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カーリング女子 ロコ・ソラーレ 藤澤五月選手

2年前の悔しさを胸に 再びオリンピックの決勝の舞台へ
  • 2024年5月8日

カーリング女子、ロコ・ソラーレのスキップ、藤澤五月選手(32歳)。北見市出身で、日本を代表するカーラーは、初出場した6年前のピョンチャンオリンピックで日本カーリング界で初の銅メダルを獲得。2年前の北京オリンピックでは、銀メダルに輝いた。精度の高いショットに加え、スキップとしてたぐいまれな戦略を駆使しチームをけん引。大舞台で世界の強豪と互角に渡り合い、日本カーリング界の先頭を走ってきた。オリンピック、グランドスラム、世界選手権。数多くのトップステージを経験する中で、忘れられない舞台の1つが、オリンピックの決勝だ。2年前、日本で初めて出場したオリンピックファイナル。しかし、実力を発揮することができず、完敗した。「もう一度、あの舞台に」。2026年のミラノ・コルティナダンペッツォ大会が近づくなか、その思いを新たにする。一方で、国内では、藤澤選手らに続こうと、若手チームが台頭。日本選手権でロコ・ソラーレは、後じんを拝し4位に終わった。目標のオリンピック決勝に向け、まずは国内のしれつな代表争いの突破が必要だ。次のシーズンから本格的に代表選考が始まるなか、藤澤選手の思いとは。
(取材:旭川放送局 田谷亮平)

まさかの日本選手権

「勝ちたいという思いよりも勝たなくては、というプレッシャーが強くありました。ある程度、世界で結果を残してきて、でも一方でまだ世界のトップにはなっていないという部分で、すごく中途半端な気持ちで日本選手権に臨んでしまったのかなというのが、一番の反省です」

ことし2月の日本選手権。圧倒的な実績を誇るロコ・ソラーレが、まさかの4位に終わった。藤澤選手は、敗因の1つに“試合に向かう気持ち”をあげた。その一方で、本気で世界を目指す若手チームの成長と気迫も感じたという。

「試合前に必ず対戦相手と“お願いします”という感じで握手をするんですけど、そのときでだいたい雰囲気わかるんですよね。“ロコ・ソラーレさんとできて嬉しいです、よろしくお願いします”という子たちもいれば、“やってやりますよ私たちは”みたいな、“負けません”みたいなタイプの子たちが今は本当にたくさん出てきてた。年齢や経験は関係なく、気持ちの部分が今の日本のトップになる1つの要素かなと思います」

勝たなくてはいけないというプレッシャーが重くのしかかる中、持ち味の強気な作戦も、陰を潜めた。守りに入った気持ちが、そのまま氷の上のショットに出てしまった。

「ショットの選択もそうですし、そのショットを選んだことで、相手チームに“あ、強気じゃないんだな”というのがわかってしまった。自分たちが培ってきたものを、もっと自信を持ってやって、逆に相手にプレッシャーをかけなくてはいけなかった」

“譲れない”オリンピック

勢いに乗る若手のチームたち。もちろん狙いはロコ・ソラーレが歩んできた、世界に続く道だ。若さと勢いを止めるのが簡単ではないことは、自分たちがそうだったからこそ、よくわかっている。しかし、それでも藤澤選手は2年前にあと一歩まで近づいた世界一をつかむため、次の夢のステージの切符も、誰にも譲ることはできない。

「北京オリンピックで初めて日本カーリング界でオリンピックの決勝というのを経験できて、色々と反省点があって、もっとこうできたっていうのがあるので、それを生かせるのもオリンピックの決勝の舞台だと思うので、その舞台にもう1回、帰りたい」

2年前の北京大会での最大の目標は、前回大会の銅メダルを上回ることだった。そうしてつかんだ、決勝の舞台。しかし、そこに進んだ瞬間に、準備不足に気づいた。相手の研究、決勝の緊張感への対処、スキルの確認。チームの最大の強みの1つという“準備”が崩れ、決勝は完敗だった。

「自分たちのパフォーマンスが最後の最後でできなかった。もっとできた。もっと準備ができたのにっていう悔しさ」

決勝で敗れた悔しさを4年後につなごうと、藤澤選手は当時、記者会見で、未来のみずからに向けて力強くメッセージを送った。

「もし私が自分にいま声をかけるとしたら、“絶対にいつかこの舞台に帰ってこい”と言います」

藤澤選手は、「かっこつけたわけじゃないですよ」と少し照れ笑いを浮かべて、心境を語った。

「当時のことは覚えています。そして、いまあのときの自分に言うとしたら、“そんな簡単じゃないぞ”って言います。ただ、それでもやっぱり私はオリンピックという舞台で自分自身が悔しさだったり、うれしさだったり、やっぱりカーリングっていいな、スポーツっていいな、オリンピックっていいなっていう思いを感じた。それを感じさせられたのは、オリンピックのあの舞台。簡単じゃないぞと自分を鼓舞しつつ、これからの毎日をしっかり、悔いなく過ごせるようにしていきたいな」

