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雲を見るのは防災だ(特別編)

  • 2023年5月29日

5月22日に放送した「#これ防災なんで」。気象庁気象研究所の荒木健太郎さんが「雲を見るのは防災になる」と教えてくれました。
雲への愛に溢れる荒木さんは、これまで映画「天気の子」の気象監修や某テレビ局の有名ドキュメンタリー番組「情●大陸」に出演(都合により番組名は出せませんが、わかりますよね)。NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」では気象資料を提供されています。SNSのフォロワーはなんと33万人以上。
全国で荒木さんに会いたいと思っている人は、多いのではないでしょうか。今回はお忙しいなか、時間を割いて私たちに話をしてくれました。 

取材で向かったのは茨城県つくば市にある気象庁気象研究所。荒木さんは、積乱雲や線状降水帯の実態を解明して、正確な予測につなげる研究や開発をしています。

そんな荒木さんが教えてくれたのが「観天望気(かんてんぼうき)」。これは空模様を見て、天気がどう移り変わるのかを予想する先人たちが積み上げてきた手法です。
荒木さんは、観天望気のことをこの機会にごく一部でも知ってほしいといいます。誰でもすぐにできる初歩の心得を教えてくれました。

荒木さん
「積乱雲」という雲は災害の原因になる典型的な雲です。正確な予測はまだ難しい状況ですが、天気の急変を察知するのに観天望気が有効です。実際に観天望気ができる雲をいくつかご紹介します。

雨を降らす雲として知られている積乱雲。この雲は、非常に局地的に発達して、雷雨を引き起こします。そんな積乱雲に関係する雲を見ることで、天気の急変を察知できるようになるのです。

ここまではよく知られた話ですが、これから先は知っておくと、ちょっと役に立つ知識。積乱雲に関する雲はどんなものがあるのでしょうか?これを知っておけば、天気の急変に備えられる代表的な雲を教えてもらいました。

これは積乱雲になる前の「雄大積雲」という雲です。この雲の頭のところにある滑らかな子が「ずきん雲」と呼ばれています。これは、雄大積雲が今まさに発達中で、大気の状態が不安定であることを意味しています。
その積乱雲の頭の上が平らになったような構造をしているこちらは「かなとこ雲」と呼ばれています。

積乱雲は限界まで発達して、それ以上、上に行けなくて横に広がった構造になっています。この「かなとこ雲」も大気の状態が不安定であることを意味していて、天気が急変する可能性を教えてくれています。

さらになんとこの積乱雲が近づいてきているかどうか、判断の目安となる特徴的な雲の形もあるそうです。

荒木さん
かなとこ雲の下にできるコブ状の見た目の雲。「乳房雲(ちぶさぐも)」と呼ばれています。積乱雲が進んでいる方向に現れることがあるんです。

この乳房雲が自分の真上に現れたら、自分のところに積乱雲が迫ってきているかもしれないと考えて、レーダーで雨雲の動き、位置をチェックして、自分のいる地域にやってきていないかを確認するのが有効です。雲の特徴とか最新のレーダーの情報などを活用して身を守ることにつなげていただけたらと思います。

なるほど!観天望気の極意、早速明日から空を見上げて私もやってみようと思います。さて、荒木さんにもう一つ聞きたいことが。
最近「大きな地震が近く起こるのではないか」と言われていますよね。そんな中、「地震前に空に特徴的な雲が現れる」。そんな噂をみなさん耳にしたことがありませんか?気になりますよね。真偽のほどを荒木さんに聞いてみました。

雲は、地震の前兆にはならないです。よく「地震雲(※正式な言葉ではない)」と言われることがありますが、地下から雲にどういう影響があるのかはよくわかっていません。仮に何かの影響があったとしても、「地震雲」と呼ばれるような雲は、形や状態がすべて気象学で説明できてしまいます。我々が目で見て、その姿や形から地下の影響、とくに地震が起こるかどうかを判断することはできないです。

そうなんですね!根拠のない噂に振り回されないよう意識したいと思います。
そして、そして!せっかくの機会なので、荒木さんのプライベートにも迫ってみました。
空を見上げるのが大好きな荒木さんですが、お仕事が忙しくて空を見れない日もあるのが現実だそうです。でも、そんな忙しい合間を縫って、荒木さんなりの楽しみ方もあるそうです。

荒木さん
最近は衛星のデータを自由に見られるようになっていますので、深夜に衛星のデータで雲を見たりすることは結構あります。NICT「ひまわりリアルタイムWeb」やNASA「Worldview」がおすすめです。

教えてくれたウェブサイトでは、衛星がとらえた台風の目を見たりすることができるそうです。
もう一つ聞きたいことが。実は、荒木さんはこれまで天気にまつわる本を30冊以上出版(監修含む)されていますが、掲載されている多くを自分で撮影しているそうです。部屋の中にも雲の写真がたくさん。これまで一体何枚くらい撮ってきたんですか?

