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卒業までの半年間の記録 ~紋別市立小向小学校~

  • 2024年4月5日

「紋別市にたった1人の児童が通う小学校がある。そしてその小学校は1人の児童の卒業をもって閉校する」

 昨年、教育関係の仕事に就く友人と話をしていたとき、北海道では少子化によって統廃合する学校が増えているという話を聞きました。気になって道内の小学校事情を調べてみると、オホーツク海側の紋別市に全校児童たった1人の小学校があることがわかりました。たった1人の児童とはどんな子なのか?一人きりで学校生活を過ごすのはどんな気持ちなのか?彼に会って話を聞いてみたいと思い、私はその小学校を訪れることにしました。(NHK札幌放送局カメラマン・正木優至) 

智貴くんとの出会い

「こんにちは!はじめまして!」
昨年11月下旬、教室で初めて会ったときにそう言って元気いっぱいに挨拶してくれたのは古屋智貴(ふるや・ともき)くん。紋別市立小向小学校に通う6年生です。

小向小学校は人口およそ170人の小向地区にある唯一の小学校です。創立から118年たちますが、昭和40年ごろから都心への人口流出が進み過疎化が進行、児童数も減り続け、現在は智貴くん1人だけ。それに伴い、ことしの3月31日をもって閉校することが決まっています。
※現在は閉校

1人で授業を受ける智貴くん

学校では一人きりで過ごす智貴くん。「1人だからおとなしそうな子なのかな」と想像していましたが、実際は全く違いました。休み時間には先生たちと体育館で野球をしたり、教室横にあるスペースで卓球をしたりと、「天真らんまん」という言葉がぴったり。授業中も物怖じせずに自分の意見を述べ、分からないことがあれば自分で調べる努力家の面も持ち合わせています。

卓球をする智貴くん

人と話すことが得意な子という第一印象を受けましたが、お母さんによると入学当初はそうではなく、もじもじした受け答えしかできないほど恥ずかしがり屋だったそうです。在校生1人となり自分から率先して行動していくようになってから、徐々に自分の気持ちを言葉にして話すようになったといいます。

一人きりの学校生活

とはいえ、在校生は「たった一人」。一緒に勉強したり遊んだりする友だちがいない状況を智貴くんはどう思っているのでしょうか。

古屋智貴くん

智貴くん
「1人になったときには、あーほんとになったんだーっていう気持ちはありました。遊べる人数が少なくなったことは寂しかったですし、冗談で他の学校に配る新聞を作る授業の時に『転校生募集中』って書いたりもしました」

多くの人たちに支えられて

自分以外の在校生がいない1年間。そんな智貴くんを支えてきたのは、家族や先生、そして地域の人たちです。小向小学校では運動会や授業参観など、行事ごとに地域の人にも声をかけたくさんの人に参加してもらいました。地域の人たちも智貴くんを実の孫のようにかわいがっていました。

6年間一緒だった小橋先生

そんな中でも智貴くんと一番長く時間を過ごしてきたのは担任の小橋百合香先生(こはし・ゆりか)。智貴くんが1年生のころから担任を務め、一番近くで成長を見守ってきました。

智貴くんと小橋先生

小橋百合香先生
「まずは純粋な子。そしてがんばりやさんなところですね。本当に全身で喜んで、自分の心を表現できる子。ほんとに智貴が隣にいてくれると、私自身がほっとしている自分がいるんですよね」

二人の絆を強めてきた「ハイタッチ」

半年間取材を行う中で、よく目にした光景は2人の「ハイタッチ」でした。小橋先生に聞いてみると、智貴くんが何かを始めたり、目標を達成したときには必ずやっているということです。リフティングが20回できたとき、今までできなかった計算ができたとき、ずっと続けてきた縄跳びで二重跳びを披露したとき。たくさんのハイタッチを通して、2人の絆が強くなっていくのを感じました。

ハイタッチをする2人

使い続けた学びやに感謝を込めた大掃除

卒業式前日。智貴くんと小橋先生は今まで使った机やロッカーなどをきれいにしていました。想像以上にたまっていた消しかすに驚いた智貴くん。思わず「撮らないで!」と、恥ずかしそうにカメラを手で隠してきました。

そのあとも、6年間通った学校に感謝の気持ちを抱きながら隅々まで掃除をしました。

智貴くんと小橋先生それぞれに、6年間で一番印象に残ったことを聞いてみました。

智貴くん
「特別な行事もあるんですが、今思うと1番良かったのは算数とか国語みたいな普通の授業だったんじゃないかなと思います。1対1だったからこそ楽しかった」

小橋先生
「1番多く過ごした授業が1番面白かった楽しかったって言ってくれるのは私たち教師にとっては最高の褒め言葉です。私も智貴との1番の思い出は何かと聞かれたら、毎日毎日が思い出ですね」

