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生理・更年期の不調…女性特有の病気 我慢しないで

「女性特有の症状によって、勤務先で困った経験がある」

経済産業省の調査(2018年1月実施)でそう答えた人は女性従業員の52%。

NHKでも「生理痛があっても鎮痛剤を飲んで仕事をしている」「相談しにくい」という女性職員の声を耳にします。

企業の定期健康診断はメタボや喫煙、飲酒など生活習慣を中心にした体調の変化を調べる内容が多く、男性には十分ですが、子宮や卵巣の病気や乳がんなど女性特有の病気を見つけにくいのが現状です。

早期発見・治療につなげるために何が必要か、取材しました。

(報道局映像センター 早川きよ)

知らぬ間に重症化…卵巣のう種

根岸あゆみさん
根岸あゆみさん

「大みそかの夜に腰や骨盤の周りがすごく痛くなって、痛み止めを飲んでも全然効かなくて眠れないし、『これはおかしい』と思って休日に開いている病院を探しました」

群馬県内の法律事務所で働いている根岸あゆみさん(37歳)は腰回りの痛みに耐えかね、ことし(2023年)の元日、朝一番に産婦人科病院に駆け込みました。

病院で検査を受けると、卵巣に野球ボールほどの大きなこぶのようなものが見つかりました。

卵巣のう腫でした。

根岸さんの卵巣のう種(7.8センチ)のMRI画像 (2023年1月撮影)

根岸さんは2022年9月の生理の時に不調を感じながらも、生理が終わると痛みが消えていたのでそのままにしていたと言います。その後も生理のたびに骨盤周りに痛みを感じましたが、忙しさと「今回だけだろう」という思いから病院への受診を先延ばしにしていたそうです。

根岸あゆみさん

「『病気』と診断されてショックもありましたが、生理の時に痛みが出ていたので『やっぱりそう(婦人科系の病気)だったのか』と思いました。生理のことは人と比較しづらいし、あまり話題にならないので、これが普通なのかそうじゃないのか分かりづらくて、受診の遅れにつながったのかな」

早く見つけていれば薬による治療の可能性もありましたが、あまりに大きくなっていたため4月に手術で取り除きました。

女性特有の病気 早期発見・治療につなげるには

根岸さんは勤務先で定期的に行われる健康診断を欠かさず受けていましたが、今回の病気には気づくことができませんでした。

国が定めている定期健康診断の内容は身長や体重、血糖検査や尿検査などの11項目です。子宮や卵巣の病気、それに妊娠・出産にともなうトラブルを対象にした項目は含まれていません。

根岸さんが受診した産婦人科の佐藤雄一医師は、これまで病院に来たときには症状が重くなっている患者を数多く診てきたと言います。

根岸さんを診察した産婦人科医・佐藤雄一さん
産婦人科医・佐藤雄一さん

「生理の不調をぎりぎりまで我慢したために、病院に来たときには症状が重くなっているという患者さんが少なくありません。学校教育の中で、(本人が)婦人科の病気や そもそも人の体について学ぶ機会があまり多くないと思います。


そこで、会社の健診のときに女性向けの問診票を入れて『月経痛がひどくありませんか?』とか『生理の出血は多くないですか?』といったことを聞いたり、子宮頸がんに加え、子宮や卵巣の状態をチェックするような検査項目が入ったりすると、早期の治療につながり、社会的な仕事のパフォーマンスも上がると思います。さらに将来の妊娠や出産のことも考えると、そういった項目が入っているといいです」

女性特有の病気の早期発見・早期治療につなげるために、佐藤医師は以下のことを提案しています。

●本人が積極的に健康の情報を取得すること
●かかりつけの産婦人科医を持つこと
●企業・組織は健康診断の問診などに生理に関する項目を入れること


いま、根岸さんは職場で生理や自分の病気のことを積極的に話すようにしていると言います。

根岸あゆみさん
根岸あゆみさん

「『我慢できるから大丈夫』じゃなくて、少しでもおかしいなと思ったら受診をしたほうがいいかなと思います。職場でも気軽に話題にして、情報共有したり相手の体調を気遣ったり、そういう理解が男性も女性も広まったらいいな」

