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「白老の衣服文化」 ルウンぺをめぐる物語

  • 2022年4月29日

白老町のウポポイにある国立アイヌ民族博物館で、特別展「白老の衣服文化展」が開かれている(2022年3月15日〜5月15日)。地域という視点でアイヌ文化を見る試み。展示を企画したウポポイの地元、白老町出身の学芸員・八幡巴絵さんに取材しました。

初回放送:0755DDチャンネル 2022年4月30日(土)あさ7時55分〜 総合テレビ

「はじめて」の企画展

国立アイヌ博物館で「はじめて」の企画展が開催された。タイトルは、「白老の衣服文化」。アイヌ文化のシンボル的な存在、木綿の着物ルウンぺについての特別展だ。

博物館2階の特別展のスペースには、31着のルウンぺが展示されている。いずれも白老の人たちが作ったり、所有していたもの。白老という一地域に視点をしぼることで、デザイン、素材、担い手にじっくり視線をおくり、アイヌ文化の地域ごとの独自性・多様性を探るのが、この特別展の最大の特徴であり、この博物館で「はじめて」の試みだ。

白老アイヌ出身者による白老アイヌの文化展

特別展「白老の衣服文化」を企画・提案したのは、アイヌ民族博物館の学芸員で、白老アイヌ出身の八幡巴絵 学芸主査だ。

展示をルウンぺに絞りこんだ理由について八幡さんは—

「自分のまわりに、衣服制作に対して、プライドを持っている方が多かったのが大きいです」

こう話す八幡さん自身は、大学時代までは、アイヌ文化にそれほどこだわりはなく、担い手になることを考えたこともなかったという。

大きな転機になったのは、大学生の時に訪ねたハワイでの、先住民族との交流研修だった。自分たちの文化に誇りを持っている彼らの姿と自分を比較して、大きなショックを受けたという。

「現地の先住民の若い子たちがはつらつとして伝統の歌を歌っているのをみて、当時の自分の地元とは全然違うなって。アイヌの歴史はどんなものなのか、それに対して自分がどう思っているのか、聞かれても全然答えられない…」

〜人に期待するんじゃなくて自分自身が頑張らなきゃだめだなって〜

就活も途中でやめ、北海道の歴史と文化の授業を選択し直し、学びなおした。

ウポポイの前身、白老ポロトコタンの旧アイヌ民族博物館で、学芸員として働くようになり、アイヌの生業などをテーマに研究をしてきた。
いま、アイヌ的なものを普段の生活にどう落とし込むか、考えている。新車の納車をカムイノミで安全祈願した。「おかげで無事故ですね」と笑う。

白老的なものとは

八幡さんは今回の展示で、江戸末期から現代までの白老のルウンぺを辿ることで、地域の中で、どう文化が引き継がれてきたのかを表現している。

取材チームが注目したのは、まずは白老的なものの変化。

白老的なデザインとして引き継がれてきたのが、テープ状の布を使った紋様。江戸時代末期のルウンぺにはそれがよく表れている。

一方で、明治の終わり頃のルウンペには、布を切り抜いて縫い付けた模様が施されている。これもまた、白老的な技術なのか。

このルウンぺを作ったのは、八幡さんの高祖母にあたる、上野ムイテクン(1872-1964)。ここ数年の聞き取り調査で、ムイテクンは、日高の出身であることがわかった。

つまり、ムイテクンは、日高からあらたな技法、「布を切って縫い付ける方法」を白老に持ち込み、やがてそれも、白老的な技術として引き継がれることになったと考えられる。

八幡さんは、聞き取り調査で、この結論がもたらされる前から「予感」があった。それは、かつて、ムイテクンの音声資料を聞いていたときだ。白老アイヌにないことばがあることが不思議だった。

国立アイヌ民族博物館学芸員 八幡巴絵さん
「思ったより人の移動があったんだなって。色んな地域から、人と技術が白老に集まって、独自の文化ができていったんだなと思いました」

ユニフォームになったルウンぺ

特別展では、ルウンペ作りの担い手が、かつての家族単位から、地域単位に変化していく様子も展示している。それにはウポポイの前身である白老ポロトコタンが大きな役割を果たした。

かつて巨大なコタンコロクル像が人々を迎えたポロトコタン。訪問した人々は、踊りの舞台の上だけでなく、ポロトコタンの中を行き来する、ルウンペを身につけたアイヌ文化の伝え手たちとすれ違った。ルウンペはユニフォームとしての役割を担った。

展示で紹介されているユニフォームとしてのルウンペ(1980年代)は、個人が作ったルウンペを手本にして大量に作られたものだ。

もうひとつの初めて

八幡さんたちは今回の展示の一角の壁一面を掲示板にしている。
このスペースは、展示を見た人たちが感想や質問を書き込んだ用紙を張り出していて、気づきを共有できるしかけだ。

「会期の半分くらい過ぎたあたりで、壁一面になって、驚いています。実際に衣服を制作した人から、その思いを書いたメッセージもあります。そういった生の声がとても大切だなって思います」

寄せられた質問に対して、八幡さんは用紙いっぱいに返事を書いていた。
その返信は、質問と隣り合わせに貼り付けられ、こうしたコミュニケーションも、展示の一部として受け取って欲しいという。

対談イベントでさらに深く

大型連休中の5月4日(水・祝)午後1時30分〜、長年、アイヌの衣服を研究してきた岡田路明さん(元・苫小牧駒澤大学国際文化学部教授)と、八幡さんのトークイベントが開かれる。
岡田さんは、八幡さんの恩師にあたる研究者で、1965年以降行ってきた調査・研究と、白老ポロトコタンでの衣服づくりなどについてをテーマに紹介予定。

※事前予約が必要。詳しくは国立アイヌ民族博物館のHPで。

地域の人たちの助けを借りて

国立アイヌ民族博物館学芸員 八幡巴絵さん
「今回の展示では、衣服そのものだけでなく、その制作者や着用者のこともひとつひとつ話を聞きに行ったりする中で集めていきました」

白老でアイヌ文化はどのように形成され、新たにどう創造していくのか。地元出身の学芸員が、「当事者」として受け止めた、地域の「文化伝承のさま」を形にした。

国立アイヌ民族博物館学芸員 八幡巴絵さん
「先輩方の蓄積や地域の制作者たちの協力があってできました。伝統的なものづくりを突き詰める人にとっても、新たなものつくりをする人にとっても、参考になるようにたくさんの資料を準備したのが、今回の熱量なんです」

話す八幡さんの笑顔に、アイヌ文化の伝え手としての充実感を感じた。

取材・撮影 山口琉歌 札幌放送局

千歳市で、アイヌ民族伝統の丸木舟「チㇷ゚」が28年ぶりに制作されました。

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