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調査結果をどう見る 函館駅と新幹線

  • 2024年4月11日

去年春の函館市長選挙で当選し、JR函館駅への新幹線乗り入れに関する調査を実施するとした大泉潤市長。その調査結果がまとまり、「技術的に函館駅への乗り入れは可能」と結論づけられました。函館駅への新幹線の乗り入れをめぐっては、「これまでに十分に議論されてこなかった」との声もあれば、「もう終わったことだと思っていた」との声も。 大泉市長は今回の調査結果について、「自由な議論のスタートを切る準備ができた。まずはそのことが大きな成果だと受け止めている」としています。

どうやって函館駅に?

北海道新幹線の乗り入れの区間は、新函館北斗駅と函館駅の間で、函館市と七飯町、それに北斗市にまたがるおよそ18キロ。この線路はいさりび鉄道や特急北斗、貨物列車などが運行。七飯駅との間では1日100本が走るなど、多くの列車が行き来していて、観光客だけでなく通勤や通学など地元の人の「足」としても使われています。
仮に函館駅に新幹線が乗り入れた場合、今は必要な新函館北斗駅での在来線への乗り換えなしで函館駅に来ることができるようになります。

一方、線路の幅が在来線より広い新幹線。
今回の調査では、レールを一本加えて幅を広げることにより、在来線も活用できるとする方法が前提とされています。

さらに2種類の車両を想定。
通常の新幹線と同じ「フル規格」と、より車体が小さい「ミニ新幹線」の2種類です。
「ミニ新幹線」は現在、秋田新幹線や山形新幹線として運行されています。

続いて運行パターン。大きく分けると、
▼函館―札幌のみ (東京への運行はなし)
▼函館―札幌、函館―東京 それぞれを結ぶ  というもの。

このうち、函館―東京の間では2つの方式があげられています。
▽新函館北斗駅で進行方向を変える「スイッチバック」をする
▽新函館北斗駅で一部の車両を切り離したり連結したりする

いずれも、新函館北斗駅での乗り換えは不要となります。

(※イメージ図)

こうした乗り入れ方式に加えて、
▽「フル」だけか「ミニ」だけかや、
▽「フル」と「ミニ」の組み合わせ などのパターンで整備費が算出されています。

その結果、函館駅や五稜郭駅のホームの改修、運行システムや電気関係の工事などを含んだ整備費は157億円から169億円と試算されました。一方で、この整備には、1両あたり5億円とも推定される新幹線の車両費は含まれていません。

収支と経済効果

次に、新幹線が乗り入れた場合の新函館北斗ー函館間の収支予測です。
調査では、列車の運行と線路などを保有する事業主体が同じ「上下一体式」と、どちらか一方が別の主体となる「上下分離式」にわけて試算されています。

このうち、JRが列車を運行し、第3セクターが線路などを保有するケースでは、単年度で黒字。また30年累計の収支見込みでも、黒字になると算出されています。
さらに、第3セクターのみの場合でも、運行パターンによっては黒字となっています。

しかし、線路を保有する事業者などに支払われる「線路使用料」があるかないか、その金額によって収支は大きく異なります。
例えば、第3セクターが線路を管理した場合に、列車を運行するJRから「線路使用料」を支払ってもらえる場合は黒字、そうでない場合は赤字に。逆にJR側から見ると、「線路使用料」があることで赤字となるとしていますが、調査結果ではいずれのケースも「実際には関係機関との調整のうえで決定されるものである」としています。

一方、乗り入れによって、新函館北斗駅と函館駅の間では1日あたりの輸送密度が1300~1500人増加すると予測。函館市を訪れる人は1日あたり最大800人程度増えるなど、経済効果は最大140億円程度になるとしています。

札幌延伸との関係は

今回の調査では、現時点で2030年度末の開業を目指す北海道新幹線の札幌延伸と同時に工事を進めて開業することを前提としていて、設計から開業までは5年程度かかるとしています。ただし、この5年程度とする整備工程の想定も人員を確保できることが前提だとしています。

北海道新幹線が札幌まで延伸され、仮に函館駅にも乗り入れることになった場合、函館―札幌間の所要時間は83分で、函館駅に乗り入れず新函館北斗駅で乗り換える場合よりも、約9分間の短縮になると予測。札幌駅の周辺まで90分以内で移動できることになり、利便性の向上や交流人口の増加が期待されるとしています。

一方、この札幌延伸と同時に整備ができない場合について、調査では「システム改修にかかる費用36億円が数倍に膨らむことは避けられない」などとしています。
大泉市長は記者会見で開業を目指す時期について明確には触れませんでしたが、「札幌が開業する時にあわせて函館の乗り入れをやることがふさわしいというか、そこにメリットがあるというか、それしか実はやりようがないと思う」とも話していました。

「イエス」か「ノー」かの段階でない

大泉市長は、議論を進めるためには整備工程や費用の目安などが一定程度、必要になるとしてきました。そして、今回の調査の大きな目的については「技術面や運用面で乗り入れがそもそも可能なのかどうか」や「整備費や経済波及効果を客観的に明らかにすること」だったとし、「今この段階で一概にイエスとか、ノーとか、言う段階ではない」としています。

