群馬 高崎出身 落語家 林家つる子さん “大抜てき”で真打昇進
- 2024年01月15日
辰(たつ)年のことし。ほっとぐんま630では、竜のように高く、上へ上へと昇っていくことが期待される群馬ゆかりの人たちの姿を、シリーズでお伝えしました。今回は、高崎市出身の落語家、林家つる子さん。ことし3月に落語界の最高位「真打」に“大抜てき”で昇進します。注目が集まる昇進を前に、自分にしかできない挑戦を続けるつる子さんの思いに迫りました。
(前橋放送局 ディレクター 杉山 裕美/2023年12月取材)
先輩11人抜き‼ “大抜てき”で真打へ
高崎市出身の36歳。落語家の林家つる子さん。
表情豊かな芸に人気が集まる、今、注目の落語家です。
現在「二ツ目」のつる子さん。ことし3月、落語界の最高位に昇進します。
寄席でトリをつとめることができる「真打」。先輩11人を抜いての“大抜てき”は、所属する落語協会で12年ぶり、女性としては初めてのことだといいます。
林家つる子さん
「想像していたよりちょっと早いお達しをいただいて、それはすごくうれしいことでもあり、不安とかプレッシャーもかかる昇進の仕方なんですけれども『トリを任せても、つる子ならいいな』と思っていただけるような噺(はなし)家に、まずはなりたいと思います」
笑って、泣いて、喜んで
この日は、都内にある小さな演芸場での寄席。
いつも舞台に上がってから演目を決めるというつる子さん。およそ100あるレパートリーの中から選んだのは、この日の寒さに合わせた『しじみ売り』という心温まる人情噺でした。
群馬出身としてのオリジナリティも忘れません。“しじみ”の話のなか、急に出てきたのは、焼きまんじゅう。
『なんかねえか?え?焼きまんじゅう?・・・群馬の人にしかわからねえよ』
高座は、およそ30分。つる子さんの表情は、めまぐるしく変わります。
「すごくよかったです 泣いちゃいました」
「男性の落語家さん以上にパワフルで、思わず引き込まれちゃう」
“女性”であることを強みに
つる子さんと落語の出会いは大学生の時。落語研究会に入り、その魅力にのめりこみました。
卒業後、林家正蔵さんに弟子入りし、落語家を目指す日々が始まります。
しかし、待っていたのは落語界の洗礼。男性が中心の世界で、悩むことも多かったといいます。
「やっぱり落語は男性の師匠が作り上げてきた伝統芸能なので、舞台に上がると『女か・・・』みたいな、下を向かれてしまったりとか、あからさまに席を立つ方もいましたかね。悲しさと悔しさはありました」
そんなとき、つる子さんの支えになったのは、師匠の言葉でした。
林家つる子さん
「『頭でっかちにならずにいろんな挑戦をしてほしい』と。女の人だからこそ挑戦できることもあったりするので、そうすると逆に、挑戦できることが倍になるというか」
師匠のことばにあと押しされたつる子さん。女性の自分にしかできないことを模索しました。
そのひとつが『芝浜』という古典落語を、主人公の妻の目線に書き換えること。怠惰な夫を支える、強い女性の姿を描きました。
「古典落語の名作中の名作なので、もちろん大好きな話でもあったんですけど、人間味があまり感じ切れない部分もあったんですよ、私の中で。おかみさんを主人公にするっていうのは、私が女性であることも意味がすごくあることになるだろうし、挑戦の1つとしてやってみようかなと」
男女を問わず、大きな反響を呼んだつる子さんの『芝浜』。その後、他の作品でも、女性目線に書き換える取り組みを続けています。
“自分にしかできない”ことを
さらにつる子さんの活動は、落語の枠にとどまりません。
ラジオのパーソナリティやYouTubeの動画投稿などあらゆるジャンルで発信を続けています。
挑戦を続ける裏には、使命感があるといいます。
林家つる子さん
「昔からある伝統芸能を知らないままっていう人がいたら、もったいないなと思って。だからいろんなきっかけで、何でもいいから、私がYouTubeでただ歌ってる動画でもいいから、どっかで引っかかってくださって『え?落語家なの?』っていうので、知ってもらえたらうれしいなと」
ふるさとへの思いも強いつる子さん。群馬出身の落語家4人で、県内35市町村の巡業公演を行っています。
「地元の方がすごい応援ムードで迎えてくださって、それがどんなに心強かったか。だから恩返しをしたいっていう思いがすごく強いんですよね」
「行って、落語会をして、魅力を発信するっていう活動は、真打になってからも続けたいなと思っています」
落語家人生 勝負の年
勝負の1年だということし。つる子さんはさらなる高みを目指し、まさに竜のごとく昇っていきます。
林家つる子さん
「真打になったらゴールではなくて、ここからまたどんどんやっていくんだという。噺家人生において最も大事な1年になると思うので、後悔の残らないように、本当に全集中、全力投球して、そんな全力の年にしたいと思います」