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札幌の新水族館誕生の舞台裏 全国各地の水族館が協力

  • 2023年7月20日

札幌市中心部に20日、新たな水族館「AOAO SAPPORO」がオープンしました。街なかで水中の生き物を観察出来る都市型水族館。NHKではオープンまでの舞台裏を取材してきました。見えてきたのは、この新しい水族館が、全国各地の水族館の「協力」によって作り上げられてきたということでした。


初日から賑わう新水族館

札幌市中心部の商業施設に作られた新たな水族館。

館内には250種類の生き物が展示され、このうち生物の営みを観察するゾーンには、水草が生い茂る水中の景観の中で、生き物のありのままの姿を観察できる水槽があります。

また、「にょろにょろ」した動きや「ぺったんこ」な形など、生き物を特徴ごとに図書館のように分類した水槽もあります。
このうち、「ぺったんこ」な体で頭を下に向けて泳ぐ姿が特徴の「ヘコアユ」という魚は、長さ4メートルの水槽に750匹が展示され、群れて泳ぐ様子が間近で観察できます。

20日は、オープンとともに多くの人が訪れ、生き物をじっくり観察したり、写真を撮ったりする姿が見られました。

岩見沢市から訪れた女子大学生は「あまりいままでの水族館にない、おしゃれな空間という感じです」と話していました。

また、北広島市から訪れた女性は「水族館というより美術館みたいな。そういう感じで見られる場所なんだなと思いました」と話していました。


道内最古と最新の水族館が連携

NHKでは、新たな水族館のオープンまでの舞台裏を取材してきました。
見えてきたのは、この新しい水族館が、全国各地の水族館の「協力」によって作り上げられてきたということです。

ことし6月1日、新水族館の山内將生館長や飼育員たちが向かったのは、室蘭市にある室蘭水族館です。70年の歴史がある道内で最も古い水族館で、地元の親子連れなどに長年愛されてきました。

バックヤードを訪れると、山内館長がうれしそうな表情で「うちにくる子たち」と言って、大型の水槽を漂うクラゲを指さしました。

室蘭水族館では、地元で採集したミズクラゲを繁殖させて増やしてきました。

今回、新水族館では、室蘭水族館からクラゲを提供してもらうとともに、長年の飼育で培ったノウハウを教わることになったのです。

クラゲ水槽の前では、飼育員の高山佳代さんに、新水族館で飼育係を務める三宅教平さんが、水槽の掃除のコツを尋ねていました。

三宅さん「掃除ってどんな感じにされています?」

高山さん「エサをやった後に掃除すると触手も縮めているので、そのタイミングでして下さい。ミズクラゲをバケツに移して掃除する際は、たくさん入れると折り重なってしまうのでバケツを数多く用意してください」

三宅さん「密にならないようにということですね。なるほど」

高山さんは「一番新しい水族館と最古の水族館がタッグを組んで頑張ります」と話していました。


同志として協力

続いて向かったのは、登別市にある水族館「登別マリンパークニクス」です。外国人観光客にも人気の施設です。

この水族館からもクラゲを提供してもらうことになりました。

新水族館の飼育員たちはバックヤードに入れてもらうと、担当の飼育員から水槽のろ過システムの仕組みなどを聞き取って、熱心にメモしていました。

室蘭も登別も、札幌に近い場所。ライバルにもなりうる札幌の水族館に協力するのはなぜか、尋ねてみました。

登別マリンパークニクス  吉中敦史 館長
「ライバルではあるんですけれども、同志ですね、同志として同じように頑張っていければ良いかなと思ってます。この業界が新水族館ができることで、もっともっと盛り上がる、水族館という文化がもっと根付くような、そんな機会になればなと思っています」


完成予想図通りの展示に

2週間後、新水族館に、室蘭と登別からトラックに載せられたクラゲが到着しました。その数、500匹あまり。袋に小分けされていました。

新水族館の飼育員たちが、手早く水槽まで運んで、袋ごと水槽に浮かべて入れていきました。クラゲは形が崩れると弱ってしまうため、一匹一匹、丁寧に水槽に入れていきます。

青白い光に照らし出された水槽にクラゲが漂い始めると、館内の雰囲気は一気に変わりました。新たな水族館にとってクラゲは癒やしの空間を作り出す大事な展示。山内館長は、自ら写真を撮って、写真うつりがどうか、確認していました。

山内館長「パース(完成予想図)通り、ほとんど同じイメージと光の強さが実現出来たかな」

山内館長はさっそく、室蘭水族館の高山さんにスマートフォンのビデオ通話で水槽の出来上がりを報告しました。

山内館長「ありがとうございました。めっちゃかわいいですよ」

室蘭水族館  高山さん「ああすごいですね!すごくきれいですね。うちにもこの水槽欲しい」


ペンギンの繁殖でも東京の水族館が協力

今回、道内各地の水族館がクラゲ以外の生き物の展示でも協力しています。
同じ札幌市にある「サンピアザ水族館」は、「ビキールビキール」という古代魚を新水族館に提供しました。小樽市にある「おたる水族館」は、淡水魚「エゾトミヨ」や両生類の「エゾサンショウウオ」を提供しました。

道内だけでなく本州の水族館も協力していて、その一つが、東京の葛西臨海水族園です。

飼育している世界最小のペンギン、「フェアリーペンギン」のうち5羽を、繁殖のため、札幌の新水族館に貸し出すことになったのです。これまで国内で飼育している水族館は3か所しかありません。

6月2日、葛西臨海水族園からペンギン担当の野島大貴さんらが札幌を訪れ、飼育環境をチェックしました。

屋外で飼育している葛西臨海水族園とは異なり、札幌での飼育は屋内。課題となったのが、繁殖に欠かせない、砂の衛生状態をどう確保するかです。湿気が強いと砂にカビが生え、ペンギンが病気になるおそれがあります。

野島さん「砂の量的には十分かなと思います。常にぬれている状態は良くないので乾燥させるようにして下さい」

AOAO SAPPORO  飼育担当 高橋徹さん
「扇風機も回しっぱなしにして全部乾かします」

野島さんは湿気が出にくいよう室温を保ちながら、扇風機で空気の循環を作り出すことをアドバイスしました。

葛西臨海水族園  野島大貴さん
「まずはここで健康に飼育が出来て、その上で繁殖をしてもらうって言うのが大事な部分かなと思いますので、みんなで協力していける体制作りが良いかなと思います」

そして1週間後、フェアリーペンギンが東京からやってきました。

専用のケージに入れられた体長30センチあまりのペンギンが一羽一羽、飼育員に大切に抱えられて床に置かれると、すぐに砂の上に駆け出していきました。

新水族館で屋内での繁殖に成功すれば、日本初になります。

AOAO SAPPORO  飼育担当 北口雄崇さん
「飼育をしっかりやっていくことが日本の今後の水族館、動物園でのフェアリーペンギンの展示につながることと思うので、そこは責任感をもってやっていければなと思っている」

札幌に誕生した新たな水族館。

山内館長は札幌での新たな挑戦に対して、全国の水族館が想像以上に思いを寄せ、手を携えてくれたことに感動したといいます。

山内館長
「新参者にもかかわらず、北海道にできるぼくらのことを仲間のように思ってくれて、信用して頂いて、まずは生物をお預け頂いた。僕らは頑張るだけで、最初の義務は果たせるかなと思います」

2023年7月20日

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