大泉市長
「可能性がわずかでもあるならば、それを追求することはやるべきだろうということ。
起爆剤になり得るものは新幹線に限らず追求していかなければ、人口減少を少しでも食い止めることは本当に難しい。
函館市が重要な役割を担うのはもちろんです。ただ、函館市長である私が中心になり、目立ってけん引していくことではない。地域が一丸となって、函館駅への乗り入れについてまずは考えて、まとまれば前に進んでいく。これが理想型であり、なくてはならないと思っています」

こうしたなか、4月中旬には函館市の市議会で話し合いの場が設けられることになっているほか、市の担当者らが近隣自治体へ調査結果の説明も行うとしています。

JRと道に報告

調査結果が発表された翌週、大泉市長は道庁とJR北海道を訪れ、道の浦本元人副知事、JR北海道の今井政人副社長に報告しました。

面会後の大泉市長によりますと、道からは周辺自治体にも説明してほしいという要望があり、JRからは新幹線の車両費の負担などについて懸念が示されたということです。

一方、JR北海道はこれまでの会見で、「北海道新幹線の函館乗り入れは難しいといったん整理されている」と述べています。

総合的な見方が必要

関係機関が多い新幹線の乗り入れ事業。それぞれの立場がある中で、この結果をどのように捉えたうえで、話し合いや交渉を進めることになるのでしょうか。
今回の調査結果について、新幹線とまちづくりの関係を研究している青森大学の櫛引素夫教授は、適正な事業規模なのか、持続可能なのかなど総合的な判断が必要だと指摘。
直接的な経済効果や費用面のほかに、利便性がどれだけ向上したかなどの視点も大切で、「乗り入れにかかる費用のみ」をとりあげて論じることは難しいと話します。

関係機関であるJRと北海道、それぞれについては…。

▼JR
JRについては、技術的にもコスト的にもハードルが高いとしています。
乗り入れる場合のさまざまな可能性を検討したり、新しい技術を開発したりするとなると、別途でまたそのためのコストが発生します。こうしたコストを引き受けてもなお会社にとっても利益があれば、初めて鉄道事業者として交渉のテーブルにつく意味を見いだせるということになると指摘します。

このほか、設備や運用する組織、人員など、直接的な金額に現れない負荷も課題になると説明します。運行イメージの大転換は、企業の文化や行動様式にも触れる部分で信頼関係、協力関係をどうつくれるかが重要になります。

青森大学  櫛引素夫 教授
「JR北海道もそれほど余裕のある会社ではないし、JR北海道だけでなくJR東日本も運用に大きく関わる。技術的な対応やこれまでとは違うシステムをつくっていかなければならないなど、こうした内容も含めたコストがどう関係者に評価されるかっていう辺りがとても大きな要因」

▼北海道
一方の北海道。こちらはまず道全体の鉄道網について、旅客や貨物も含めて今後どうするのか話し合っていくなかで、「函館駅への乗り入れ」という大きな要因が新たに加わったことになるとしています。
さらに、道全体の地域格差についても指摘。
新幹線の事業にあたっては、函館駅への乗り入れに関係なく、札幌への延伸で沿線地域は住む場所として選ばれやすくなる可能性があるなど恩恵があります。一方で、道東や道北とのギャップは大きくなってしまい、直接的な恩恵が薄くなってしまうと言います。

櫛引素夫 教授
「道庁の立場としては、道南にだけ肩入れしづらい空気や流れがあります。
北海道全体としてのバランスをどう考えるのか、仮に道に支援を求めたとして、ほかの地域の人たちの理解をどう得るかが非常に難しいテーマになる。
手順や段取りそのものをいかに丁寧にシミュレーションし、交渉のための資料や環境を整えていけるかどうかが最初で最大のポイントになりそうだと思います」

いまボールは市民の手に

そしてこれから重要なのが、函館市民による話し合いの場です。
櫛引教授は「新幹線の乗り入れはあくまで手段だ」と言います。
都市計画におけるビジョンや整合性がどうなるか。人口構成を念頭に都市機能をどう配置するのか。駅前にどのような機能を与え、市全体の中でどう位置づけていくのか…。考えるべき課題は山積。「駅前への投資やさらなる開発を促す」だけでは持ちこたえられないと指摘しています。

櫛引素夫 教授
「お金に換算できる部分だけでなく、お金に換算できないが市民みんなが利便性を享受したり、これまでの思いが満たされたりするなど感情的な部分も含めて、整理しながら丁寧に話し合わないといけない。
市長はいま、新幹線を函館駅に通すという1つのボールを市民に投げた。
最終的に結論がどう落ち着くにしてもまちの将来をみんなで考える、そういう営みをすること自体がとても大事だと思います」

函館市だけでなく道南、そして北海道全体を見ながらどのような将来ビジョンを描き、互いに共有できるか。合意形成の力に加え、関係機関との調整や交渉力も問われます。人口減少や過疎化などを最大の課題に位置づけている函館市。「新幹線の乗り入れ」というテーマと共に、改めてまちの将来を考えるスタートラインに立っています。

2024年4月10日

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  • 毛利 春香

    函館局記者

    毛利 春香

    2018年入局 秋田局を経て2022年から函館局 人生初の北海道で場広く取材

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