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センキョの疑問答えます!⑥「ネット投票はできるようにならないの?」

  • 2022年7月7日

「チョイス北海道」の新コーナー、“センキョの疑問答えます!”今回は、街ゆく人に“センキョの疑問”を直に聞いてきました。そこで多く寄せられたのが、「投票所に行くのが面倒」「どこにいても投票できたら便利」などの声。そして続くのが、次の疑問です。

ネット投票はできるようにならないの?

 

確かに、行政の手続きもショッピングも、何かとオンラインでできるこの時代。
好きなときに好きな場所で気軽にできたら、投票のハードルが下がるかもしれません。
インターネットを通じて1票を投じる、ネット投票のメリットや課題を取材しました。

便利そうなのに、どうして実現しないの?

「ネット投票」には、
▽それまで投票所に足を運ぶのが難しかった人などが投票に行きやすくなる
▽選択肢から選ぶといった方法をとることで、候補者や政党の書き間違いによる無効票が減る
▽開票作業が速い
▽選挙管理の人的・金銭的コストが減る
などさまざまなメリットがあると考えられます。

ただ専門家に話を聞くうちに、実現するためには、大きく分けて3つの課題があることが分かってきました。

①確実で厳正な投票システム

まず必要なのが、「確実かつ厳正に投票できるシステムの構築」です。

つい最近、KDDIの大規模な通信障害が起きたことも記憶に新しいですが、システムを安定的に運用するなかで、有権者が確実に投票できなければなりません。
その際、本人であることを認証し、その人が投票、さらに結果を集計するという一連の流れが、厳正に行えることが必要になります。

ネット投票のシステムを開発し、茨城県つくば市で市とともに実証実験を重ねてきた「VOTE FOR」の市ノ澤充さんに詳しい話を聞きました。

市ノ澤さんによると、技術面で重要な要素となる厳正な個人認証は、マイナンバーカードを利用することで可能だそうです。

その上で、例えば具体的にどのようなネット投票のステップが考えられるかというと・・・

自宅に投票案内のはがきや文書が届く

そこに記載されているコードを読み取って、専用の投票画面にアクセスする(認証①)

マイナンバーカードを読み取り、署名用電子証明書のパスワードを入力する(認証②)

投票

このように、数段階の認証を設けることで、厳正に本人確認ができるとのことでした。

ちなみに、マイナンバーカードの署名用電子証明書のパスワードとは、英数字6文字以上16文字以下で設定するもので、eーtaxの確定申告などで使うものです。

総務省も、マイナンバーカードで個人を認証する方針を固めていますが、これには課題もあります。総務省によると、マイナンバーカードの普及率は、令和4年6月1日時点で全国44.7%、北海道41.5%にとどまっているのです。有権者全員がマイナンバーカードを利用して投票できるようになるには、まだ時間がかかりそうです。

②投票の秘密

次に必要なのが、「投票の秘密」が守られること。

選挙については、選挙権が、一定の年齢に達したすべての国民に与えられるという「普通選挙」、1人1票で、性別・財産・学歴などで差別されないという「平等選挙」など、民主主義の根幹となる原則が憲法で定められています。この中でも、特にネット投票に関して鍵となるのが「秘密投票」の原則です。「秘密投票」とは、誰が誰に投票したか分からない方法で選挙が行われることを指します。

選挙制度に詳しい、北海学園大学の山本健太郎教授は、投票の記録が残ってしまうことによって、秘密投票の原則が破られてしまうかもしれないと指摘しています。
今の選挙において、例えば脅迫されて誰かに入れるというようなことが基本的に起きない理由は、“投票用紙を箱に入れれば、誰が誰・どこに投票されたか分からなくなる"という形で秘密投票が守られているからです。
そこが揺らいでしまうかもしれないというのは、大きなデメリットになるということでした。

ネット投票でも、「投票の秘密」が守られる。そのようなシステムは可能なのでしょうか。

先ほどの市ノ澤さんは、投票する人のデータと投票先の人のデータを切り分けて管理し、システム管理者から見ても分からないようにすることは技術的に可能だと話しています。
ただ、どれだけ複雑なコードを使って暗号化したとしても、技術が日に日に進化している以上、膨大な時間をかけたり、量子コンピューターのようなものを使ったりすれば、暗号を解かれるかもしれないリスクはあるということです。しかし、例えば選挙期間中には突破されないというレベルのものは作ることができ、投票の秘密が守れるだろうとのことでした。

…とはいえ、システム上で投票先を「秘密」にできたとしても、例えば候補者が人を集めて強制的にその場で投票させたり、老人ホームで職員が認知症のお年寄りの分をまとめ投票してしまったり、悪意を持った人が不正に票を操作する可能性は拭えないのではないでは?

