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地元の将来に危機感 南茅部で旅行ツアー企画中

  • 2023年8月29日

全国各地であの手この手が講じられているものの、歯止めをかけることが難しい「人口減少」。函館市の東部、海沿いに広がる南茅部地区でも深刻な過疎化が進み、主力産業の漁業の担い手も減少の一途をたどっています。こうしたなか、地域の魅力を広く伝え人を呼び込もうと立ち上がったのは地元の人たち。アイデアを出し合って決めたのは、南茅部の魅力を詰め込んだ体験型の「旅行ツアー」の企画でした。

縄文遺跡残る自然豊かな町

2021年に世界文化遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」が残る、南茅部地区。垣ノ島遺跡では竪穴式住居の跡のほか、祭祀や儀礼のための土器や石器などが見つかっています。ここで当時、狩猟で生活していた人たちの暮らしを支えたのが豊かな海洋・森林資源で、現在も南茅部の強みの1つです。

一方で、深刻な過疎化が進んでいます。人口はピークの昭和30年には1万6500人ほどでしたが、現在は4300人あまり。高齢化も進みコンブ漁など主力の漁業でも担い手が不足しています。

「南茅部リバイブサロン」設立

こうしたなか、地元の将来に危機感を感じた人たちが集まり、ことし4月から旅行ツアーの企画を進めてきました。メンバーは、漁師や木こり、クリエイティブ・ディレクターなど職種を超えた地元の人たちで、「南茅部リバイブ(再生)サロン」(頭文字をとって「MRS」)を設立。南茅部の課題を出し合って解決策を模索し、実際にアクションを起こす。それを検証し改善しながら進めていくことにしています。輪は広がり、函館市の南茅部支所も協力。最近は新たに2人の女性も加わりました。

メンバーの1人、山田貴久さん。地元の知り合いから「南茅部の将来に危機感を持っていて活性化のために何かできないか」と相談を受け、同じような危機感を持っている人たちに声をかけました。

山田さん
「1人ではなくて同じ志を持っている人間で話し合えばいろいろなアイデアがでてくる。その中で人口減少と漁業者の後継者不足の解決が第一優先であるということになりました。新しく人口や漁業者を増やしていくために、南茅部に1回来てもらい、まずはいろいろな体験をしてもらうのがいいのではないかと考えました」

南茅部で楽しんでもらい、移住や定住、地域の活性化につなげたい。
縄文人の暮らしを支えた豊富な森林・水産資源があるここで、漁業体験や山でのアクティビティー、縄文文化に触れられる内容など、2泊3日の旅行ツアーを計画しています。メインのターゲットとして想定しているのは20代から40代で、インターネットを使って場所を選ばずに仕事ができる人たちなどです。

こうしたなか、初めての実証実験が8月20日に行われることになりました。期間が1日と限られるなかでどんなツアーにするのか。初めてということもあり、メンバーだけで事前テストを行うなど準備を進めました。

海の幸と絶景

実証実験の当日。
体験するのは、南茅部に2週間ほど滞在して地域づくりについて学んでいる、北海道教育大学函館校の学生です。

集合したのは臼尻漁港。予定していたタコ箱漁の体験は波が高く中止になったため、漁師から教わる「ロープワーク」からスタートです。
災害時や緊急時に役立つ、ほどけにくい結び方を教わります。例えばアウトドアなど外出先で溺れかけている人がいたとき、ロープの輪をつかんだり体に引っかけたりしてもらい引っ張れば助けることができます。また強風が予想されるようなときに、物を柱などにしっかり固定できる結び方も練習しました。

このロープは実際にタコ箱漁に使われているもので、学生たちは漁の方法についても漁師さんから話を聞いていました。漁港から1時間ほど船を走らせた場所に、3000個のしかけが。一番とれたと思うときは、4個に1個タコが入っている時だそうです。

続いて、まだあまり知られていない絶景スポットへ。岩戸町の黒羽尻川が流れ込む海岸では、潮が引くと散策することができるようになり、「映える」写真を撮影できる絶景が広がります。

そして、お昼ご飯には地元でとれた海の幸を。けさとれたばかりのタコや地元の事業者が手がけているふりかけ、地元の人たちが作った料理などを味わいました。

山で遊び尽くす

午後は海から山へ。
地元の木こりから安全講習を受けて、チェーンソーで丸太をつくる「玉切り」を体験。

そのあとは高さ20メートル、直径25センチほどのスギの伐採に挑戦。順番に切り込みを入れて、くさびを打ち込んでいきます。木が倒れる瞬間は迫力いっぱいで、学生も思わず「すごい」とこぼしていました。狙った方向に無事に倒れ、高評価をもらった学生たち。年輪を数えると30数年の木だったこともわかりました。

続いては、ロープを使って木に登る「ツリークライミング」。手と足を使ってロープを引きつけながら少しずつ登り、まわりの景色も楽しみました。

地元の人とのふれあいも魅力

初めての絶景や体験を通じて海と山を満喫し、リフレッシュできたと話す学生たち。地元の人たちとの交流も魅力的だと感じていました。

学生
「どこをとっても絵になるようなところばかりで。楽しかったです。
ただ体験するというよりは地元の人と関わることの方が観光する上でとても大切だと思うので、一緒に体を動かして、きれいな景色を見たりできるのが一番いいと思います。人口の少なさが逆に魅力になったり私たちみたいな学生が地域に入り込んで隠れた地域資源を見つけたりすることで、地域がより盛り上がってほしいです」

学生
「知らない場所も多くて驚いたし、自然の中ですがすがしかったです。
このツアーを企画している人たちの思いももっと聞けたらうれしいです。やっぱりもう1回行きたくなるのは、その地域の人たちの人柄とか印象なのかなと思うので。
今回めぐったような自然があり、それをツアーにして伝えるなど南茅部をなんとかしたいって人がいることもこの地域の魅力だと思います。そういう人たちの背中を見られる機会があって本当によかったです」

「南茅部リバイブサロン」では、今回体験した学生からの声も聞きながら、今後はこのツアーを旅行商品として完成させる予定です。

山田さん
「どこに行くにしてもそこでの人とのふれあいが大事だと思うんですよね。
1人ひとりがこの町をどうしていきたいかを考え、そこでアクションを起こせるかどうか。こういう我々の活動もその1つですし、他の人たちも動きが出てくるかもしれない。そうするとコミュニティー全体が活性化されて、おもしろくなっていくんじゃないかと思います」

2023年8月29日

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