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新冠町 1頭の馬に乗る責任感を大切に ~キタサンブラックも羽ばたいた育成牧場

  • 2023年9月28日

あのキタサンブラックも輩出した新冠町にある育成牧場。サラブレッドは、生産牧場で生まれ、愛情を持って育てられた次のステップとして、競走馬となるための基礎を学び、訓練にのぞみます。「優駿のふるさとは未来へ 第3弾」は、地域に根差した育成牧場を取材しました。
(室蘭放送局 山本 直広)

優駿のふるさとは未来へ 第3弾
日高・馬も人も羽ばたく牧場
初回放送:2023年10月7日(土) 午前11時36分から 以降は随時放送
総合(北海道向け)

番組動画はこちら(10月11日 午後3時から配信)

 

半世紀以上の歴史を持つ、地域に根差した育成牧場

太平洋を一望できる高台に位置する育成牧場、それが日高軽種馬共同育成公社です。広大な敷地には、全長800メートルの坂路コースなど、競走馬の本格的な育成調教が行える調教施設があります。1972年に設置され、新冠町や地元の生産者たちが協力して共同で運営してきました。現在150頭の馬が育成されています。

 

地域になくてはならない育成拠点

育成公社は、広大な敷地と充実した調教施設を活用して、地域の小規模生産牧場が育てた競走馬を預かって育成調教を行うほか、施設の一部を貸し出す形で、通いでも利用できるようにもしています。地域にとって欠かせない育成拠点です。サラブレッドは1歳にもなると体が成長します。後継者不足で、担い手の高齢化が進む小規模生産農家では、馬の扱いも大変になるといいます。
育成公社ではこうした小規模生産農家の助けになるよう、仔馬が離乳(出生から約半年程)した段階で、早いタイミングから馬を受け入れる体制も整えています。

日高軽種馬共同育成公社 場長 岩波健二さん
「1歳にもなると、サラブレッドはもうやんちゃなので。それならば、広大な放牧地がある育成公社が『離乳したら馬を預かります』ということで、数に限りはありますが、受け入れる体制を整えています」

 

まずは馬に人が乗れるように

馬産地の北海道にある育成牧場は、初めてのレース出走を目指すサラブレッドが競走馬になるための訓練も担っています。サラブレッドと言っても、調教を受けなければ、人を乗せて走ることはできません。この育成牧場では、まず装着する馬具に慣れさせ、馬具に慣れると次に背中に人が乗るという具合に、少しずつ競走馬に近づけていきます。騎乗者を背に乗せて歩き、駈足(かけあし)ができるようになると、ようやく、競走馬としての入り口です。

岩波 健二さん
「競走馬というのは非常に敏感な生き物です。物が背中に乗るということは、ほとんど馴致(じゅんち)前(馬に人を乗せるための訓練)まではありません。人間が乗るということに馴らすというのはすごく難しいことで、安心させながら、一つ一つ納得させて、最後に人間が乗ります。納得させるまでは絶対に先へ進めないように心がけています」

 

1頭の馬に乗る責任感

いま、育成公社が預かる150頭の馬、その1頭1頭が、それぞれの生産者やオーナーの思いを背負っています。預かる馬の数が多くなっても、育成調教を行ううえで、大切にしていることがあります。それが—

1頭の馬に乗る責任感

その気持ち次第で、接する馬が変わってくると言います。

岩波 健二さん
「その馬に乗るという責任感。この馬にどういう人が絡んできたのか、いろんな人が関わってきているという、馬1頭1頭の大切さを考えながら1頭の馬に乗るというのはすごく大事なことだと思います。
技術があるからといって、その気持ちがなかったら、全然、馬は良くならない。ただ、その気持ちさえあれば、若い子でも未経験の方でも、必死でやれば馬はどんどん良くなります」

 

名馬キタサンブラックも輩出

育成公社にある、800メートルのダート(砂)の坂路コース。その深いダートを走ることで、より強い負荷がかかり、脚力や心肺機能を高めることができるそうです。GⅠレース7勝の名馬 キタサンブラックも、この坂路を駆け上がり、競走馬として鍛えられました。

育成公社時代のキタサンブラック
種牡馬として繋養されるキタサンブラック

 

メモ:キタサンブラック
2015年~2017年に活躍しGⅠレース7勝、獲得賞金(地方交流戦・海外含む)は歴代2位(2023年8月時点)。2年連続で年度代表馬に輝き、2020年にはJRA顕彰馬に選出。初年度産駒から年度代表馬を送り出すなど種牡馬としても活躍している。

 

 

人づくりがないと馬づくりはできない

岩波さんはいま、馬産地で働く担い手の不足に危機感を強く持っています。10年後や20年後を見据えた、競走馬に携わる人材の確保と育成が必要だと考えています。育成公社では、牧場での業務経験を問わず、まったくの未経験者でも競走馬に携わり牧場で働いてみたいという人を受け入れています。

岩波健二さん
「馬の育成には人の育成が欠かせません。人づくりをしないと、馬づくりができないと思ってやっています」

松村恵美さんは、広島県出身で入社2年目、それまでは、競走馬の知識もなく馬に乗った経験もありませんでした。幼い頃から動物が好きで、実際に馬に乗って調教に携わりたいと興味が沸き、北海道にある牧場の求人情報を見て馬産地を訪れたのがこの道に入るきっかけでした。
育成公社に来てから乗馬練習をはじめ、半年以上のトレーニングを積んだうえで、騎乗スタッフとして競走馬の育成調教に携わっています。

日高軽種馬共同育成公社 松村恵美さん
「小さい牧場でポニーに触るとかはありましたが、乗るということは全くしたことがなくて。乗馬クラブに通える環境を用意してくれて、教えてくれる先生も『大丈夫だから』と言葉をかけてくれました」

 

落馬のトラウマを乗り越えて

実は松村さんは、騎乗訓練中に、何度も落馬した経験があります。中にはケガをして、仕事に復帰するために1か月かかったこともありました。
「また、振り落とされるのではないか —」という恐怖心を乗り越えられたのには、それを上回る、馬に乗ることの喜びでした。

松村 恵美さん
「この仕事を始めてすごく好きになっちゃって、この仕事で食べていきたいなという思いが強くなりました。やめようとは思わないし、これからも思わないと思います」


無事に競馬場へ送り出す
 

育成牧場の役割は、生産牧場からバトンを引き継ぎ、競馬場でレースを走り切るための基礎体力をつけさせ、さらに競走馬としての能力を最大限に引き出すことです。それは、簡単なことではありません。育成がプラン通りに進まなかったり、馬が故障したりするリスクもあります。
競走馬の育成に取り組む人たちは、1頭の馬に関わるすべての人の思いを忘れずに、馬を預かる責任感を胸に抱いていました。競走馬としてスタートが切れるよう、使命感を持って育成に取り組む人たちに接する取材となりました。

岩波健二さん
「無事に馬を1頭ずつ競馬場に送り出す。これが当たり前のように思えるのですが非常に難しいことで。今までの失敗ケースを学びながら、成功率を高めていきます」


馬産地応援ページ はじめました
「優駿のふるさとは未来へ」のまとめページです

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