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平成20年3月11日

NHK経営委員会

中長期計画策定に資する重要検討事項のまとめ

 

1.はじめに

 経営委員会は、昨年、執行部提案の5か年経営計画について審議を重ねたが、その内容の一部に評価すべき内容を含むものの、未だ改革への踏み込みが十分であるとは認められないことから、9月25日、執行部に対し、更なる検討を行った上で、あらためて中長期経営計画を提案するように求めた。
 また、昨年の「5か年経営計画」の検討時、最終局面で経営委員会から検討すべき事項を指摘しても、時間的制約などで採用困難であった経験を踏まえ、執行部が新たに中長期経営計画を検討するにあたり、考慮すべき「重要検討事項」を経営委員会として執行部に提示することとした。そのため、経営委員会の下に「経営改革ステアリングチーム」を設置して、執行部から多くの追加説明を受けるなど、準備作業を行い、その報告を基に経営委員会において議論を重ねてきた。
 今般、経営委員会として「重要検討事項」を取りまとめたので、執行部に提示するものである。もとより、中長期経営計画案は執行部が策定するものであり、ここに記した経営委員会の問題意識や課題認識を十分に受け止めて、検討を進めていただきたい。

 

 「NHKは崖っぷちに立っている。」
との福地会長の認識は、コンプライアンス、報道倫理の面に留まるものではないと受け止めている。
 放送事業を巡る環境を見渡せば、放送・通信融合の流れの中で、国民・視聴者の情報、コンテンツ入手手段は多様化している。その中で、NHKが公共放送として有効な手を打てないようでは、その存在価値そのものが問われることになる。加えて、グローバル化に伴う国民・視聴者の新たな要請、進展する少子高齢化、更なる受信料の公平負担を望む声にも的確に応えなければならない。また、NHKは、コンプライアンスの確立はもちろん、健全で効率の良い運営を行うことが期待されている。
 こうした変りゆく環境と国民・視聴者の期待、ニーズを先取りし、フルデジタル時代の公共放送NHKの展望を切り拓かねばならない。そのためにも、新たな中長期経営計画は極めて重要なものであると考える。
 執行部においては、ここに提示した「重要検討事項」を十分踏まえ、抜本的な改革案を盛り込んだ計画を作成いただきたい。また、検討にあたっては、国民・視聴者の意向を十分反映させるとともに、NHK内の全ての部局の意見を集約できるような取り組みが必要と考える。
 経営委員会は、改革を推進するNHK執行部とともに、国民の代表として選ばれた責務を果たす決意である。

 

2.重要検討事項のまとめ

 「重要検討事項」の分野毎のポイントは下記の通り。

1.

グループ経営の最適化

2.

コンプライアンス体制、リスク管理体制の確立

3.

フルデジタル化時代の公共放送のあり方

 

 * ジャンル毎の番組の方向性、チャンネルプラン

 

 * 番組制作力、報道取材力、海外取材体制の強化

 

 * 番組の外部委託の活用

 

 * 若者のNHK視聴を拡大するための施策

 

 * 国際放送の充実、他

4.

地域放送の充実

5.

新規事業の展開

6.

技術の戦略的展開

7.

受信料の公平負担

 

 * 支払い者率の向上

 

 * 収納体制のあり方、他

8.

人事、経理制度の改革

 

3.重要検討事項の内容

【中長期計画の検討に入る前に決定すべき事項 : 中長期計画の対象年度について】 

 収支計画上は、デジタル化に向けた3か年計画が適当と考える。ただ、基本的な構想については、デジタル化後も睨み、5か年程度の中長期のレンジで考えていただきたい。

 

 【1.グループ経営の最適化】

 1.

公共放送としての価値を最大化していくためには、NHK本体だけの部分最適では不十分であり、グループ経営を最適化するという観点から中長期計画を立案いただきたい。

(1)コンプライアンスや内部統制は、NHK本体のみならずグループ会社にも徹底し、グループ全体として倫理意識の定着や体制の構築を検討いただきたい。

(2)事業ドメインを明確にして、本体で強化する分野、関連団体に任せる分野、外部化すべき分野に分け、より効率的、効果的な業務遂行が図れるようグループ戦略を検討いただきたい。

(3)子会社については、再編、独立等のあらゆる選択肢を考え、抜本的に見直すことを検討いただきたい。

(4)子会社への転籍・再就職の運用を見直し、本体で60歳以降も雇用できる制度を採用すること、それを補強する制度・仕組みについて、導入の可否も含め検討いただきたい。

(5)決算、資金繰り等において、単独のみで見る見方だけでなく、連結でも見ていくことを検討いただきたい。

(6)子会社との取引価格については、適切なマージンで価格が設定されているか、確認できる仕組みを検討いただきたい。

 

 【2.コンプライアンス体制、リスク管理体制の確立】

 1.

