アートで伝える自死遺族の声金沢市の芸術家中森あかねさん

2023年11月02日

みずから命を絶つ「自死」。
残された家族は、深い悲しみや、周りの人たちに理解してもらえない孤独感など、さまざまな思いを抱えています。
そうした遺族の声を集め、悲しみや立ち直りの過程をアート作品にして共有しようと取り組む女性がいます。
作品に込めた思いを取材しました。
（金沢放送局キャスター　熊谷彩香）

金沢市在住の芸術家、中森あかねさん。
大学を卒業後、若手作家の展示を企画する傍ら、自らも手芸作品や空間芸術を手掛けています。

今回制作したのは、「自死遺族」の思いに触れられる部屋です。
和室に置かれた大きなテーブルの内部にはスピーカーを設置。
訪れた人が椅子に座ると、スピーカーから流れてくる遺族のことばを聞くことができる「参加型」の作品です。

集めたのは、配偶者や親、子どもを亡くした6人の声

中森さんは、様々な立場にある6人にインタビューをしました。

その一人、12年前に妻を亡くした男性は今も自分に問い続けています。

あの時こうすればよかったとか、あの時の言葉がダメだったのではないかとか、
何が原因なのか、原因探しは何百回も何千回もするんです。

亡くなった父親に自分を重ね合わせるようになった男性もいます。

仕事で苦しい状況に置かれた時、おやじもこんな気持ちだったのかなとか、
このままの状態が長く続けば自分も父親と同じような選択をとるのかなと
たびたび思うことがある。

いろんな人の気持ちを聞くことで、自分は一人じゃないっていう感覚とか、
自分はもっと違う考えがあったなとか、気付きがあると思うので、作品にしたら届くかなと。

小学5年生の時に父親が自死

中森さん自身は11歳の時に父親を失い、残された家族との間に葛藤を抱えました。

なぜ父親は自ら命を絶ったのか。どうすればよかったのか。
答えが見つからず、母親との関係が悪化。
修復できないまま時が過ぎ、母親は亡くなりました。

今思えば母も、パートナーがいきなりそういう風な死に方をしているから、辛くないわけがない。
私は、思いやりのことばをかけるわけでもなく、責めることばしか言ってない。
それは死ぬまで続いて、最期もそういう会話がないまま終わっちゃった。
（そういう会話とは？）あなたを許しますとか、大変だったねとか、ありがとうとか。

いま苦しみの中にいる人の支えになりたい

他の遺族と知り合う中で、多くの人が社会から孤立し、
答えのない問いを繰り返して苦しんでることに気付きました。
ただ、答えが見つからないことを受け入れて、前を向き始めた人たちがいることも知りました。
そこに辿り着くまでの過程は、さまざまでした。
中森さんは、できるだけ多くの声を集めて、
同じ境遇で苦しんでいる人たちに伝えたいと思うようになりました。

6年前に中学生の娘を失った母親です。
子どもを亡くした自死遺族同士が語り合う自助グループとつながり、思いを共有できたことで、
少しずつ娘の死を受け止められるようになったといいます。