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知床観光船事故から2年~天気の面から教訓を~

赤羽祐介気象予報士が解説します
  • 2024年4月23日

こんにちは。「ほっとニュース道北・オホーツク」で気象情報を担当している赤羽祐介です。
2年前の4月23日、知床半島沖で観光船が沈没して20人が亡くなり、今も6人が行方不明になっている痛ましい事故が起きました。当時、旭川放送局で仕事を始めたばかりだった私にとっても忘れられないショッキングな出来事でした。
事故はなぜ起きたのか。関係機関の調査では人為的な問題点も指摘されていますが、気象予報士としては当時の天気を教訓にしなければと思っています。あの日、現場の海域が荒れた原因は北海道を通過していた寒冷前線でした。

事故が起きた2022年4月23日の天気図を見てみると、北海道付近には前線を伴った低気圧があり、青いトゲのついた前線が通過している様子が分かります。

この前線が「寒冷前線」です。

前線は主に暖かい空気と冷たい空気の境に出来て、私たちが人為的に引いた空気の境界線を前線と呼んでいます。

主なものとしては、赤い半円のついた「温暖前線」、青いトゲのついた「寒冷前線」、梅雨前線や秋雨前線と呼ばれる「停滞前線」が挙げられます。

その中でも北海道において特に注意すべきなのが「寒冷前線」なのです。
寒冷前線は冷たい空気が暖かい空気に激しくぶつかり、衝突面で強い上昇気流が起こることで、発達した積乱雲が生まれます。

この寒冷前線が通過する時には主に次のようなことが起こります。

発達した積乱雲が通過するため、シビアな現象が起こるのが特徴です。特に注目すべきなのは、このすべてが「短い時間」で起こる点。現象が長く続かないという点では良いですが、裏を返せば"天気の急変を引き起こす"ということです。
実際に2022年4月23日も午前は比較的に穏やかな天気でしたが、前線の通過に伴って突風が吹いて風向きが変わり、波も高くなった上に気温が急降下しました。

なので、もしテレビや新聞で天気図を目にした時は寒冷前線に注目してみてください。
もちろん、寒冷前線が通過する時には必ずしも天気が急変して荒れるわけではありませんが、そうなる可能性が高いのは確かです。屋外のレジャーを控える目安に、日常生活でも雨具を用意する目安になると思います。

そして、もう1つお伝えしたいのは「天気予報を信じてほしい」ということです。

自然災害には地震や火山噴火などいろいろありますが、事前に知ることは今の科学をもってしてもほとんどできません。一方で、天気予報は8割以上、当たる時代です。それにもかかわらず、毎年のように大雨や台風、大雪で被害が出ています。この現状を本気でどうにかしたいと思い、私はこの仕事を志しました。

実際に事故の当日も事前に波浪注意報強風注意報が出ていました。こうした情報に注意を払ってくれていれば、悲惨な事故は避けられたのではないかと思っています。目の前に広がる空だけではなく、天気予報に目を向けてわれわれ気象予報士の言葉に耳を傾けてほしいと心から願っています。
信じてよかったと思える予報を届け続けられるように、これからも気合いを入れて着実に精進していきますので、よろしくお願いします。

最後に、道北・オホーツクの皆さんに情報をお届けしている私の思いを記します。知床にはこの2年間、たびたびお邪魔させていただきましたが、春の花々や夏の知床連山、秋の紅葉、冬の流氷と、どのタイミングを切り取っても絵になる、いつだって感動をくれる大好きな場所です。その知床の人たちは事故と向き合いながら、より安全で魅力あるアクティビティを提供しようと歩きだしています。
観光船事故から2年のきょう、多くの人たちが世界自然遺産・知床の今に目を向け、訪れるきっかけになってほしいと願っています。私もまた近いうちにお邪魔します。

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