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最後のインタビュー~咲きながら降るもの~

  • 2023年12月14日

著者:ラジオ深夜便アンカー 村上里和(アナウンサー)

2021年10月に放送した写真家でエッセイストの杣田美野里さんのインタビューを、皆さん、ご記憶でしょうか。

杣田美野里さんとは仕事で知り合いました。写真やエッセー、そして短歌にも、杣田さん独自の視点と考え方、感性が現れていて、私はいつも刺激され、気持ちを明るくしてもらっていました。言葉で仕事をしているアナウンサーとして、杣田さんの言葉に憧れ、尊敬していました。

「ラジオ深夜便」の放送の中で、杣田さんにご承諾を頂いて、短歌を紹介したことが何度かありました。

トンネルの
出口の見えた午後でした
光は二月に
香りはじめる

2019年2月に写真絵はがきで送ってくださった短歌。美しいピンク色の雲が浮かぶ空にこの短歌が印刷されていました。しみじみと励まされるような短歌で、深夜便のリスナーの皆さんにも聞いてほしいと思い、放送で紹介しました。

1年後、2020年3月に一人のリスナーから
「この短歌を書きとめて1年間、心に大切にして過ごしてきました」というお便りがきました。そのお便りを放送で紹介したら、

「私もその短歌を覚えています」「枕元のカレンダーに書き留めていましたよ」と数名の方からのお便りが届きました。杣田さんの言葉の力はこれほどなのか、と感動したのを覚えています。

その話を杣田さんにメールで伝えると、
「とってもうれしい。何よりのお便りでした。ちょっと短歌がスランプでなかなか作品ができずにいます。でも、おかげさまで、そろそろできそうな気がしてきましたので、待っていてくださいね。私も春の光に歩み出さねばと思っています。どうぞお元気で。私もがんばります」と返事がありました。
そのころすでに闘病していた杣田さんでしたが、杣田さんはきっと治ると私は信じていました。

2021年8月に、杣田さんの新しい本『キャンサーギフト』が送られてきました。その本を読んで、杣田さんの命がもう長くはないことを知りました。ショックでお礼のメールを送ることもできませんでした。

9月2日に杣田さんからメールがきました。「本の通販サイトで1位になってうれしくてメールしました」と。1位になった証拠写真も一緒に。

「本を頂いて、すぐには受け止められなくて。メソメソしていました」とメールを送ると、
「あらあら、大丈夫です。本人はいたってさっぱりしています。いつかくる日と覚悟していたので。びっくりさせてごめんなさいね」

新しい本は、写真はもちろん、文章や短歌もすばらしく、そして、杣田さんの人生が終わろうとしていることをはっきりとまっすぐに伝えていました。この本への思い、杣田さんの人生についてインタビューをしたい……。でも、大切な友人がまもなく死んでしまうというのに、インタビューなんてできるだろうか。そのせめぎ合いで、葛藤していました。

考え続ける中で、杣田さんがいなくなってしまった時、もしインタビューをしていなかったら、私はきっと後悔するだろうという思いがわいてきました。私が悲しかろうが、つらかろうが関係ない。人生の最後に素晴らしい本を作った杣田さんに話を聴けるラストチャンス。自分の気持ちはどこかにほっておいて、プロとしてインタビューしよう。杣田さんへの贈りものになるように。

インタビューをさせてほしいと提案したとき、杣田さんはすでに緩和ケア病棟に入っていました。娘さんの柚貴さんからの一日でも早いほうがいい、というアドバイスがあり、急いで提案会議を通して収録。放送日は1か月後に設定しました。「最後に、里和さんと一緒に仕事ができるなんて、うれしい」と言ってくださいました。これは杣田さんとの最後の仕事なんだ、絶対に泣かない、と決めて臨みました。病室に娘の柚貴さんが寄り添い、携帯電話での収録。杣田さんの体力的に、ぎりぎりで実現したインタビューでした。

私がインタビューの編集作業をしていた10月5日、杣田さんが亡くなった、というメールが届きました。編集中の私のヘッドフォンから聞こえてくるほがらかな話し声、笑い声。まだ放送を聞いてもらっていないのに、死んじゃうなんて。泣きながら編集作業を続けました。

インタビューの最後で、杣田さんが本の中で一番気に入っているという短歌を「里和さん、読んでくれますか」と頼まれました。

咲きながら一世(ひとよ)のおわりに降るものを
キャンサーギフトとわたしは呼ぼう

「自分の人生の終わりに、「咲きながら降る」ものがある、キャンサーじゃなくても、「降るもの」はあると思うんですね。誰にもあるんだという気がします。
皆さんもそれを感じながら生きていってほしいなと思います」。

この言葉は、杣田さんから、今、生きている私たちへの贈りものでした。
私から杣田さんへの贈りものに、と思っていたインタビューは、実は、全く逆でした。杣田さんから、私への、リスナーの皆さんへの贈りものとなるインタビューだったのです。
杣田さん、ありがとうございました!

北海道スペシャル「礼文島からの贈り物~杣田美野里のメッセージ」の放送に先立って「ラジオ深夜便」で、杣田美野里さんのロングインタビューをアンコール放送します。こちらでは、テレビでは抜粋して紹介するインタビューの全体をたっぷりお聴きいただけます。

(ラジオ深夜便アンカー 村上里和)

ラジオ深夜便「人生のみちしるべ」アンコール放送
「“一世(ひとよ)の終りに降るもの”がある」

写真家・エッセイスト 杣田美野里(そまだ・みのり)さん
(本放送:2021年10月15日(金))
2023年12月15日(金)午前4時台 NHKラジオ第一/NHKFM 全国放送
放送後らじる★らじるで1週間配信予定

北海道スペシャル
礼文島からの贈り物~杣田美野里のメッセージ

2023年12月22日(金)夜7:57~8:42[総合・北海道]
放送後NHKプラスで2週間配信予定


▷北海道スペシャル「礼文島からの贈り物~杣田美野里のメッセージ」ページはこちら

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