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噴火湾でもオオズワイガニ 漁具や収入に大打撃

  • 2023年6月30日

噴火湾の南に位置する森町の砂原漁港。ホタテの養殖やエビかご漁などが盛んで、この時期はカレイや毛ガニをとりに漁船が海へ向かいます。しかし、引き上げた網に大量にかかるのは「オオズワイガニ」です。漁場を変えながらオオズワイガニから逃げるように漁を続けているものの、「どこに行ってもいる」と嘆く漁師たち。網が傷つくほか、取引される価格も安いため収益が落ちてしまい、地元の漁師たちが頭を悩ませています。

カレイよりも毛ガニよりも

刺し網漁の漁師
「去年の秋くらいからだいぶ増えてきている。思ったところに網を持って行けないし、オオズワイガニがいっぱいかかっちゃう」

早朝、カレイの刺し網漁から帰ってきた漁師たち。漁船にのせられてきたのは大量のオオズワイガニ。カレイなどの魚の3倍以上の量がとれている船もありました。オオズワイガニをいったん漁獲したあとに、カレイを狙ってまた同じ場所で漁をしている船もあります。

刺し網漁だけではありません。毛ガニ漁のかごにもオオズワイガニが大量に入り込んでいます。

毛ガニ漁の漁師
「オオズワイは去年からいっぱいで、きょうもとにかくいっぱい。毛ガニは少ないから、逆ならいいんだけど。毛ガニと比べて価格もかなり安い。ただ、オオズワイの味もこれはこれでおいしいから1回食べてみて」

網もぼろぼろ

もう1つ漁師たちを悩ませているのが、刺し網漁で使う網の損傷です。本来は1年以上、長いと2年ほどは使えますが、オオズワイガニに食い破られるなどして、1か月ほどで使えなくなってしまうくらい、すぐにぼろぼろになってしまいます。

オオズワイガニも商品として扱うため傷がつかないように網から外しますが、手間も時間もかかります。通常、1本の網を巻ききるのにかかる時間はおよそ1時間ですが、オオズワイガニが多いと4時間半かかったこともあるといいます。最近では海に入れる網の数を通常の半数ほどに減らすなどしていて、ますますカレイの漁獲量が減少。漁師の1人は「割に合わない」と、切実な思いをこぼしました。

1キロ200円以下

漁師たちはこれまで、オオズワイガニの収益を網の購入費などにあててきました。しかし、ことしの3月以降は価格が下落していると言います。

砂原漁港すぐそばの市場では、カレイやヒラメなどの魚、毛ガニ、貝といったさまざまな海産物が並びますが、ひときわ目を引くのは大量に積まれているオオズワイガニです。

取材したのは6月27日で、サイズごとに分けられたものが次々とせりにかけられます。この日の価格は、平均で小さいサイズは1キロ170円、中程度で200円ほどでした。

砂原漁業協同組合によりますと、6月の最終週に入ってからは新たな買い手が増えたことなどから、1キロあたり50円ほど値上がりしたといいます。しかし、去年の同じ時期と比べると価格は約4分の1。身入りがよくないことや、全道で漁獲量が増えたことなどが影響しているとみています。

砂原漁業協同組合漁船部会 平井直光 部会長
「カレイ刺し網なのにオオズワイガニでぜんぜん漁にならない。できるかぎりオオズワイの少ない場所を探してやっていますが…。もう少し単価がよくなればどうにか頑張りたいと思うんだけれども、今の値段だと網代にもならないです」

過去にも大量発生

実は噴火湾では過去にも、オオズワイガニが大量発生していました。
1980年代半ばに噴火湾から苫小牧の沿岸域で大量にとれた記録が残っています。1986年に2300トン、翌年には1400トンが漁獲され、一部はズワイガニの代用品として関西に空輸されていました。しかし、1988年以降は急減。その理由は現在もわかっていないということです。

ただ当時、函館水産試験場などの調査でわかったのがその成長の早さです。アラスカのオオズワイガニや日本海のズワイガニなどと比べると早く大きくなると報告されていて、この要因の1つは水温が高いことだと推察されています。

販路拡大できるか

オオズワイガニはこれまで主な漁獲対象ではなかったことから、調査や研究がほとんど進んできませんでした。こうしたなか調査を進めているのが、道立総合研究機構栽培水産試験場の渡野邉雅道さんです。量の多い少ないは別にして、とれはじめは噴火湾の方が日高地方より早かったと考えています。
しかし、噴火湾での大量発生の理由はわかっていません。

道立総合研究機構 栽培水産試験場調査研究部 渡野邉雅道さん
「日高の漁業者の方々が言っているタコの急激な減少はおそらくないと思うので、別の要因で増えたのではないか。本来とりたい魚がとれなくなったうえに、オオズワイは安い。漁具の被害の補填も考えると減収につながる」

ふだんとれているカニではないために流通先が見つからず、安く取引されてしまっているオオズワイガニ。一方で、地元の漁師をはじめ、食べたことがある人たちからは、「おいしい」との声も多く聞かれています。こうしたなか砂原漁業協同組合の漁師たちは、道の駅でオオズワイガニの直売会を開くなど販路拡大につなげる努力を進めています。

渡野邉さん
「味はおいしいと聞いていますので、もう少しサイズが大きくなると商品価値も上がるのではないか。成長が早いことをプラスに捉え、しばらく成長を見守ってから漁獲するというのも1つの方法です。販路の拡大には漁協以外からも協力があると非常に助かるのではないかと思います」

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