おもわく。

※今回の放送は昨年8月に放送したシリーズです。
フランクル『夜と霧』


今、日本では自殺者が14年連続で3万人を超えています。震災に見まわれ、全てを失ったという人も少なくありません。
運命に打ちのめされたという人、将来に希望が持てないという人が、世の中にあふれています。そこで8月のシリーズでは、人間の生きがいとは何かを追求した名著「夜と霧」を取り上げることにしました。
「夜と霧」の著者は、強制収容所から奇跡的な生還を果たしたユダヤ人のヴィクトール・フランクルです。精神科医だったフランクルは、冷静な視点で収容所での出来事を記録するとともに、過酷な環境の中、囚人たちが何に絶望したか、何に希望を見い出したかを克明に記しました。
「夜と霧」は戦後まもなく出版され、世界的なベストセラーとなります。アメリカでは、「私の人生に最も影響を与えた本」でベスト10入りした唯一の精神医学関係の書となっています。日本でも、重いテーマにもかかわらず、これまでに累計100万部が発行されました。2002年には新訳本も刊行され、その人気は衰えていません。
「夜と霧」が時代を超えて人を引きつけるのは、単なる強制収容所の告発ではなく、“人生とは何か”を問う内容だからです。そこで今回の番組では「夜と霧」を“人生論”として改めて読みとくことにしました。
戦後、フランクルは「人生はどんな状況でも意味がある」と説き、生きがいを見つけられずに悩む人たちにメッセージを発し続けました。彼が残した言葉は、先が見えない不安の中に生きる今の私たちにとって、良き指針となるはずです。
収容所という絶望的な環境の中で希望を失わなかった人たちの姿から、人間の“生きる意味”とは何なのかを探ります。そして苦境に陥った時の“希望”の持ち方について考えていきます。

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第1回 絶望の中で見つけた希望

【放送時間】
2012年8月1日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年8月8日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年8月8日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2013年3月6日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2013年3月13日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年3月13日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
諸富祥彦(明治大学文学部教授)

収容所では様々な「選抜」が行われた。ガス室に送られるか、あるいはどの収容所に移されるかは、ちょっとした偶然で決まった。先が見えない中、収容所ではクリスマスに解放されるとのうわさが広まった。しかしそれが裏切られると、急に力つきてしまう人が多かった。自暴自棄になり、食料と交換できる貴重な煙草に吸いつくしてしまう者もいた。過酷な環境の中で、フランクルは考える。心の支え、つまり生きる目的を持つことが、生き残る唯一の道であると―。フランクルは、収容所での出来事を通して、「生きる意味」を学び取ろうと決め、人間の心理について冷静な分析を行う。そしてついに解放され、奇跡的な生還を果たす。

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第2回 どんな人生にも意味がある

【放送時間】
2012年8月8日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年8月15日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年8月15日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2013年3月13日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2013年3月20日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年3月20日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
諸富祥彦(明治大学文学部教授)

私たちは、自由で自己実現が約束されている環境こそが幸せだと思っている。しかし災害や病気などに見舞われた時、その希望は潰える。収容所はその最悪のケースだ。しかしそれでも、幸せはまだ近くにあるのではないかとフランクルは考えた。人間は欲望だけではなく、家族愛や仕事への献身など、様々な使命感を持って生きている。どんな状況でも、今を大事にして自分の本分を尽くし、人の役にたつこと。そこに生きがいを見いだすことが大事なのではないかとフランクルは考えた。そして医師としてチフス患者の病棟で働きながら、仲間たちに希望の持ち方を語った。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:諸富祥彦「「生きる意味」を求めて」
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第3回 運命と向き合って生きる

【放送時間】
2012年8月15日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年8月22日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年8月22日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2013年3月20日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2013年3月27日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年3月28日(木)午前1:25~1:50/Eテレ(教育)
2013年3月27日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
★は高校野球が雨で中止になった時のみ放送されます
【ゲスト講師】
諸富祥彦(明治大学文学部教授)

収容所では、極限状態でも人間性を失わなかった者がいた。囚人たちは、時には演芸会を催して音楽を楽しみ、美しい夕焼けに心を奪われた。フランクルは、そうした姿を見て、人間には「創造する喜び」と「美や真理、愛などを体験する喜び」があると考えるようになる。しかし過酷な運命に打ちのめされていては、こうした喜びを感じとることはできない。運命に毅然とした態度をとり、どんな状況でも一瞬一瞬を大切にすること。それが生きがいを見いだす力になるとフランクルは考える。幸福を感じ取る力を持てるかどうかは、運命への向き合い方で決まるのだ。

もっと夜と霧
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第4回 苦悩の先にこそ光がある

【放送時間】
2012年8月22日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
【再放送】
2012年8月29日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2012年8月29日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
2013年3月27日(水)午後11:00~11:25/Eテレ(教育)
2013年4月3日(水)午前5:30~5:55/Eテレ(教育)
2013年4月3日(水)午後0:25~0:50/Eテレ(教育)
※放送時間は変更される場合があります
【ゲスト講師】
諸富祥彦(明治大学文学部教授)
【特別ゲスト】
姜尚中(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)

フランクルは、生きる意味は自ら発見するものであり、苦しみは真実への案内役だと説いた。最終回では、フランクルの言葉に支えられながら生きてきたという、東京大学教授の姜尚中さんをスペシャルゲストとして招く。姜さんは「与えられた運命を引き受け、それをバネにすることで成長が生まれる」と語る。第4回では、シリーズの集大成として、先行きの見えない不安が広がっている今、わたしたちは生きる希望をどのようにして見いだすべきか、フランクルの思想から共に語りあう。

NHKテレビテキスト「100分 de 名著」はこちら
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
フランクル『夜と霧』2013年3月
2013年2月25日発売
定価550円(本体524円)
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こぼれ話。

「夜と霧」こぼれ話

「夜と霧」が日本で出版されたのは、第二次大戦からまだ11年しかたっていない1956年のことです。ナチスの強制収容所ついて、まだあまり知られていなかった当時、この本の日本語版を出そうとした人たちの慧眼には驚かされます。その後、知る人ぞ知る名著として読みつがれてきたわけですが、精神科医であった著者・フランクルが提唱した「ロゴセラピー」(人が自らの生きる意味を見出すことを助けることで、心の病を癒す心理療法)については、専門家でもない限り、ほとんど知られていませんでした。そこで今回のシリーズでは、「ロゴセラピー」の考えをふまえながら、「夜と霧」を読みとくという視点で番組を作ることにしました。今「生きる意味」を問うことは、閉塞感が漂う震災後の日本にとって大切だと思ったからです。このコンセプトを決めた後、制作協力をお願いしているテレコムスタッフのディレクターにさらに取材してもらったところ、「夜と霧」が被災地でよく売れているという事実が分かりました。そこで今回は、仙台と岩手でのロケも織りこみながら、構成を立てることにしました。「100分 de 名著」では、常に新しい切り口で解釈することを目指しています。これからも独自の取材を交えながら、今読むべき名著を紹介していきたいと思っています。

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