婦人科の知識を深める産業医研修

「女性労働者の健康管理」をテーマにした産業医の研修(2023年2月)

“働く女性の健康を守る鍵”として重要な役割を期待されているのが、企業などで従業員の健康管理を担う産業医です。

福岡県北九州市にある産業医科大学は、産業医資格のある医師に婦人科の知識を深めてもらう研修を2023年2月に都内で初めて開催しました。

産業医は内科などが専門の医師が多く、女性特有の病気への対応が必ずしも十分ではないとして、産婦人科が専門でない医師でも女性の不調を見逃さないようにするのが狙いです。

研修の様子

研修ではまず産業医科大学・産婦人科学の櫻木俊秀医師がいくつかの症例を示しながら具体的な対応をアドバイスしました。

例えば 30 代の女性社員から「立ちくらみがあり、ことしの健康診断でヘモグロビンの数値が下がっていた。また 2か月ほど前から月経量が急に増えた」という相談を受けたら、体調不良の裏に子宮の病気が潜んでいるかもしれないリスクを考え、生理の量や変化について詳しく尋ねることが大切と話しました。

講師の産業医科大学 櫻木俊秀医師
産業医科大学 産婦人科学 櫻木俊秀医師

「(相談者から)昼に夜用ナプキンを使用しているとか、昼用ナプキンが1時間はもたなくて すぐ交換している、みたいな話があったときに、『あっ、この方ちょっと月経量が多いんじゃないかな』というような判断を、ぜひ産業医の先生方にしていただきたいです。

ナプキンの話はちょっとためらわれるかもしれませんが、『生理の量どうですか?』と聞いていただければ良いと思います」

研修は座学に加えて、ワークショップ形式でも行われました。女性の体調不良の事例を与えられ、それをもとに話し合いながら不調の原因を特定していきました。

ワークショップ形式の研修で話し合う産業医たち

産業医たちはワークショップを通して、不調の原因が病気あるいは職場や家庭のストレスなのかを検討したり、相談者が短い相談時間の中で話しにくい自身の体について話してくれるようになるために、どのような声かけをするのがいいかなどについて話し合ったりしました。

医師になって40年、産業医として18年になるという参加者は、「私が習ったころと全然時代が違っていますから、知識のアップデートが必要だということを感じました」と話していました。

働き盛りで発症しやすい 乳がん、卵巣がん、子宮がん…

産業医科大学 産業医実務研修センター長 川波祥子教授

この研修を企画したのは産業医科大学の産業医実務研修センター長をつとめる川波祥子教授です。川波教授は専属産業医がいる761か所の事業所で働いている318万人中、亡くなった人たちの死因と、直近の健康診断の結果及びストレスチェックの実施状況を18 年間(1999 年~2016 年)にわたって調査した研究に携りました。

その調査結果で明らかになったのは、女性の死因で最も多いのが乳がん、次いで卵巣がん、大腸がん、子宮がんの順となっており、大腸がん以外は男性で多く見られる死因(肺がん、胃がん)と違うこと、またそれらの病気は 30 代から 50 代の働き盛りで発症しやすいことでした。

『専属産業医のいる企業の在職死亡者と直近の健康診断の結果及びストレスチェックの実施状況に関する継続調査』

川波教授は、産業医は女性特有の病気があることも念頭に置いて労働者の健康管理にあたることが重要と指摘します。

産業医科大学 川波祥子教授

「婦人科系疾患や乳がん、あるいは生理や妊娠や出産に伴うような問題は、比較的 働き盛りの年齢で起こりやすく頻度も高いことから、元気に長く働き続けていただくためには産業医の適切な支援が必要ではないでしょうか。


