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白糠町 町の名店を守れ!事業承継をマッチングで

  • 2024年4月8日

後継者不足に悩むのは、農業や漁業だけではない。町民の味として長年親しまれてきたレストランも、後継ぎがなく、店を畳まざるをえない現状がある。そんな中、新しい試みで後継ぎ問題を解消した白糠町のレストランを取材した。 (NHK釧路 梶田純之介)

白糠町の名店 一度は閉店を決意も…

白糠町中心部に、町を代表する名店として長年親しまれてきたレストランがある。

白糠町でとれた羊とシカの肉をふんだんに使ったミルフィーユや、大きなエビフライが入った定食など、地元の魅力を生かした和食や洋食が人気だ。

店主の谷口修さん(70)は、40年近く、このレストランのオーナーとして働いてきた。しかし、年齢による限界を感じ始めていた。そこで去年、店を閉じることを決めた。ところが町民からは閉店に猛烈な反対の声があったという。

谷口修さん
「『冗談じゃない、そんなこと言ったら困る』と、ありがたいお叱りを多々受けた」

マッチングで承継を

谷口さんの子どもたちはみな、それぞれの道を歩んでいて、無理やり後を継がせるわけにはいかなかった。
閉店問題に揺れる白糠町の名店をなんとか守ろうと、町の商工会や町役場が動いた。彼らが谷口さんにすすめたのが、日本政策金融公庫が主催する「事業承継のマッチング」だった。

銀行などが間に入って行う後継者探しのマッチングは、一般的に、後継ぎを募集する店などの名前を匿名にして行われる。取引先の信用不安につながることなどが理由だ。

こうした中、日本政策金融公庫はおととしから「実名」を明らかにしたイベントを開催している。社名を公表することで参加者を広く募集することができる。

イベントを主催した日本政策金融公庫の担当者は、経営者の高齢化で事業承継の必要性が高まっているものの、事業の引き継ぎ先が決まらないケースが多いと指摘する。

日本政策金融公庫 札幌支店 岩見茂政さん
「(後継ぎの候補が)家族や親族、知り合いだと範囲が狭まってしまう。そうこうしている間に経営者がどんどん高齢化してしまい、廃業せざるをえない。第三者の方でも事業を引き渡すことができると知ってもらうことが大事」

店は去年10月、札幌で初めて開かれたイベントに実名を公表して参加。160人を超える多くの人たちがオンラインで視聴した。

イベントのあと、店には3組から応募があったという。そのうちの1人、中国出身で、札幌に住んでいた長谷川相業(はせがわ・しゃんいえ)さんに、谷口さんは店を引き継ぐことを決めた。

谷口修さん
「1番熱意が伝わってきた。相業さんの、『お店を持ちたい、白糠に溶け込んで頑張りたい』という熱意が感じられた」

料理が好きで、以前から店を開きたかったという相業さん。しかし、ゼロから店を開くのは簡単ではなかったという。

長谷川相業さん
「仕入れや店舗の場所、どんな料理を出すのか全然固まらなくて、何もわからなかった。難しいんだなと思った」

そんななか、マッチングイベントで出会ったのが、このレストランだった。

長谷川相業さん
「地元の食材を使う店なので、地元の生産者に貢献できる。自分にとってやりたいお店だった。こんなおいしいお店がなくなったら悲しいなと思って(継ぐことにした)」

中国出身の長谷川さんは、これまでの和食や洋食に加えて、中華料理の新メニュー、揚げ春巻きもすでに提供し始めている。

谷口修さん
「マッチングを利用すれば、これから先、地域の人に愛される店が存続していくのではないか。この店がステップアップしていくと思うので、すごく楽しみだ」

事業承継の現状

事業承継をめぐっては、厳しい現状が続いている。
民間の信用調査会社、「帝国データバンク」が去年調査した“後継者不在率”、つまり経営を引き継ぐ後継者がいない事業所の割合は、全国では過去最低の53.9%となった。北海道では66.5%と、47都道府県の中でも4番目に高い割合で、およそ3分の2が後継者不足の問題を抱えている。これについて日本政策金融公庫は、「北海道は広いということもあり、地の利が悪く後継者を探すのが難しいという事情がある」と分析している。
こうした切迫した状況のなか、日本政策金融公庫が主催するマッチングには、去年までに全国で4000あまりの事業所が応募。このうち、マッチングに成功したのはおよそ1200件、実際に譲渡契約の成約に結びついたのは149件だという。道内でも、5件がすでに成約したという。
谷口さんが参加したのと同様のマッチングイベントは、ことし7月に秋田県でも開催される予定で、日本政策金融公庫は「事業承継はまだ先の話ではなく、今から考えておくべき問題だ。事業承継の重要性を早い段階で気付き、準備を始めてほしい」と呼びかけている。
また、今回の店のように、外国出身の希望者が事業承継するケースも少ないながら出てきているということで、少子高齢化の進む日本社会を支える力となるか、注目される。

2024年4月8日

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  • 梶田純之介

    釧路局記者

    梶田純之介

    2022年入局 報道局を経て釧路局へ 学生時代に身につけた48か国語の能力を生かし事件・事故から街ネタまで幅広く取材 旭川市出身

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