そこで、2007年から国政選挙にインターネット投票を導入しているエストニアの例を見てみます。
エストニアは、選挙期間中であれば何度も投票することができ、最終投票の結果だけがカウントされる仕組みをとっています。誰かに投票を強いられたとしても、後で自分で投票をやり直せるのです。

市ノ澤さんによると、投票のやり直しには、ほかにも
・投票日の直前に候補者が亡くなったり辞退したりした場合、その人に投じた票を別の人に投票し直すことができる
・各候補の訴えを聞いて意見が変わったとしても、投票をやり直せることで、選挙期間の最後まで関心を持ち、理解を深めることができる
という利点も期待できるということでした。

ただ、これまで総務省の有識者研究会がまとめた報告書では、投票のやり直しを行う方針はとられていません。

③投票機会の平等

3つ目に大切なのが、「投票機会の平等」です。

冒頭でもお伝えしたとおり、ネット投票を導入することによって、投票所に足を運ぶことが難しい人や、投票所で行われる性別確認に心理的なハードルのあるトランスジェンダーの人など、さまざまな立場の人たちが投票しやすくなるメリットがあります。

しかし、一方で、インターネットで投票したいと思っても、スマートフォンなどの機器を使い慣れていない人や、インターネットが通じにくい場所に住んでいる人などにとって、投票がしづらくなる可能性もあります。

それに対して、山本教授は、ネット投票は投票所などで段階的に導入される可能性があるとしているほか、市ノ澤さんは、自治体にネット投票のやり方をサポートする相談窓口を設けたり、移行期間中は用紙での投票とネット投票の併用をしたりして対応する必要があると指摘しています。ただし、その移行期間などは、用紙での投票とネット投票の整合性を確保することが不可欠になります。投票の重複を排除しながら、その過程で「投票の秘密」が損なわれてもいけないという仕組み作りも、また課題となります。

法的な根拠も必要

ここまで上げてきた3つの課題について考えた上で、ネット投票を導入するには、選挙に関するルールを定めている「公職選挙法」の改正が不可欠です。公職選挙法では、「選挙人は、選挙の当日、自ら投票所に行き、投票をしなければならない」(第44条)などと定められています。

「ん?そういえば、『電子投票』ってすでに実施されてなかったっけ?」と思う方もいらっしゃると思います。

「電子投票」は、私たちが持っているスマートフォンやパソコンからではなく、投票所に設置された端末を使って投票する方法です。公職選挙法の特例を定める法律によって、20年ほど前、地方自治体が条例で定めれば地方選挙で導入できるようになりました。

岡山県新見市の市長選挙と市議会議員選挙をはじめ、これまでに全国10の自治体の首長選挙や議員選挙で電子投票が行われました。
ところが、平成15年。市議会議員選挙で電子投票を実施した岐阜県可児市では機械の故障トラブルで選挙をやり直す事態になりました。
さらに、神奈川県海老名市や、宮城県白石市でも機器の不具合などが相次ぎ、平成28年を最後に電子投票は行われていません。

その後令和2年に、総務省は、専用の端末だけではなく市販のタブレット端末を利用できるよう条件を改定しました。

7月5日、北海道の岩見沢市で行われた電子投票の実証実験では、参院選の期日前投票に訪れた人が、架空の市長選挙の模擬投票を体験しました。会場に設置されたタブレット端末で架空の候補者名を書いたあと、画面の表示に従って「投票する」という選択をタップするという方法です。

今後の見通しは?

ネット選挙にメリットがある一方で、導入には課題があることがわかりました。
今後、国政選挙に導入される見通しについて、日本では、海外で暮らす有権者が行う「在外投票」への導入が検討されています。
「在外投票」は、大使館をはじめとする在外公館や郵便などで行われますが、在外公館が近くになかったり、現地の事情などで締め切り日までに郵便が間に合わなかったりするおそれがあります。ことし1月には、今の仕組みは有権者の負担が大きいとしてインターネット投票の導入を求めるおよそ2万6000人分の署名が林外務大臣に提出されました。

今の投票制度において、投票所に行かなければいけないこと、自署式であることなどは一部の人にとって特に負担の大きい制度であると思います。
より1票を投じやすいと感じる仕組みができるよう、この参院選をきっかけに多くの人に選挙について考えてもらえればと思います。

 

札幌放送局記者 中山あすか

2021年入局 道警担当
学生時代に始めた手話の学習をマイペースに続けています

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