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札幌に生きるサクラマスを大事にする方法 琴似発寒川

  • 2023年7月12日

札幌市の住宅街を流れる琴似発寒川には、サクラマスが海からやってきて卵を産み、稚魚たち(ヤマメ)が誕生する、野生のサイクルがあります。 その琴似発寒川で、毎年、ヤマメを放流してきた「山の手ヤマベ里親の会」は、ことしから「稚魚放流」を止めました。川に息づく、野生のサクラマス・ヤマメたちのことを考えての決断でした。

テレビ放送:2023年7月13日(木)午前11時45分から総合テレビ 北のサケお兄さん

都会の川を遡るサクラマス

手稲山から流れ出す琴似発寒川。最上流こそ山の中を通る流れは、山裾から一転、住宅街を流れ進みます。
石狩湾につながるこの流れを春から夏にかけて遡上してくるのが、サクラマスです。6月、下流の深みを覗いてみると、体長50センチほどのサクラマスたちが群れていました。

雨のあと水が増えた琴似発寒川では、そのサクラマスたちが上流を目指す姿を観察できます。サクラマスにとって増水は遡上のタイミング。水かさがあがれば、それだけ上流に泳ぎ着く可能性が高くなるからです。
たくさんある落差工には魚道がとりつけられていますが、増水時には場所によって別の流れが太くなり、結果として落差工の直下を迷うサクラマスで出会います。


真っ赤にそまったサクラマスが命をつなぐ

魚道を越え、高水温に耐え、川の中で秋まで過ごしたサクラマスたちは、体の色が婚姻色に染まります。特に、オスたちは、体が真っ赤に、鼻先は鉤鼻のように突き出します。産卵期の到来です。

琴似発寒川のサクラマスの産卵場所は、中流から上流にかけて。砂利の下の卵に託された次の命は、翌年の春、稚魚=ヤマメとなって、川のあちこちで泳ぎ始めます。

山の手ヤマベ里親の会の新たな取り組み

2023年5月の土曜日朝、琴似発寒川の中流域、発寒河畔公園に、山の手ヤマベ里親の会の運営関係者が集まりました。
里親の会は、琴似発寒川の本来の自然を取り戻したいと、地域の子どもたちとヤマメの稚魚を育てて放流する活動を、2003年から続けてきました。ただし、ことしは活動を大きく転換させる年になりました。放流を止めることになったからです。
メンバーが準備のために始めたのが魚とり。子どもたちに、去年うみつけられた卵から生まれたヤマメの稚魚を見せるためです。

20分の魚とりで、用意した2つの水槽の中で、たくさんの野生のヤマメたちが泳ぎ始めました。

「稚魚放流」から「魚をよく知る」ための活動へ。

準備が整った水槽の前にやってきたのは、山の手児童会館の子どもたちです。これまでヤマメの稚魚を育てる活動を担ってきました。

子どもたちは前の年の秋の活動で、産卵期のサクラマスを観察。今回はその卵から生まれた稚魚=ヤマメを観察します。

「このヤマメは川にいたものです。さっき僕たちが川で捕まえてきました。ということは、みなさんが放流しなくてもこの川にはたくさんのヤマメがいるんです」

子どもたちに説明したのは、環境コンサルタント会社に勤め、札幌市の環境保全アドバイザーをしている渡辺恵三さんです。

続いて子どもたちが向かったは、分流になっている小さな水路です。しゃがみ込んで水路を覗き込んでいた子どもたちから「ヤマメがいる!」と声があがりました。

「ヤマメたちは流れのあるところにいます。流れてくる虫たちをつかまえて食べるためです」

解説したのは、サクラマスの調査に取り組む長谷川功さん。水産研究・教育機構水産資源研究所の研究者です。

写真右・研究者の長谷川功さん

河川環境や魚の専門家である、渡辺さんと長谷川さんは、仲間の研究者たちとともに、里親の会の二本柳健司さんから活動についての相談を受けてきました。

2017年に最初の相談があってから、秋のサクラマスの産卵の観察、春の野生の稚魚ヤマメの観察、さらにサクラマスをめぐる研究成果の勉強会などを積み重ねてきました。その結果、理解が進んだのは—

里親の会の人たちが、豊かにしたいと考えている琴似発寒川には、野生のサクラマスが遡上し、産みつけられた卵から毎年たくさんの稚魚=ヤマメが生まれていること。
その琴似発寒川に別の場所から持ってきた稚魚を放流すれば、野生のヤマメのくらしに影響すること。

里親の会は、ことしからヤマメの放流をやめることを決断しました。野生の魚たちを観察してよく知ることを、会の活動にかえました。 

山の手ヤマベ里親の会 二本柳健司さん
「方針の転換には、正直に言いまして葛藤がありました。これからは産卵と稚魚の観察会を主な活動に変えて自然に関わっていくということですね」

野生のサクラマスが息づく川

札幌市豊平川さけ科学館は、毎年琴似発寒川のサクラマスの産卵床を調べています。2022年の産卵床の数は485、過去最多となりました。川の水量が多く川を遡上しやすかったため、平和の滝までサクラマスが遡上、さらに上流を目指そうとジャンプする姿も観察できました。

平和の滝にチャレンジするサクラマス(2022年)

琴似発寒川は、住宅街を流れる川でありながら、野生のサクラマス・ヤマメがたくましく暮らしています。この自然にどう接して、どう関わっていくのがいいのか。二本柳さんたち山の手ヤマベ里親の会の新たな活動は、都会の野生を大事にする方法の一つです。

この記事を書いた人

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サクラマス
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サケ
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