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群馬 育英大学レスリング部 柳川美麿監督“メダリスト育成法”

  • 2024年01月05日

 

辰(たつ)年のことし。ほっとぐんま630では、竜のように高く、上へ上へと昇っていくことが期待される群馬ゆかりの人たちの姿を、シリーズでお伝えしていきます。今回は、ことし夏のパリオリンピックで複数のメダル獲得が期待されるレスリング女子の指導者の1人、高崎市にある育英大学の柳川美麿監督です。メダリスト候補がそろう育英大学。柳川監督の育成方法は、異色の経歴を踏まえた独自の指導理論に基づいています。

(前橋放送局 記者 辻智史/2023年11月取材)

群馬の地から五輪メダリストを

去年の11月29日。この日は、柳川監督の48回目の誕生日でした。

誕生日ケーキ以外のクリームです

手荒い祝福を受けても、ご覧の表情。選手との「距離の近さ」が特徴の1つです。

「ほぼほぼ毎日、一緒に生活してるので、家族みたいなものですね」

創部7年目の育英大学女子レスリング部。ことしのパリ大会では、初の「オリンピックメダリスト」誕生への期待が高まっています。

櫻井つぐみ選手

去年の世界選手権で、57キロ級の櫻井つぐみ選手は金メダル。

元木咲良選手

62キロ級の元木咲良選手は銀メダルを獲得し、いずれも代表に内定しました。その2人を指導する柳川監督は前橋市出身です。ここ群馬の地から「パリの表彰台」を目指すことに特別な思いを持っています。

育英大学レスリング部 柳川美麿監督
「群馬県は実は、レスリングの伝統がすごくあって歴史があるんです。第1回のインターハイ(全国高校総体)の団体は、実は群馬県の館林高校が優勝してます。群馬県=レスリングということを県民のみなさんに知っていただければ」

単身アメリカへ留学 そこでのレスリングは

柳川監督の経歴は、レスリング界では異色です。

アメリカ留学当時

中学卒業後に単身アメリカへ留学。そこで経験した「異国でのレスリング」に衝撃を覚えたといいます。

柳川美麿監督

「試合に負けたら、日本だと帰ってきた時に、メチャクチャ怒られてばっかりだけど、アメリカに留学すると『タックル最高だったよ』と、負けているのにメチャクチャ褒めてもらえる」

帰国後は大学で競技を続け、国内では全国2位となりましたが国際大会での目立った実績はなく、指導者の道へ。現場に立ちながら進んだ群馬大学大学院の博士課程では「医学系研究科」で学び、「医学博士」となりました。

研究室での柳川監督

そこで研究した1つが効果的な減量の方法。これが、今の指導に生かされています。レスリング界では、試合前に水分を一気に抜く急激な減量が少なくない中で、柳川監督は、これを真っ向から否定。

日々、摂取するカロリーや糖分を管理することで、体重を適切にコントロールし、急激な減量が招く「試合後半のスタミナ不足」を回避しています。

「試合前の食事のとり方とか栄養のとり方、サプリメントの取り方というのは工夫が生きていくと思います」

“頑張れ”って言わない

論理的な指導へのこだわりも、柳川監督のスタイルの1つです。

<柳川監督の選手への声かけ>
10センチだよ、10センチ下入ったら」
限定させればいいんだよ」
「上のほうが予測しやすいんだ」

「『頑張れ』とかそういう言葉がけはしないですね。抽象的ではなく細かく説明するようにしています」

こうした指導に選手は。

櫻井つぐみ選手(パリ五輪代表内定)
「わかりやすいように言葉で伝えてくれるので理解しやすいなって感じます」

頼ること、いとわない

指導法への「こだわり」の反面、「頼れる人には頼る」ことも大切にしています。

トレーニングジムでトレーナーの指導を受ける選手

ここは、大学の外にあるトレーニングジムです。体力面では、トレーナーのプログラムに頼り、医療面では、肩やひざなどの部位ごとの専門の医師に診てもらう徹底ぶりです。

育英大学レスリング部 柳川美麿監督
「数学とかと一緒ですよ。わからないのに、わかるって言って教えたって、100万回やったって間違っているんだからやっても意味がない。たくさんの知識をお借りしつつ自分も勉強しながら一緒に進んでいく感じですかね」

このきめ細やかなサポートで、大学に入り急成長したのが元木選手です。全国高校総体での優勝経験はありませんでしたが、今では世界のトップ選手になりました。

元木咲良選手(パリ五輪代表内定)
「いくら頑張っても、勝てないんだろうなって、どこかで思ってしまっていた。柳川先生と出会ってここまで来られたなと思います」

五輪と根性 その先に

「脱・根性論」にも見える柳川監督の指導法。7か月後に迫ったオリンピックを前に、「根性」についての考えもストレートに聞きました。

育英大学レスリング部 柳川美麿監督
「競技が格闘技なので当然のことながら“根性”とか“精神力の強さ”というのも絶対に必要です。ただ、新しい教育方法や指導方法に移行していかないと、なかなか育てにくいのかなと思っています。オリンピックは“楽しもう”と言っています。そっちのほうが力を出すんじゃないかなって」

育英大学の女子では、68キロ級で大泉町出身の石井亜海選手も1月27日のプレーオフに勝つと代表内定の可能性があります。この夏、パリのセコンドで柳川監督がどんな指揮を執るのか、その姿から目が離せません。

  • 辻智史

    前橋放送局記者

    辻智史

    2022年入局。警察担当。秋田県出身。取材の難しさを日々感じています。

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