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北見 再開発で移転 老舗写真館の最後の営業日

  • 2024年5月17日

北見市中心部で半世紀以上営業してきた老舗の写真館が4月、郊外に移転しました。北見市ではおよそ40年ぶりとなる中心部再開発の影響でした。長年、街の風景の移ろいや家族の節目を撮影してきた写真館の社長。その思いを取材しました。
(北見放送局 阿部力)

老舗写真館 再開発で移転

北見市中心部でおよそ半世紀に渡って営業してきた「北見写真館」。
竹井雅章社長は、前身の会社を含め51年間、この写真館で働いてきました。

竹井雅章社長
「人生というかな、人の生き様がそこに凝縮されるというのは、やっぱり楽しみですよね。それはね写真でないとできないんです、ビデオとはまた違うというか」

しかし2年ほど前、北見市でおよそ40年ぶりとなる中心部の再開発が決定。
竹井社長は立ち退いて、店を郊外に移転することを決めました。
半世紀にわたって営業し慣れ親しんだ場所を離れるのは苦渋の決断でしたが、街のにぎわいにつながればという思いで、悩んだ末に出した結論でした。

竹井雅章社長
「中心部から離れるのは悲しいですよね。悲しいですけれど、街なかがにぎわってくれればね、北見市としてはよいのではないかな」

再開発と写真館の不思議な縁

竹井社長が一番思い出に残っている仕事があります。
1982年、再開発に伴い駅前にオープンした百貨店の撮影です。
オープン当時、歩道を埋め尽くすほどの人が詰めかけました。
竹井社長は開店セレモニーの様子やにぎわいを同僚たちと撮影し、記念アルバムにして納品しました。

当時は中心部で祭りも行われ、街は活気であふれていました。
あれから40年余りたち、今はその百貨店も閉店。
中心部にもシャッターが目立つようになり、今度は竹井社長が再開発の波にのまれることになったのです。

竹井雅章社長
「昔は街が、商店街がもっと活気があって、それがずっと続くというふうに、たぶんみんな思っていたんですよね。再開発でこの写真館が無くなる、立ち退きしなければいけないというのは、その当時は夢にも思っていなかったですよね」

半世紀撮影した家族の記録

この50年余り、竹井社長はさまざまな人の人生に寄り添ってきました。
その間に撮った写真は150万枚。
記念となる瞬間を形に残そうと、シャッターを切ってきました。

北見市の片山知靖さん。
2008年の結婚式を皮切りに、子どもの誕生、七五三、入学といった家族の節目には、写真館を必ず利用してきました。

片山知靖さん
「子どもたちも写真を撮る時のモチベーションが全然違いますので。いつもよりもいい顔してくれて」

慣れ親しんだ場所から写真館が移転することには複雑な思いもありますが、今後も変わらず家族の歴史を竹井社長に撮影してもらう考えです。

片山知靖さん
「少し寂しい思いはあるんですけれども、ちょうど上の娘が、中学校入学時に写真を撮らせていただいて、このあと中学校卒業、高校入学、節目で成人式まで撮ってもらおうと思っています。先は長いんですけど、アルバムをいっぱいにできたらいいなと思いますね」

移転前最後の営業日

4月28日。
中心部で作業する最後の日を迎えました。
従業員総出で新店舗への引っ越し作業を行い、スタジオにはすっかり機材が無くなりました。

竹井雅章社長
「本当、こう見たら寂しいですよね。寂しいというか残念というか」

カメラを手にした竹井社長。
最後にこの場所で、 写真を撮ることにしました。
被写体に選んだのは、建物と従業員。
半世紀の感謝を込めてシャッターを切りました。

立ち退いたあと、写真館は解体されて土地は更地になります。
そして2年後の2026年には、立体駐車場が建つ計画となっています。

竹井雅章社長
「だんだん思い出も薄れていく中で、今回撮影した建物の写真を見たら『あぁ、そういえばこんなグレーの建物だったんだ』って思い出すかなと思って、建物を撮影しました。なんか本当にね、この建物が壊されると思うとかわいそうになってくるし、50年お世話になったので、本当に感無量で涙出てきますよね」

すべてを終え、店を出た竹井社長。
写真館を見上げるその目には、光るものがありました。
長年、苦楽をともにし、多くの家族の歴史を記録してきた写真館。
意を決したようにため息をついた竹井社長は、「お世話になりました」と声を絞り出したあと、建物に向かって深く一礼。
込み上げてくるのは半世紀の思い出と感謝の気持ち。
竹井社長はしばらくの間、頭を下げ続けました

取材後記

北見市内で現在進んでいる中心部の再開発事業。およそ40年ぶりとなる中心部の再開発は総事業費90億円かけ、休日夜間急病センターやマンション、それに高齢者施設などが整備される予定です。ふだん、職場と市役所などを行き来する間に、工事現場のそばで見かけた写真館。ふらりと立ち寄り、話を聞いたことが取材のきっかけでした。一口に再開発といっても、人口や景気が右肩上がりだった40年前と今とでは、同じ結果にはならないかもしれません。それでも、中心部のにぎわいや活性化に少しでもつながってほしい、その気持ちは竹井社長と一緒です。今回取材した写真館の仕事も、時代の変化の波にさらされているそうです。スマートフォンの普及で誰もが手軽に写真撮影ができるようになったことで、以前よりも需要は減ってきているといいます。私もよくスマホで撮影をしますが、そのデータをゆっくり見返す機会はなかなかありません。しかし、アルバムであれば家族や友人と一緒に開いて、当時を懐かしむことができる。取材を通して、そんなアナログならではの良さも再認識しました。

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  • 阿部力

    北見放送局

    阿部力

    道内民放で15年近く記者として勤務後 去年NHK入局 北見市政や知床取材などを担当

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