男性がメタボに注意することを呼びかけられているのと同様に、女性には痩(や)せと貧血に注意を払わないといけないと感じています。


産業医は問題を見極めて、働き方の助言をしたり環境を整備したり情報提供を行うなど、女性労働者の健康管理に関わっていただきたいと思います」

女性社員の不調も見逃さない 独自の取り組みを始めた企業

女性特有の病気を早期に発見するには、産業医として産婦人科医に参加してもらうことが理想ですが、社員全体の健康管理を考えると内科の医師が重要となる上、そもそも産婦人科医の数が少ないのが現状です。

そこで、独自の取り組みを始めた企業があります。

全国にオフィスや工場を持ち、従業員 8800人余りのうち4分の1を女性が占める飲料メーカー、サントリーではおととしから外部の産婦人科医と提携し、新たにオンラインで全国の女性社員のケアをする取り組みを始めました。

女性の相談窓口について社内の保健師と担当者が打合せ

相談者が場所や時間を気にせず気軽に不安を伝えられるようにと、メールで相談を受けつけ、医師からはビデオメッセージで応答してもらっています。

さらに相談者と医師の間に自社の保健師が入り、相談者ひとりひとりの仕事や家庭の状況を医師に伝えています。その社員が事務職か工場勤務か、夜勤があるか、難しいプロジェクトに取り組んでいる最中か、あるいは家庭で育児や介護を担っているかなど、個別の具体的な状況について共有した上で、不調の原因について、保健師と医師が一緒に考えます。

そして、相談した社員も企業側もそれぞれ医師から適切なアドバイスを受けることで、ひとりの社員のみならず、職場全体の働き方の改善にも反映できるように取り組んでいます。

この取り組みがスタートしてすぐに相談を寄せた50代の社員は、転勤や部長職に昇進した時期に婦人科系の病気が見つかり、2年近くもの間、眠りが浅くなるなどの不調を感じていました。

相談を寄せた部長職の社員
相談を寄せた社員

「人にも言えないしんどさはありました。やっぱり仕事のほうが気になるので何とか気力でもっていたという感じですね。会社からたまたま『相談窓口ができたよ』と言われたので、飛び乗ったという感じです」


睡眠が浅いという相談のメールを送ると、医師からビデオメッセージが届きました。

産婦人科医からのビデオメッセージを見る女性社員
産婦人科医からのビデオメッセージ

「更年期以降の女性において、そもそも睡眠が満足いかないという方がほとんどという現実があります。働きながら年代が高くなっていくなかで、自分のコンディションを自分で整えることが働き続ける条件の1つにもなるので、専門の先生から睡眠導入剤を選んでいただいて、使うことも何ら悪いことではありません」

この社員は産婦人科医からのメッセージを受けて、自分に更年期症状が現れているのかもしれないということに気づくことができ、また、眠れない状況を我慢して体調を崩すよりも薬を服用して改善する手段があることを教えられたと言います。

相談を寄せた社員

「自分の相談を、(仕事の)パフォーマンスや評価とかと関係ないところで相談できるという安心感とともに、職場環境みたいなものも理解してもらえるのがいいです。


会社は会社、体のことは自分でとなると、それぞれ自分が対処しなければいけないしんどさがありますが、会社の情報も含めて自分の体の不調をオープンにできる存在が会社の中にあるのは意味として大きいです」

さらにこの会社では、産婦人科医が生理や更年期などの女性の体のメカニズムやそれに伴う体調の変化を解説したり、体調不良に悩んでいそうな女性社員への具体的な声のかけ方を紹介したりする動画を作り、男性を含めた管理職に見てもらっています。

健康管理についてアドバイスする高尾美穂医師(サントリーの社内向け動画より)
産婦人科医 高尾美穂さん

「(悩んでいそうな)本人に『生理で困っているの?』みたいな問いかけを直接的にすると、声をかけられたほうはちょっとびっくりするかと思います。声のかけ方に少し心を配っていただけたら。


例えば、その困っていそうな方とコミュニケーションが取れていそうな方に声をかけてみる。『あの人、ちょっと体調が悪そうだけど、声をかけてみてくれる?』とか『どんな事で困っているのか、聞いてる?』みたいな声のかけ方をまず周りの人にしてみるのもありじゃないかと思います」

