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新しい飼料作物ソルガムを道内に!

  • 2024年2月20日

気候変動やウクライナ情勢の影響で、家畜用の輸入飼料の価格が高止まりしています。 酪農などの畜産業界では粗飼料(そしりょう)とよばれる牧草やデントコーンを栽培し、自給率を上げようという動きが広がっています。その中で十勝地方では、温暖化による気候変動や獣害の対策として、新しい飼料作物ソルガムの試験栽培が始まっています。 このソルガム、牧草やデントコーンに次ぐ第3の選択として注目されているんです。 (帯広局 柳澤 啓カメラマン)

帯広畜産大学の秋本正博准教授はアフリカ原産でイネ科の飼料作物ソルガムが本州で作られていることを知り、4年前に栽培の研究を始めました。牧草やデントコーンが主な飼料作物の北海道で、新たに飼料作物の選択肢を増やし安定して収穫ができるノウハウを確立するのが狙いです。種まきの時期や種をまく間隔、収穫の時期などを帯広畜産大学のほ場で調べてきました。ひと株の間隔を8cm、12cm、16cmと3つに分けて植えました。気温や降水によりどの密度で植えれば収量が多くなり品質が良くなるかを調べるためです。

(秋本さん)「北海道では飼料用の作物が牧草とデントコーンしかありません。いまの環境変動の中で育てやすい作物を北海道の飼料作物の体系の中に組み込んでいくことで国産飼料の増産につながるのではないかと期待しています」

『大きく育ち気候変動にも強いソルガム』

乳牛の主な飼料になるのは牧草とデントコーンです。デントコーンと比較するとソルガムには同じイネ科のデントコーンにはない特徴があります。草丈が4mほどに育ち、茎も葉も大きいためデントコーンよりも大きな収量が見込めます。ソルガムにはトウモロコシのようなデンプンが豊富な実はつきませんが、牧草とほぼ同等の栄養があり発酵させると保存に適しています。

ソルガムは倒伏に強いことも大きな特徴です。暴風雨が吹くと濡れた茎や葉の重みでソルガムは倒れてしまいますが、根を1メートルほどまで深く張るソルガムは暴風雨で倒れても、元のように立ち上がります。大学の畑で2021年8月5日に倒れたソルガムは10日後にはもと通りになっていました。これは一度倒れてしまうと立ち上がらないデントコーンにはない大きな違いです。

『2023年ソルガムは猛暑で更に大きく育った』

十勝地方も記録的な暑さになった去年、大学のソルガムの草丈は4mから5m近くになりました。これは平年の成育よりも1mほど高い大きさです。

(秋本さん)「気温が高かったことと、日照に恵まれたおかげで例年に比べて非常によく育っています。ただこの育ち過ぎというのも善し悪しがあって当然収量は高くなると思うのですが茎が固くなります」。

『長年自給飼料を大切にしてきた大樹町のギガファーム』

この大樹町の酪農ファームでは乳牛を中心に2600頭の牛を飼育しています。

鈴木一紀さんは飼料作物の品種選定や栽培・収穫・貯蔵を管理する責任者です。

(鈴木さん)「年間で生乳を1万7千トン生産していますがその乳量を確保するためにも自給粗飼料というのはものすごく大事になります」。

デントコーンの実などを加工した輸入飼料は、タンパク質や炭水化物が多く含まれていて良質な生乳を生産するため欠かせないので、価格が高騰する中でも購入しなければなりません。一方、この酪農ファームでは牧草を460ヘクタール、デントコーンを270ヘクタールの畑で栽培しています。自給による粗飼料確保を大切にしていて、長年飼育頭数に合わせて牧草やデントコーンをつくる畑を広げてきました。

牧草の収穫は6月中旬から始まり、品種により年に2回から3回行われます。

デントコーンは栽培期間が異なる品種の収穫時期に合わせて9月中旬から10月上旬にかけて年に1回刈り取りが行われます。

バンカーサイロに刈り取ったばかりのデントコーンを搬入

この酪農ファームでは牧草やデントコーンはバンカーサイロとよばれる貯蔵施設に運び込みます。重機で踏み込んで空気を抜いて発酵させます。日常食べさせる分と、何かあった時への備えで、あわせて1年半分を貯蔵しています。

『飼料作物に依存するエゾシカが被害をもたらす』

これは11月に大樹町で撮影したオスのエゾシカ。牧草やデントコーンをたくさん食べてずいぶん大きく育っています。大樹町でも近年エゾシカが増えたことでデントコーンや牧草の被害が深刻になっています。飼料用のトウモロコシはデンプンが豊富な実をつけるため、乳牛のエサには欠かせない作物です。その大切な作物がシカに狙われました。酪農ファームの畑では場所によってアライグマも!多くはありませんがヒグマによる被害も出ているといいます。

(鈴木さん)「実がバクッと食べられています。この先も畑の中ずっと続いているので食害を防ぎたいと思っています」。

この酪農ファームが使う複数のデントコーン畑ではあわせて20ヘクタールで被害が出ていて対策が急がれていました。そこで鈴木さんが試験的に栽培を始めたのがソルガムです。ソルガムにはデントコーンのように大きな実がつかないのでシカが寄ってこないのではと考えました。

『帯広よりも冷涼な大樹町でソルガムは育つか?』

大樹町は太平洋に面していてソルガムを栽培する6月から10月の平均気温が帯広よりも1℃から2℃ほど低くなります。秋本准教授は内陸にある大学とは違う、太平洋に近い大樹町のソルガムの畑に関心を持ち、9月の収穫前に訪ねました。大樹町の畑でも、大学の畑と同様ソルガムは大きく育っていました。秋本准教授はデントコーンと同じ間隔で種をまくと、ひと株がとても大きくなってしまうと指摘しました。茎が太く固くなれば、サイレージにしても牛が好まないエサになるからです。

「ちょっと詰めて、茎が細くなりますけど株数で取っていく方がむしろエサとしたときに良いのかなと思います。ここは大学に比べて気温が若干低い土地になります。十勝の中でも帯広市と大樹町といった地域ごとに育て方を考えていく必要があるかなと思います」。

秋本准教授は現地を視察することで地域ごとの課題が見えてくるといいます。

ソルガムの刈り取り

獣害対策がきっかけで初めてのソルガムを収穫した鈴木一紀さん。
「デントコーンに比べて草丈も高いですし、収量も確かにあったので今後新しい作物としていけるかなと思いました」。

『これまでの研究から北海道でも十勝地方でもソルガムは育つ!』

秋本准教授がソルガム栽培の研究を4シーズン行ってきたなかで、平年並みの気温の年が2回。猛暑の年が1回ありました。秋本准教授は温暖化と言われるが1年を通してまんべんなく気温が上がっているのではなく春と秋の気温が30年前に比べて2℃から3℃くらい高くなっていると指摘します。

(秋本さん)「これまでソルガムは北海道ではあまり栽培されてきませんでしたが、春が温かくなり夏には高温が継続すること。秋の登熟(種が発育)する時期が温かくなっています。ソルガムがエサとして利用可能な段階まで栽培できるということがここ数年で判明しました。北海道でも十分活用できる見込みになってきました」。

秋本准教授は、2023年は真夏に気温がかなり高く雨が少ないという平年とは違う年だったので、あと1~2年ほど栽培試験を行いたい。種を蒔く時期や収穫時期。どれくらいの株数で植えたら良いのか。恵まれた年でも、ある程度良くない年でも一定水準以上の収穫が行える技術を確立したい。さらに、生産者が育てやすく、北海道に適したソルガムの品種を見つけ出したいと話します。

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