荒木さん
このあいだ数えたところ、45万枚はありましたね。10年くらいで撮影しました。

ということは、1年あたり4.5万枚で、1日あたり平均124枚も撮っているんですね。やはり、すごい!超人ですね!
さらにそのなかで、選りすぐりのお気に入りの雲を紹介してもらいました。

これです。「穴あき雲」と呼ばれている雲です。

なにがいいかというと、周りにできているもくもくしている雲、これは全部水でできているんです!空の高いところにある雲で、氷点下でも液体のまま(過冷却の水の状態)でいます。ただ彼らは、過冷却の水だけど氷になりたいんです。
上空になかなか氷ができない状況で、気流が乱れたり上昇気流ができたりして氷の結晶ができます。すると、それがどんどん成長してまわりの水蒸気を使うようになるんです。つまり、”液体の水と気体の水と固体の水の相変化”がまさにここで見えているという物理的に面白い雲です。

荒木さんの雲愛はとまらず……。
「彩雲(さいうん)」と呼ばれている、虹色に染まる雲についても教えてくれました。

荒木さん
天気の変化を知らせるものではないですが、いいことが起きる前触れ“吉兆”だと言われていて、過去には元号に使われていたことも。こういった雲は珍しいと思われがちですが、実はコツをつかめば、簡単に撮影することができます。太陽を建物などでぎりぎり隠して、太陽のすぐ近くにいる巻積雲(けんせきうん※1)や高積雲(こうせきうん※2)を見てあげると肉眼でも虹色が見えるときがあります。ただ、太陽を直視するのは目を傷めてしまうために危険なので、必ず太陽を隠すようにして見ていただきたいです。

※1巻積雲:高い空に広く広がる小さなつぶ状の雲。いわし雲やうろこ雲などが有名です
※2高積雲:もくもくとした、かたまり状の雲。ひつじ雲などがあります

すごくキレイ!

「彩雲」は雲の形が常に変化していますし、雲粒の大きさによって虹色がどのくらい鮮やかに分かれるかも変わってくるんです。虹色が秒単位で別の色に変わっていくので、高倍率のカメラなどでズームして観察すると変化がわかりやすくて面白いですよ。大気の状態はまったく同じ状態ではないので、雲も個性があっていいですよね。

最後に教えてくれたのは、北海道ならではのちょっとユニークな雲。

荒木さん
例えば、北海道では山のある地域が結構ありますが、山の風下で空気が波打って、そこに「吊るし雲」と呼ばれている、見た目がちょっとつるっとしたような雲が現れることがあるんです。

見ていて面白いですし、これも天気が崩れる前触れになるような雲なので、観天望気にも使える雲です。ぜひ見つけてみてください。天気予報で「西から天気下り坂」と言われるようなときに、空を注意してみてあげると、そういう雲に出会えるかもしれないです。

吊るし雲をはじめて知りました!
観天望気をきっかけに空を見上げる楽しさを教えてくれた荒木さん。雲をはじめとした気象の知識は防災に役立つことから、講演に呼ばれる機会も多いそうです。

荒木さん
気象の防災について、講演で話をすると、一時的にモチベーションが上がるものの、普段は肩に力が入っている状態だと長続きしないと思います。物凄くモチベーションが高くないと疲れちゃいますよね。どうしたら能動的に防災を続けられるか考えたときのアプローチの1つとして、雲とか空を楽しみながら観察するスタンスになりました。
例えば、きれいな景色を見るために気象情報を使う習慣ができれば、いざというときに役立つ。レーダーとかで、雨雲が通り過ぎるタイミングを見計らい、虹を見てみる。太陽と反対側で局地的に雨が降っている時には、高確率で出会えます。このように、普段からレーダーの情報を使っていると、いざというときに身を守ることにつながるはずです。そんな楽しい防災ができるといいですね。それが子どもたちにとって当たり前の文化にできると、災害も減るんじゃないかと考えて活動しています。

「楽しい防災」が子どもたちに広がっていく、それってステキですね!

荒木さん
子どもたちは、空をよく観察しているんです。我々が気づけないような空とか雲の様子にも気づけることが素晴らしいと思っています。もちろん子どもに限らず、大人でも子どもでも、雲についてちょっとした背景知識を持っていると、雲の名前がわかるようになったり、空の解像度が上がったりします。空を見て「なんとなくある雲」と見てしまいがちですが、レンズ状なのか、層状、塔状、ロール状、房状なのか、その違いに気づけるとめちゃくちゃ面白い。特に、子どもたちは興味関心を持つことにすごく柔軟なので、子どもの頃から面白さを伝えたいと思っています。
スマホで雲や空を撮る大人の方もいらっしゃるので、楽しみ方とか出会い方を伝えていきたいです。

荒木さん、ここまで貴重なお話をどうもありがとうございました!

※子どもたちにも親しみをもってもらいやすいように、かわいいイラストで解説してくれました。ちなみにこの雲は積乱雲です。

番外編エピソード
取材で北海道から気象庁に向かった私。実はインタビュー中にテレビ局の職員として、あってはいけないことを起こしてしまいました…。インタビューが始まると、荒木さんは積乱雲について、熱く語ってくれたのですが、その途中機材トラブルで収録されていないことに気づいたのです。「これはやばい!」と意を決して、「ごめんなさい!撮れていません!!」と伝えると、荒木さんは優しい笑みを浮かべて「もう一度お話しましょうか?」と言ってくれたのです。

私はそんな荒木さんに対して、毎日美しい雲や空を見上げていると、自然と心まで寛大になれるのですねと思いました。本当に救われました。

撮影後、NHK北海道Instagram用の動画撮影をお願いすると、荒木さんが手にとったのはパーセルくん棒。このパーセルくんは、荒木さんが考え出したキャラクターで空気のかたまり(エア・パーセル)を可愛く表しています。「情●大陸」に出演したときも使ったそうです。荒木さんにとって、なくてはならないパートナー=愛するパーセルくんを手にこの表情!取材へのご協力、本当にありがとうございました!

NHK札幌放送局 廣田匡志

#これ防災なんで」は、日常に防災意識をインストールすべく、NHK北海道が地域のみなさんの「主張」をお伝えする番組です。あんな防災、こんな防災、意外な防災を募集しています。本気の投稿はもちろん、「これ防災?こじつけ!?」的な投稿も大歓迎です。ご応募お待ちしております!

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