健康診断だけではなかなか可視化されにくい女性の健康をめぐる問題を職場全体で見つけ出そうと、会社がこうした取り組みを始めて以来、体の不調について相談を寄せた女性社員は45人に上るそうです。健康診断だけではとらえきれない女性の不調を会社としてケアできるようになったと言います。

サントリー執行役員 宮脇潤治さん 
サントリーホールディングス 執行役員 宮脇潤治さん 

「女性ならではの健康課題があり、それで悩んだり生産性が下がったりキャリアに影響を及ぼしたりすることがこれから起きてきますので、女性社員がしっかりと持っている能力を発揮できる環境を作るのは経営的に非常に大事なことです。


また、支援する仕組みがあるということで、女性社員の皆さんが会社に対する信頼関係でつながってくれると思います」

自分や大切な人の健康を守るために

フルタイムや長時間・深夜労働など男性と同様の働き方をする女性が増える中、性別にかかわらず、誰もが健康に働ける、そしてそれぞれの能力を発揮しやすい職場環境を整えていく必要があると思います。

企業・組織が従来の健康診断や産業医のシステムをすぐに変えるにはさまざまな課題があります。

それでも職場で始められることはあります。

この取材を進めながら、私は地域放送局を含めたNHKの職員を対象に、生理・更年期のメカニズムやそれに伴う体調の変化や病気について、専門医から学ぶオンライン勉強会を開きました。当事者だけでなく、ともに働く仲間みんなが知識を深め、理解し合う機会をつくることが大切だと思っています。

また、企業や学校などで病気の早期発見・治療につながる情報を提供することはもちろん必要ですが、自身が正しい情報を“取りにいく”ことも大切です。

厚生労働省では女性の健康に関する専用サイトで女性特有の病気の症状を自分でチェックできるリストを公開しています。

厚生労働省「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ」
これって病気かな?女性の病気セルフチェック 
https://w-health.jp/self_check/
※NHKサイトを離れます

自分が健康で生き生きと活動できるために、まずは正しい知識と情報を得て、少しでも気になる症状があれば産婦人科に相談してみていただければと思います。

(取材した内容は、2023年3月2日(木)に『ニュースウオッチ9』で放送しました。)

あなたは生理・更年期の不調のために職場や学校で困ったり、何かを諦めざるを得なかったりした経験はありますか?みなさんのご意見や記事の感想などを下の「この記事にコメントする」(400字まで)か、ご意見募集ページ(800字まで)からお寄せください。

みんなのコメント(3件)

感想
破産王子
50代 男性
2023年11月23日
頑張ってください 病気に負けるな
提言
りういち
40代 男性
2023年7月22日
この問題は「女性だけの問題」でくくられるべきではないと感じます。男性も、月経の問題について関心と気遣いを持つことが必要だと感じました。過日NHKで放送された「雨の日」「生理のおじさんとその娘」のように、生理をめぐる問題を、ジェンダーレスで分かりやすく伝える努力も必要ですし、小学校での生理教育も男女一緒に行うなど、改善が必要な部分がまだ少なくないと思います。
悩み
けいか
40代 女性
2023年7月15日
私は、現在43歳で19歳の息子が1人います。
4年ほど前から生理痛がひどくなり、受診したところ子宮内膜症、チョコレート嚢胞(のうほう)、子宮筋腫が見つかりました。

定期的に通院したいのですが、婦人科の先生は男性(50代~60代)が多く、悩みを相談しづらいです。

また、産科と併設されてるため、婦人科の受診だと流れ作業のように対応され、詳しく説明してもらえないことも多いです。前回受診した婦人科では、「年齢も年齢だから、生理痛とつきあっていくのも大変でしょ。だったら、子宮を取っちゃうのも一つの方法ですよ」と言われました。

婦人系の疾患については、ある程度把握していますが、相談できる病院や医師は限られているように思います。周りの友人に話を聞いても同じような声をよく聞きます。

わかっていても、このような背景で受診することにためらいを感じる人もいることをわかってほしく、投稿しました。