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陸上女子やり投げ 北口榛花選手 世界で培った経験と実績を携え パリ五輪で頂点目指す

  • 2023年11月20日

旭川市出身で陸上女子やり投げの日本のエース・北口榛花選手。はじける笑顔が魅力の25歳は、身長1メートル79センチの恵まれた体格を生かしたダイナミックな投てきを武器に、着実に世界の舞台で実績を残しています。特にことし(2023年) は、8月の世界選手権で日本選手として初めてこの種目で金メダルを獲得。世界最高峰の大会「ダイヤモンドリーグ」のファイナルでも頂点に立ち、世界のトップアスリートとしての地位を揺るぎのないものにしました。シーズンを終えた10月下旬、北口選手は、およそ9か月ぶりに生まれ育った旭川市に戻り、NHKの単独インタビューに応じてくれました。飛躍を遂げた今シーズンの要因、世界選手権の最後の投てきの瞬間、パリオリンピックへの誓い、そして地元・旭川市への思い。その明るい表情の中に隠された世界屈指のアスリートのまっすぐな思いを、真剣に語ってくれました。(取材:旭川放送局 田谷亮平)

最高のシーズン

「お久しぶりです。やっぱり旭川は少し肌寒いですね!」

1年ぶりの旭川市でのインタビュー取材に、北口選手はいつも通りの明るい表情を浮かべて現れました。いつもの笑顔と、いつもの明るさ。去年と違ったのは、その手に抱えた大きな大きなトロフィーでした。重さ5キロを超える「ダイヤモンドリーグ」の勝者に贈られる世界ナンバーワンの証。首にかけた世界選手権の金メダルとともに、大きな輝きを放っていました。

「去年も信じられないくらい、いいシーズンでしたけど、ことしはさらに上のレベルにいくことができて、ちょっとふわふわしていて、本当に魔法にかけられているような感じで今も過ごしています」

世界の舞台で表彰台に立つことができた昨シーズンから、2年続けてのステップアップ。着実にレベルアップを続けるみずからの成績に、少し照れ笑いを浮かべながら話しました。

「ずっと選手をやっている限り、右肩上がりというのはあり得ないと思うんですけど、たまにはこういう期間もあってくれないと、頑張れないので、すごくうれしいです」

ふるさとに凱旋!

「おかえりなさい!」
「感動をありがとう!」

北口選手は、10月20日、ふるさとの旭川市に凱旋しました。市役所での優勝報告会には、大勢の職員や市民が出迎え、万歳三唱が行われるなど、祝福ムードに包まれました。世界選手権が行われた、ハンガリーのブタペストと日本は8時間の時差。北口選手が優勝を果たした瞬間は、日本は明け方でしたが、大勢の地元市民がリアルタイムで観戦し、喜びを分かち合いました。北口選手も、遠く離れた地から、その熱を感じ取っていました。

「たぶん、私を孫だと思う人が増えたなというのは確実に実感していて。時差もあって日本で見るにはちょっと不便な時間帯だったんですけど、たくさんの方が生で見たよって。夜中なのに叫んじゃって近所迷惑だったと思います、みたいなそんなメッセージもいただいたりしていたので。皆さんが1つの思いになるというか、そんな瞬間があったのであればすごく光栄だなと思いました」

活躍の裏にあったもの

大躍進を遂げた今シーズン。その裏には、1つの敗戦がありました。ことし6月の日本選手権。降りしきる雨の中、大会3連覇を狙った北口選手でしたが、ちぐはぐな投てきで記録を伸ばせず、2位に終わりました。それからすぐにコーチと相談して、それまでの練習の方法や質を総点検。そして、日々のウエイトトレーニングの結果、筋肉がつきすぎて持ち前の肩の可動域の広さを生かしたしなやかな投てきが失われていると分析しました。北口選手は、シーズン中にもかかわらず、練習方法の変更を決断。ウエイトトレーニングを減らして、コンディションの調整を図りました。

「筋肉がつきすぎる、無駄なところにつきすぎたというところと、あとはその筋肉の質がちょっと硬くなりすぎたというのがあると思います。たぶん、あのままいっていたら、どんどん投げられなくなっていたので、ウエイトトレーニングを抑えるという決断ができたことが一番。今シーズンは、そういう決断ができたことが大きいかな」