智貴くんの先生が小橋先生だったから、小橋先生の生徒が智貴くんだったから、1対1だったから、2人の強い絆は生まれたんだなと改めて感じました。

小学校生活最後の帰りの会

小橋先生が伝えたことは「明日も元気に学校に来ること」。先生から智貴くんへの最後のお願いです。

智貴くんも、まっすぐ小橋先生を向いて、元気よく「はい」と返事をしました。

小学校生活最後の日

卒業式当日。智貴くんの自宅にお邪魔させていただきました。朝6時10分、智貴くんが起きてきました。緊張はせずよく眠れたそう。朝ご飯を食べる前に、智貴くんはあることを始めました。

先生たちに送る花を包む智貴くん

智貴くん
「小橋先生たちには言えないんですけど、先生たちに感謝の気持ちを込めてサプライズで花を送ろうかなと。やっぱり育ててくれたのはもちろんなんですけど、たくさん笑いだとかそういう新しい感情を教えてくれたっていうところで感謝しています。手紙と一緒にプレゼントする予定ですけど、他言無用でお願いします」

智貴くんが卒業式で着るのは、お兄ちゃんたちが代々着続けてきた中学生の制服です。慣れないワックスも髪につけて準備万端、すこし緊張した面持ちです。

小向小学校最後の卒業式には先生、両親はもちろん、地域の人たち合わせておよそ40人が集まりました。卒業式の開始直前も、お決まりのハイタッチで気合いを入れます。

いよいよ卒業式

入学式の時と同じ、小橋先生と並んでの入場です。

入学式

卒業式

校歌斉唱や、卒業証書授与に加え、会場にいた全員から智貴くんにひと言のような、小向小学校独特のプログラムもありました。(私も話させていただきました。)

卒業証書をもらう智貴くん

小橋先生から智貴くんへの贈ることばです。

「智貴にはこれからどう生きていってほしいか。先生が思うのは智貴は今のままでいい。優しさにあふれている智貴、誰にでも笑顔で接する智貴、ユーモアがあり明るい雰囲気が好きな智貴、苦手なところを克服しようと努力家の智貴。お父さんもお母さんもお兄ちゃんお姉ちゃんも、地域の皆さんも、もちろん先生たちもみんないつまでも智貴を見守っているから、だから安心して小向小学校を巣立っていってください。智貴に出会えて本当によかった。思い出を優しさを本当にありがとうございました」

いよいよ智貴くんのあいさつです。

「3月22日、お父さんお母さん先生たち、そして地域の方に見守られながら卒業することとなりました」

小橋先生への感謝を述べている時、智貴くんの目から涙がこぼれました。

「ぼくは小向小学校の先生たちにもものすごく支えられてきました。小橋先生は1・2年生の時は厳しい先生だなと思っていましたが、今は面白くどちらかいうと優しい先生だと思います」

こらえきれなくなり台の後ろに隠れてしまいました。

カメラを振ると小橋先生も・・・

なんとか立て直し、最後まで胸を張って話しきります。

「今年はこれまで以上に人とのつながりがあったので、たくさんの人と積極的に話せるようになりました。小向小学校は3月31日で閉校となります。ぼくが小向小学校に通うことができたのは小向小学校を受け継いできてくれた卒業生の皆さんのおかげです。次に行く中学校やこれから先の将来たくさんの困難があると思います。ですが、小向小学校で経験したことや思い出、皆さんとのつながりを力に中学校でも頑張ります、楽しみます。皆さん本当にありがとうございました」

およそ1400人を輩出してきた小向小学校最後の卒業生、古屋智貴くん。たくさんの人たちの愛情を目いっぱい受け、学びやを巣立ちました。

取材後記

約6か月間、計5回紋別にお邪魔して撮影させていただきました。撮影を通して感じたことは、小向地区は「地域で子育て」を体現している地区だということです。家族や先生だけでなく地域全体で智貴くんを支えていく、だからこそ智貴くん自身も見ているだけでこっち側も笑顔になる魅力的な子に育ったのではないかと思います。
そして、担任の小橋先生との関係性が一番印象に残りました。いつもやさしく、時に厳しく、先生と生徒ではあるけれど、まるで親友のようでお互いを理解しあっていて、本当にいい関係性だなと感じました。
あの2人だったから、あの小学校だったから自分もひきつけられたのだと思います。取材できて、皆さんに伝えられて本当に良かったです。

2024年4月5日

放送リンク
今年度閉校の小学校 たった1人の在校生 “最後の冬” 紋別|NHK 北海道のニュース
【リポート】一人きりの小学校 閉校前 最後の学習発表会|NHK 北海道のニュース
【特集】ひとりきりの小学校 最後の日々を見つめた|NHK 北海道のニュース

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