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有珠山 次の噴火に備えて… 経験伝える火山マイスター

  • 2023年4月4日

北海道にある活火山のひとつ、有珠山。20年から30年ほどの間隔で噴火を繰り返し、 2000年に発生した前回の噴火から23年がたちました。次の噴火に備えて、山のふもとではさまざまな防災活動が続けられていますが、その中で大きな役割を担っているのが「洞爺湖有珠火山マイスター」の人たちです。ことしから火山マイスターとして歩み始めた女性を取材しました。(室蘭放送局 小林研太) 

噴火を繰り返す有珠山

胆振の伊達市、洞爺湖町、そして壮瞥町にまたがる標高733メートルの有珠山。記録が残る江戸時代の1663年以降、これまで9回にわたって噴火を繰り返してきた活火山です。最後に噴火したのは今から23年前でした。

2000年3月31日、西側の山麓から噴火。高さ3500メートルまで噴煙が立ち上がりました。噴石や地盤の隆起などによって、ふもとの地域では850棟の建物に被害が出たほか、下水道も寸断されました。一方で、地震などの噴火の前兆現象で山の異変に気付いた研究者や気象台、自治体などが情報を共有して対応にあたったことで、住民およそ1万6000人は事前に避難をしていて、犠牲者は1人も出ませんでした。

経験の共有することの重要性

有珠山は、明治以降、20年から30年ほどの間隔で噴火を繰り返してきました。このため、現在、具体的な兆候はないものの、次の噴火へ向けた備えの重要性が指摘されています。

ふもとの地域では2021年に「有珠山火山防災マップ」を19年ぶりに改訂しました。火砕流や噴石など噴火による危険区域が地図に示されているほか、噴火の兆候を示す地震などのデータや解説が盛り込まれています。

次の噴火に備えるうえで重要なのが、有珠山について理解しておくことです。例えば、有珠山は、過去の噴火では、前兆となる地震が発生しており、「噴火を事前に教えてくれる火山」と表現する学者もいます。一方で、山頂からだけではなく山麓からも噴火することがあり、どこで噴火するか事前に特定することは難しく、防災上の課題にもなっています。

有珠山を知り尽くす火山マイスター

有珠山のふもとでは、被害を減らすためのさまざまな取り組みが続けられています。その中で大きな役割を担っているのが、「洞爺湖有珠火山マイスター」の人たちです。火山マイスターは、火山や地域の自然の特性を学び、正しい知識と噴火の記憶を世代を超えて語り継いでいくリーダー役です。多くの人に火山への理解を深めてもらうことで、地域の防災力を強化することを目指しています。

火山マイスターになるには、年に1度の認定審査に合格しなければなりません。審査は、面接審査とフィールド審査の2つで行われます。フィールド審査とは模擬ガイドのことで、野外学習会の講師役となって、審査員を前におよそ15分のガイドを行います。ガイドする場所は当日にくじ引きで決められるため、事前にはわからず、地域全体の幅広い知識が必要となります。現在、厳しい審査を通過した60人あまりが火山マイスターとして、防災教育の現場などで活躍しています

愛知県出身の新人マイスター

この審査に、去年、合格したのが愛知県出身の中岡紗恵子さんです。中岡さんは、2020年9月に壮瞥町に「地域おこし協力隊」としてやってきました。当初は、火山のすぐ近くで暮らすことに不安もあったという中岡さん。ただ、地域の人たちの火山との向き合い方から学ぶことも多かったと言います。

中岡紗恵子さん
「やはり火山の近くに住むということで不安な面もあったんですが、この地域に引っ越してきて気が付いたことは、皆さん、それが生活の一部になっているということ。噴火は数十年に一度起こるということも皆さんちゃんと認識していて、それに普段から備えるという姿勢がすごく印象的でした」

中岡さんは、高校、大学時代にアメリカやフィンランドへ留学した経験を持ち、語学が堪能です。外国文化にも造詣が深いことから、壮瞥町では教育委員会で国際交流事業などを担当しています。中岡さんみずからが火山マイスターを目指すきっかけとなったのが、2021年、東京オリンピックを前にフィンランド代表の競歩チームの受け入れに携わったことでした。選手たちを火山の遺構公園に案内した際、高い関心を寄せていたのを目のあたりにしました。有珠山や洞爺湖などを見学しようと、この地域には多くの外国人が訪れるため、海外の人たちにも噴火の歴史などを伝えていきたいと考えました。

一人前のマイスターを目指して

マイスターは、みずからが豊富な知識を持つことはもちろんのこと、それを伝えていくことも重要な任務です。このため、マイスターの人たちは、ガイドとしての訓練も重ねています。新人の中岡さんは、実はこれまで大勢の人を前に話す経験がほとんどありませんでした。そこでガイドをする際には意識していることがあります。

中岡紗恵子さん
「大事だと思っていたのは、たくさんある情報のなかで、何をそこで伝えたいのかとか、このツアーの目的は何かっていうのを整理すること。参加者の方が何に興味を持っているかとか、もらった質問や状況を見て、会話をするように話さないと一方的にしゃべってつまらない。そこは大切にしました」

中岡さんは、ことし3月、いよいよ本格的にマイスターとしての活動を開始しました。最初の活動は、さっそく有珠山周辺でのガイドでした。事前の練習では、知識を披露するだけで、情報が整理できていないとの課題も指摘された中岡さん。このため、デビューに向けて準備したのは手作りのフリップでした。ガイドとして相手に伝えたいポイントを短い言葉で示すことで、分かりやすい説明を心がけました。

火山マイスターとして、最初の一歩を踏み出した中岡さん。有珠山への理解を平時から広めていくことが、いつ発生するか分からない次の噴火への備えになると考えています。

中岡紗恵子さん
「知識も必要ですが、どのようにガイディングするかっていうのも重要なスキル。ここからがスタートです。火山マイスターとして認定を受けた者として、地域の皆さんが火山と共生しながら生きていけるよう頑張っていきたいです。いざというときに助け合える環境作りやふだんからのコミュニケーションも大切だと思いますし、有珠山のことを知って、正しく備える心掛けが重要なのではないかと思います」

2023年4月4日

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