日本選手権で敗れてから3か月弱の限られた時間で、北口選手は体のコンディションを修正。フォームもピタリと合わせて、世界選手権の金メダル獲得に成功しました。

金メダルの瞬間

その世界選手権は、大逆転での優勝でした。4位で迎えた、最終の6回目の投てきで、66メートル73センチのビッグスローを見せ、一気に首位に立ちました。日本中が沸いたこの瞬間、実は北口選手は、ほとんど覚えていないと言います。

「本当にまったく覚えてなくて。たぶん、(会場に)手拍子を求めたあたりまでは覚えているんですけど、そこから投げ終わった後までまったく覚えてなくて。全然思い出せないですよね。あんなに叫んだのは人生で初めてだったので、途中でお腹がつりそうになったのを覚えていて」

世界最高レベルの試合の、最後の1投。その極限の状態で、北口選手はこれ以上ないほどの集中力を見せました。

「私も初めての経験なので、これがゾーンなのかどうかわからないんですけど。本当にとにかく集中はしていたと思います。ここで4位で終わりたくないと言う気持ちが強かったですし、上位の記録を見ても、自分が投げられない記録ではなかったので。ここで、この記録を追い越さなくてどうするみたいな、そんな気持ちで最終投てきに臨んだと思います」

“史上初”の意義は

表彰台の真ん中にたった瞬間、その時間は北口選手1人のための時間でした。一瞬しかないその時を、北口選手はかみしめたといいます。

「君が代が流れた瞬間は本当に感動したというか、自分でもよかったなと思いました。日本の方々も結構現地にいらっしゃって、本当に嬉しかったですね。1番はその年で1人しかなれないので、本当に何かその時間を噛み締めていたような、そんな感じでした」

日本選手として、史上初めての金メダル。その快挙の意義について、笑顔で話しました。

「日本人で初めてのことをたくさんしたいと思っていた。歴史を1つ作ることができたと思っているので。でも、自分がやったことを、私だからできるじゃなくて、自分たちもできると思って、やり投げの人にだけにかかわらず、ほかの陸上競技の人もそうですし、世界中というか日本中の皆さんが自分もできるという力に変えてもらえるとすごく嬉しいな」

パリ五輪の頂点へ

来年は、オリンピックイヤー。前回の東京大会では、世界の強豪選手が放つオーラに圧倒されたという北口選手。パリ大会では、世界選手権やダイヤモンドリーグで培った経験と実績を携え、頂点を目指します。

「パリオリンピックでも金メダルを取りたいって言う気持ちはすごく強くなってますし、オリンピックのチャンピオンはまた1つ格が違うと思っています。東京オリンピックで感じた、オリンピックのオーラっていうのを自分も見にまとえるようにしっかり準備したいと思っています」

取材後記

北口選手へのロングインタビューは、去年に続き2回目でした。北口選手の取材をしてまだ日の浅い私の質問にも、北口選手は1つ1つ真剣に向き合い、時には笑いも交えながら丁寧に答えてくれました。インタビューの最後には、トロフィーを片手に、「持ってみませんか?すごく重くて、私でも毎回運ぶのが大変なんです」と満面の笑みを浮かべて話してくれた北口選手。言葉の1つ1つに、その明るい人柄がにじみ出ていました。そして、2日間の取材を通して印象的だったのは、何よりも地元の旭川市民から愛されていることです。「私を孫だと思っている人が確実に増えたと思う」と話していた北口選手。その言葉どおり、凱旋した市役所には多くの人が訪れ、たまたま居合わせた高齢の女性も「榛花ちゃん、榛花ちゃん」と声を上げて、その動向を目を細めて見つめていました。そして、こどもたちとの交流の場では、多くの家族連れがサインと記念撮影に列をつくりました。「次も頑張ってね」「オリンピックも絶対に観るね!」。手の届かない大スターではなく、まるで近所に住むお姉さんに声をかけるように、多くの子どもたちが気軽に北口選手との会話を楽しみました。かけられる言葉のほとんどに「ありがとう、頑張ってくるね!」と答え、笑顔を浮かべる姿は、家族の中のきょうだいの励まし合いのようでした。地元に愛され、背中を押されながら、さらなる高みを目指す北口選手。ふるさとに元気を届けるため、次の舞台でも笑顔で輝きをはなってくれるはずです。

2023年11月20日

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