リスク要因を抽出して、それに対処する体制を迅速に確立いただきたい。

 2.

職員個人だけでなく、各所属組織でのコンプライアンスに関する責任体制を再構築いただきたい。

 3.

ITに係る全般統制の取り組みを強化いただきたい。

 4.

内部通報等、不正の端緒となる事実が、関係組織に適切に報告されるような体制を確立いただきたい。

 5.

潜在的な経営リスク(完全デジタル化の進捗遅れ、他)を洗い出し、それに対処する体制を検討いただきたい。

 

 【3.フルデジタル化時代の公共放送のあり方】

 1.

公共放送の将来ビジョンに対応した編成のありかた

(1)現行の3か年計画で示されたジャンル毎の番組の方向性について結果を評価し、5年後に向けてどのように番組を変えていくのか、具体的な姿を示していただきたい。

(2)必要な波の数、チャンネルプランについて、視聴者意向を十分に踏まえた上で、明確な方針を示していただきたい。

 

 2.

第一級のコンテンツ提供者としての地位を確保するための施策

(1)番組制作力の強化、報道取材力の強化に向けた施策を示していただきたい。

(2)海外取材体制の強化を検討いただきたい。

(3)多メディア時代に対応して、番組のマルチユース(国内、海外とも)を促進する制作体制のあり方を示していただきたい。

 

 3.

番組の制作、編集の外部委託

(1)番組の分野毎に外部委託の目的(経費の抑制、企画力の強化、マルチメディア展開、他)を明確にして、どこまで外部を活用していくのが適切か、基本的な考え方を提示いただきたい。

(2)外部委託する際のNHK側のチェック体制の強化策を検討願いたい。

 

 4.

若者のNHK視聴を拡大するための施策

(1)移動体向けコンテンツの開発(ワンセグ独自放送)等、若者のNHK視聴機会を増やす施策を検討いただきたい。

(2)子どもの頃からNHKに親しみを感じてもらい、成長してもそれが継続するような施策は考えられないか、検討いただきたい。

(3)若者のニーズを把握するためのマーケティング、良い番組を知ってもらうためのPRの方法を検討いただきたい。

 

 5.

目標到達度をはかる指標の明確化

(1)最終目標としての信頼度、接触者率の設定は評価できるが、分野毎の番組の評価等、最終目標に到るための重要な中間的な管理指標もいくつか提示いただきたい。

 

 6.

国際放送の充実

(1)国際放送に取り組むNHKの決意を明確にした上で、確実に視聴してもらうための番組強化・PR施策、ターゲットの明確化、視聴可能世帯拡大に向けた施策を具体的に示していただきたい。

(2)そのためにどのくらいの費用が必要になるか、また、受信料からの支出はどの程度を目安にするか示していただきたい。

 

 7.

効率的な番組制作体制

(1)番組経費が適正に支出されているかについての内部チェック体制、情報公開を強化し、効率的な経費支出を実現いただきたい。

(2)高騰するスポーツ放映権について何らかの抑制基準を設けられないか検討いただきたい。

 

 【4.地域放送の充実】

 1.

地域向け番組、地域発の全国発信番組の強化について、当面の目標と具体策を提示していただきたい。

 

 2.

地域放送の課題を一元的に取り組むために、本部に地域の放送局を統括する機能を持つことの是非について検討いただきたい。

 

 3.

地域放送の充実のために進めなくてはならない構造改革や業務体制の見直し、要員配置などについて具体的な施策を明示いただきたい。

 

 【5.新規事業の展開】

 1.

展開すべき事業と目的、目標の明確化

(1)新規事業及び隣接事業について、各々の事業の目的(収益確保なのか、視聴者サービスの一環か)と副次収入の目標を明示いただきたい。

(2)とりわけ、動きの激しい携帯分野については、将来、デジタルラジオ、メディアFLO等の選択肢があるが、各々の案のつめを行うとともに、環境変化に応じて迅速な決定がなされるよう準備いただきたい。

 

 2.

コンテンツの2次利用の促進のための施策

(1)企画段階からマルチユースを念頭にいれた展開を図れるようなシステムを確立していただきたい。

(2)権利処理の迅速化がポイントとなるので検討を進めていただきたい。

 

 3.

