が迫害されている、“脱ナチス化”しなければならない」といった主張を繰り返しているのを、ユーモアたっぷりに皮肉ったのです。
私たちは軍事侵攻の開始から多くのウクライナの人に話を聞いてきましたが、思わず声をあげて笑ってしまったのは初めてのことでした。過酷な状況を笑いで乗り越えようとする市長の姿勢に、すぐに引き込まれました。
ねらわれた「経済の要衝」 住民の半数が街を去った
軍事侵攻前にはおよそ47万人が暮らしたミコライウは、ウクライナ各地からの幹線道路が交わる交通の要衝です。
港の輸出量は全国のおよそ2割を占め、造船の街としても知られてきました。
オレクサンドルさんによると「ソビエト時代の空母も、撃沈されたロシア軍の巡洋艦モスクワもミコライウで建造された」ということです。
軍事侵攻の初日からロシア軍の激しい攻撃にさらされた理由を、オレクサンドルさんは「ウクライナ経済の足下をねらった」と考えていました。
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オレクサンドル市長
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「ウクライナは輸出によって成り立っています。農産物の輸出がGDPの大きな割合を占めています。そのため我が国を経済的に破滅させようと、輸出の可能性をつぶすことが必要だったのです。実際もう海には機雷がばらまかれ、海上の輸送路が使える状態にはありません」

話を聞いたとき、戦闘の最前線は街からわずか30キロほどしか離れていませんでした。
両軍の激しい砲撃戦が続き、ドニエプル川の上流にあった水道設備も砲撃を受けて飲料水が確保できなくなっていました。
そのせいで、すでに住民の半数が街を離れ避難したといいます。
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オレクサンドル市長
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「およそ1か月前に街から73キロ離れた水道管にロケット弾が直撃し、ドニエプル川の水を飲用水として使うことができなくなっています。そのせいでミコライウでは水のない状態が続いていました。別の川から水をひいていますが、塩分が高く浄化する技術がありません。現在は状態を改善できるよう技術的な支援を探しているところです。水がないため多くの住民が街を去りました。水のない生活がいかに困難か、想像いただけると思います」

“どんな戦闘があっても、復興させなくてはならない”
その後も毎日のようにインフラは攻撃にさらされ続けています。何度被害をうけても、オレクサンドルさんや市の職員たちは被害を受けた設備の復旧に当たってきました。
心がけているのが“決して笑顔を忘れないこと”だといいます。
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オレクサンドル市長
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「私たちはアリ塚を作り続けるアリのようです。毎日アリ塚を破壊されて、翌朝には修復を始めるのです。昨夜も電線、ガス、水道管が破壊されましたが、まさに今朝から私たちの技術チームが対応にあたっています。戦争においては、泣くか、笑うかしかありません。私たちはできるだけ泣かないようにしています。困難な状況ですが、つらいことを乗り越えるためにできる限り冗談を言い、ユーモアで受け止めようとしています。私は市長として人々を元気づけなければなりませんし、どんな戦闘があったとしても街を復興させなければならないのですから」
理不尽な現実を前にしながらも、心が折れないオレクサンドルさん。
強い信念を持って戦っていることを、最後まで独特のユーモアを交えて語りました。
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オレクサンドル市長
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「私たちはロシアとは違う生き方をしたいのです。ウォッカを飲むのに明け暮れるような…汚い言葉でごめんなさい、クソみたいな生活はしたくないのです。自分たちの国家を持ち、文明的な世界で暮らしたいのです。この戦争はウクライナとロシアの戦いではなく、世界観をめぐる戦いです。ロシアはソビエト時代に戻ることを望んでいます。皆が同じスタイルで暮らし、自分の頭で考えることもせず、誰かが刑務所の中で生きる世界です。一方ウクライナは自由な暮らしを望んでいます。ウォッカを飲むのか、冷蔵庫を買うのかを自分たちで決められる世界で生きたいのです」