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洞爺湖町 “競走馬の一生”を見据えた馬づくりを訪ねる

  • 2023年7月28日

あのメジロドーベルがいる胆振の洞爺湖町にある生産牧場。競走馬が役割を終えたあとの馬の第2、第3の「人生」を見据えた馬づくりをしています。「優駿のふるさとは未来へ 第2弾」は、この取り組みを取材しました。
 (室蘭放送局 山本 直広) 

優駿のふるさとは未来へ 第2弾
胆振・この地から再び名馬を
 初回放送: 2023年7月30日(日)午後10時50分から 以降は随時放送
総合(北海道向け)


「馬の本質を理解する」

羊蹄山を望み洞爺湖も近く、美しい景観に囲まれた牧場、レイクヴィラファーム。日本の競馬史に数々の偉業を残した名門、メジロ牧場があった場所に位置しています。

開業12年目の現在、牝馬と仔馬あわせて約150頭が飼育されています。牧場を牽引するのは岩崎義久さん。馬の躾(しつけ)は、力に頼るのではなく、馬という動物そのものをよく理解しながら取り組んでいると言います。

レイクヴィラファーム 岩崎義久さん
「安全性が一番ですよね、人間が安全にということが。馬は本来、人に危害を加える動物ではないですし、とても愛らしい動物です。とにかく『馬の思考方法をちゃんと理解したうえでやっていこうね』ということを創業時から行っていて、従業員みんなで共有しています」

 

「人との安全な関係、そして・・・」

開業当初から、馬の思考方法や生態を理解したうえで、人と馬とが安全な関係性を築けるように馬の躾(しつけ)に取り組んでいる岩崎さん。そこには、もうひとつの思いがあります。

岩崎義久さん
「競走馬として活躍できなかったとしても、躾(しつけ)が行き届いた馬であるということが、その馬にとって後々役に立てばいいなと思っています。『あの馬すごく素直でかわいいよね』と言ってもらえるようになれば、競走馬を引退した後も、いろんな場所でかわいがってもらえると思うので」

 

「それぞれの個性が愛される一生を」

引退した競走馬のその後はどうなっているのでしょうか。乗馬やホースセラピー、教育・観光等に利活用し、セカンドキャリアとしての多彩な活躍が期待されているほか、さらにその後の養老・余生といったサードキャリアにも関心が寄せられています。生産牧場を営む上ですべての引退馬の面倒を見ることは難しいという状況の中、岩崎さんも競走馬の引退後に思いを馳せているのです。

岩崎 義久さん
「競走馬の一生は、僕たちが携わる生産段階そして現役馬で活躍する時代がありますが、その後の余生のほうが時間が長いんですよね。躾(しつけ)を小さいころから受けていれば、僕たちが直接手は掛けられないけれども、躾(しつけ)の中で身についた個性によって愛され生き残っていけるのではないか。そんな形で馬の助けになればいいなと」

 

「メジロドーベルが“リードホース”として活躍」

サラブレッドは生まれてから約半年程で離乳し、母親から離れるそうです。離乳したばかりの仔馬たちは放牧を通して日々運動を行い、基礎体力をつけながら、競走馬になるために大切に育てられます。放牧中の幼い仔馬の群れは、雷など初めて経験することに驚き、パニックになってしまうこともあるとか。
そんな時にも平然として仔馬たちを安心させ、寂しそうにしている仔馬に気づくと寄り添って面倒を見てあげる馬がいます。それが“リードホース”です。仔馬たちの精神的支柱として、群れを安定させる大切な役割を担っています。
ここレイクヴィラファームのリードホースの一頭に「女傑」メジロドーベルがいます。

牧場スタッフ 的野裕紀子さん
「仔馬たちにとっては、お母さんがいない時に自分たちのことを助けてくれたり支えてくれたりする存在なのかなと私は思っています。お母さんがいなくなった放牧地で、みんなメジロドーベルについてぞろぞろ歩き回っていたり、夜間放牧明けに迎えに行ってもドーベルを中心にみんなが寝ていたりしています。放牧地に入ったらあとはドーベルにお任せで『任せた』という感じですね」

メジロドーベル(左はじ)

メモ:メジロドーベル
1990年代後半に活躍した牝馬。4年連続でGⅠレースを制覇した。29歳(人間でいうと100歳近く)の今も食欲旺盛で、仔馬たちと一緒に夜間放牧に加わる。群れの中でリードホースとして活躍中。

 

現役時代のメジロドーベル

 

「馬をひく女性厩務員に憧れて」

牧場スタッフの的野裕紀子さん(大阪府出身)は、馬の栄養管理や毎日の検温、歩き方の確認そしてお産と、馬の体調管理全般を担っています。小さい頃から近くの競馬場に足を運び、競馬場のパドックで馬をひく女性厩務員に憧れて、サラブレッドの世界で働くことを決めたそうです。

 

「馬に寄り添う」

的野さんは、馬の仕事に携わって20年以上のキャリアを持つベテランです。以前は、競走馬の育成に取り組んでいました。
レイクヴィラファームで働くようになって10年、この牧場の、人と馬が安全に関わり合い、競走馬の後のキャリアも見据えた生産現場に身を置いてきました。その中で、自身の経験を振り返りながら感じることがあったと言います。

的野裕紀子さん
「レイクヴィラファームに入ってから、馬がどういうふうに人の立ち位置を認識しているか、考えている時にどんなジェスチャーをしているかなど、馬のことを良く見るようになりました。ちゃんと馬という生き物を知ってから馬を触るようになると、もっともっと違うものが見えてくる感じがしました」

的野裕紀子さん
「馬に寄り添った関わり方を理解していたら、『あの時に苦労した馬もうまく接することができたんじゃないか』と思うこともあります。少なくとも、馬は受け入れてくれたんじゃないかと」

 

「やれることは全部やりたい」

的野さんは、馬が生産牧場で過ごす幼い頃から、人との良好な距離感と関係性が築けるよう1頭1頭と向き合い、寄り添って接しています。
競走馬の中で大観衆が見守る晴れ舞台のレースに出走できるのは、ほんの一握り。1つのレースを勝つことも大変な厳しい競走馬の世界を知っているからこそ、的野さんは、馬の将来が可能性にあふれたものになるよう道をつくろうとしているのです。

的野裕紀子さん
「競馬で勝ってほしいというのが一番で、そういう姿を見たいと思ってやっていますけれど、可能ならば一生幸せに過ごしてほしいと強く思います。そのための力になれるのであれば、牧場でやれることは全部やりたいと思っています」

育てた馬が1つでも多くのレースに勝ち、活躍してほしいという願い。競走馬として活躍できなかった馬たちも、自身の個性をいかし役割を果たすことで次のステージで愛され輝いてほしいという願い。
日々向き合っている馬たちが厳しい勝負の世界を走り抜け、引退後も幸せな一生を過ごせるように、1頭1頭に心血を注ぐホースマンたちの責任感と深い愛情を今回の取材を通じて強く感じました。

馬産地メモ
“日本一の馬産地”と言えば北海道の日高地方。実はそのお隣の胆振地方も盛んなんです。JRA(日本中央競馬会)で最も格式の高いGⅠレース過去10年の優勝馬の産地割合では、胆振地方産の馬が半数以上の56%を占め、競走馬(軽種馬)の生産頭数でも日高地方に次ぐ18%を占めています。

 

動画でもご覧になれます(2023年8月3日 午後3時~)

馬産地応援ページ はじめました
「優駿のふるさとは未来へ」のまとめページです。

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