事業展開を迅速に積極的に進めるための組織のありかた

(1)グループ全体を見渡した新規事業や隣接事業の戦略を統合的に立案、推進する司令塔的な組織を検討いただきたい。

 

 【6.技術の戦略的展開】

 1.

全ての国民がデジタル放送を受信できるよう、環境整備に最大限尽力いただきたい。

 2.

完全デジタル化後の変化に対応できるよう子会社・ 関連団体、地域放送局も含めた技術組織の見直しの方策を検討いただきたい。

 3.

放送・通信融合の時代に必要となる技術開発、人材育成のあり方を明示いただきたい。

 

 【7.受信料の公平負担】

 1.

未払いと未契約に対して、どのような施策で、どこまで支払い者率を高めようとしているか明らかにしていただきたい。

 2.

法人の事業所割引をテコにして、スピード感をもって法人からの受信料収入を拡大するための具体策を明示していただきたい。

 3.

世帯や事業者の契約すべき全体母数の把握方法について、より正確性が高まるよう改善いただきたい。

 4.

訪問集金廃止に伴う地域スタッフの要員シフトに留まらず、受信料の拡大に繋がるような収納体制のあり方について、更に検討いただきたい。

 5.

本体の営業体制についても、更に効率的な体制となるよう見直すとともに、業務の内容についても、収納拡大に繋がる新たなサービスが展開できないか検討いただきたい。

 6.

衛星放送料金のあり方については、NHKとして、将来のチャンネルプランと併せて検討し、考え方を明示いただきたい。

 

 【8.人事、経理制度の改革】

 1.

人事制度の改革

(1)職員の多様な働き方を可能にし、優秀な人材確保にも繋がるような体系への見直しを検討いただきたい。

(2)縦割り構造の弊害を改善し、組織間及び職員間の風通しを良くするため、関連する人事制度の見直しを検討いただきたい。

(3)職員のモチベーションを高めるよう、評価制度を見直していただきたい。

(4)急激なコスト、人員削減の弊害について確認の上、対策を検討いただきたい。

 2.

経理制度の改革

(1)予算立案に実績見込みがより反映できるよう改善を検討いただきたい。

(2)収支状況(項目別の経費管理状況含む)、業務遂行状況がより的確に把握できるよう、番組原価の設定を含む管理会計の構築について、方針を示していただきたい。

 

4.受信料値下げに対する考え方

 国民、視聴者がNHKに望むのは、「番組の充実」、「経営改革の推進」であり、経営委員会は、受信料の値下げについては最初に数字ありきとは考えていない。まず、「受信料の公平負担」、「フルデジタル化時代、国際化時代に必要となる経費支出」、「抜本的な構造改革」を徹底的に検討した後、余る部分が出てくれば、受信料の値下げに充当することを検討していくべきである。
 執行部におかれては、まず上記を織り込んだ収支計画を明らかにされたい。

 

5.中期の収支構造を検討する際の留意事項

 現時点において、収支構造を検討する際に、経営委員会として必要と考える留意事項について下記に掲げる。

 1.

収入の更なる増加の可能性、支出や投資に関するキャップシーリングの可能性を検討すること。特に支出については、下記の要因を考慮に入れて、節約すべきところは節約して、国民、視聴者の理解を得られるレベルとすることを検討いただきたい。

* 国内放送費は、4月に設定予定の人件費も含めたトータルコストとしての平成20年度実施目標をベースにして(但し、オリンピックの特別支出は除く)検討いただきたい。

* 国際放送費は、達成すべきターゲットに基づいて必要額を検討いただきたい。

* 契約収納費は効率化し削減することを念頭に将来の地域スタッフの体制、本部の体制に基づいて検討いただきたい。

* 人件費は、構造改革、人事制度の改革も考慮に入れて検討いただきたい。

 2.

本体だけでなく、関連団体の収支構造についても明示いただきたい。

 3.

受信料収入については、「公平負担の実現」にふさわしい最終目標を設定した上で、3か年の中での到達目標と達成のための手段を明示した裏づけのある計画を検討いただきたい。

 4.

チャレンジングな副次収入目標、子会社からの配当増を考慮したその他収入の目標を検討いただきたい。

 5.

潜在的な経営リスクについては、精査の上、必要なものについては引き当て計上を行うことを検討いただきたい。

 6.

建設費については内訳を明示いただきたい。

 

 

以上