自分探しの旅の途中

ひとシーズンを終え、春。これから夏までの2、3か月は、シーズンオフだ。藤澤選手は、毎年、競技から離れて自分を磨くための時間に使う。

「いったんカーリングとは離れて、カーリング以外で興味があることだったり、取り組んでみたかったことだったりをやる。それを頑張るきっかけでカーリングにもつながっていける部分はないかなと。いうならば自分探しの旅です」

海外に留学したり、資格の取得にチャレンジしたり。去年は、徹底的に体を鍛えあげてコンテストに出場。思わぬ形で話題になった。

「最後は心配された部分もたくさんあって、申し訳なかったなと思うんですけど、自分自身を変えたい、過去最高の自分を乗り越えたいという意味で、すごくチャレンジをさせてもらって、すごくいい機会になった」

ことしのオフは、どう過ごすのだろうか。

「ことしはカーリングの結果が伴わなかったので、このオフはやりすぎなくらいカーリングともう1回、向き合ってみようかなと思っています。このオフは、“カーリングの藤澤五月”の過去最高を更新したい」

“いつまでも”みんなで

ひたむきにカーリングに取り組んできたロコ・ソラーレ。明るさと元気が最大の持ち味だったチームは、全員が30代になった。藤澤選手は、“大好きなこのチームでいつまでも”という思いの反面、かけがえのない仲間と過ごす、当たり前の“いま”が、尊い時間だと感じるようになった。

「コロナ禍で、普通にカーリングをするのが当たり前ではないというのを実感した。そして、それぞれの人生。結婚があったり出産があったり。年をとるたびに、どうしてもカーリングとはまた違う選択肢が増えていく。やっぱり永遠ということはないので、必ずいつかは終わりが来るというのはみんながそれぞれ考えている」

チームメートであり、親友であり、ライバルであり、家族。当たり前に仲間が隣にいる“いま”が、いつまで続くかわからない。だからこそ、いまこの一瞬を一生懸命に過ごす。

「一番やりたいメンバーと世界一を目指してできている。カーリングが好きで、カーリングをやりたくて、カーリングで勝ちたいという気持ちがある限りは、今この瞬間に感謝しながらやりたいな」

負けからはい上がる。それが大きな力になる

この夏からは、2026年のミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックのプレシーズンが始まる。オリンピックの代表争いも本格化する。

「どの選手、どのチームも気持ち的にワクワクドキドキ。そして、プレッシャーと戦わないといけないシーズンが始まる。そういったプレッシャーのあるところで勝つチームがやっぱり強いチームだし、どんな舞台でも結果を出せるチーム。本当に今が本当に試されている大事な時期。自分自身と、カーリングと向き合って、どこまで自分たちの伸びしろが、自分たち自身で発掘できるのかという部分を楽しみたい。緊張感もあるんですけど、その緊張感を楽しみながら、成長し続けるチームになりたい」

思うようにいかなかった今シーズン。しかし、負けからはい上がる過程こそ、自分たちをより強くすると、チーム全員が信じている。

「私たちが強く居続けられる理由の1つに、負けをたくさん経験しているから。崖っぷちをたくさん経験しているから。それを誰1人あきらめずに、自分たちはまだいけるって信じて、それを乗り越えてきているからこそ、チーム力が培われている。今シーズン、勝ちきれなかったという壁をどう乗り越えるか、皆さん、楽しんで。楽しんでというか、見守っていただけたら嬉しいです」

取材後記

私が最初にロコ・ソラーレを取材したのは、2015年でした。藤澤選手をはじめ、選手たちは当時から、はじける笑顔で元気いっぱい。藤澤選手は、カーリングの取材が初めてだった私にも気さくに話しかけてくれて、丁寧に取材に応じてくれました。しかし、氷の上では、一度勢いに乗ったら、手をつけられないくらい強い。自分たちが作り上げる雰囲気に、相手が飲み込まれていく。そんな印象でした。それから9年がたち、若さと勢いを前面に突き進んでいたチームに、経験と実績が加わり、成熟したチームになりました。「負けと崖っぷちを多く経験し、それを糧にして、はい上がってきたチーム」。藤澤選手がそう語っていたように、多くの逆境とピンチを乗り越えて、オリンピックの決勝までたどりつきました。決勝で敗れたあとの記者会見で、藤澤選手がみずからに「絶対にいつかこの舞台に戻ってこい」と言った時、私は藤澤選手の正面の記者席に座っていました。そして、藤澤選手が発した言葉の力強さと、決意をかためたような真剣な表情から、その本気が伝わりました。日本選手権で4位に敗れはしたものの、4月に取材に行ったときのチームは、いつもの明るいロコ・ソラーレそのもの。自分たちのペースでカーリングを楽しんでいる姿に、きっとまた成長するのだと感じました。藤澤選手に目標とする選手を訪ねると「アスリートとしても、人としても尊敬される人が勝つのがオリンピック。そういう人を目指したい」と真剣なまなざしで話していました。オリンピックの決勝の舞台に再び上がるのを楽しみにしたいです。

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  • 田谷亮平

    旭川放送局記者

    田谷亮平

    2010年入局。前任の報道局スポーツニュース部では東京五輪や北京五輪の取材を経験。現在は旭川市政取材などを担当。

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