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食のネットワークで気づいたローカルのリアル! ~フレンズミーティングin西興部村~

  • 2023年7月6日

今日のお昼ご飯は何を食べましたか?コンビニの600円のお弁当や、中華屋さんの900円のラーメンかもしれません。お金を払えば、ご飯が食べられる。それって当たり前。 でも、少し都市部を出てみれば、その当たり前が覆されることも……? 

こんにちは!「ローカルフレンズ滞在記」制作班・学生アルバイトの谷郁果です。
今回は2023年6月3日(土)4日(日)に開催した、人口1000人ほどの小さな村・西興部村でのフレンズミーティングの様子をお届けします。

ローカルフレンズ滞在記は、地域のみなさんとNHK北海道が共同制作している番組です。番組を作るにあたっては「フレンズミーティング」と称して、みんなで地域のことや番組のことについて議論しています。コロナ禍ではオンライン開催でしたが、昨年からは季節ごとにリアルで集まってミーティングを行っています。

1,000人の村の食生活とは?

今回のテーマは「食」……! 小さな村の暮らしを「食」というテーマで詳しく知ることで、都会の目線ではなく、地域の目線で番組を作れるようになったり、地域活動ができるようになったりすることが目的です。

ミーティングのホストは西興部村の主婦・高橋啓子さん。みんなから“母さん”と呼ばれて、親しまれている存在です(ここから先は私も親しみを込めて母さんと呼ばせてもらいます)。

母さんとは、もう3年以上の付き合いです。ひょんなことから(実は間違えて)ローカルフレンズに応募した母さんは、2021年9月に「ローカルフレンズ滞在記」をプロデュースしてくれました。

そんな母さんの暮らしは、ディレクターやプロデューサーたちを驚かせるものでした。それはSNSにも垣間見えます。そう、“豊かな”食卓の写真がずらりと並んでいるのです。

ある日は、玄関の前に大量の魚が置いてあったり、

山で採ってきた「タランボ」で天ぷらをしたり、

こんなに大量の数の子が腹から出てきたり、

お手製の鮭の飯寿司まで!

なぜ母さんの食卓は、こんなにも“豊か”なのでしょうか? その理由を聞くと、あっと驚く都会とはまったく違う「食のネットワーク」がありました。

秘密を解き明かす トークセッション開始……の前に!

食のネットワークを知るための「トークセッション」に先立ち、母さんと道北・枝幸町のローカルフレンズ鷲見道子さんのおふたりが手づくり料理を披露してくれました。

メニューは、タコやほたて、ふきやわらびなどの山菜、鹿のローストに、出来立てほやほやの牛乳豆腐。これがぜんぶ手作りというから驚きです。

ところで、こんなにたくさんの食材を買うことができるスーパーってどこにあるのだろう? そう聞くと母さんは、「もらってきたのよ」と。一体どういうことなのでしょう?

答えは、「トークセッション」で解き明かされることとなります。

トークセッション「私たちの食べたものはどこからやってきた?」

トークセッションに登壇していただいたのは、母さんに加えて、一緒に料理を作ってくれた鷲見さんと下川町のローカルフレンズ・谷山嘉奈美さん。さっそくモデレーターをつとめる大隅さんが、母さんの言う「食材はもらってきたのよ」という言葉の正体に迫ります。

メインスピーカー:高橋啓子さん(西興部村・主婦)
ゲストスピーカー:鷲見道子さん(枝幸町・展望台のカフェ管理人)
         谷山嘉奈美さん(下川町・ジビエ料理)
モデレーター:大隅亮ディレクター(NHK札幌局)

大隅亮(NHK札幌):今回のミーティングでは、おふたりに披露していただいた食材がどこからやってきたのか、たどってみようと思います。わたしは山菜が大好物なのですが、今回料理に使ったものは、どうやって手に入れたんですか?

高橋啓子(西興部村):父ちゃん(夫)たちがね、山に採りに行ってくれて。それを生で冷凍しておいたのさ。

大隅:家の近くの山とかですか?

母さん:内緒。山菜が採れるところは知っているけど、周りの人には言わない。場所を知られちゃうと、別の人に採られちゃうからね。だけど自分でたんまり採ってきたあとは、欲しい人に配ってあげるの。もちろん、タダで。郵送する必要があれば、送料もわたしが払うよ。

大隅:送れば送るほど赤字じゃないですか!

高橋:いいの、いいの。喜んでもらえるからね。

鷲見道子(枝幸町):わたしも、ふきやわらびは仕事終わりに採りに行ったのよ。わらびってね、採れば採るほど生えてくるんだよ。いつも採っては近所のおばさんにおすそ分けしたり、下処理して知人にあげたり。

おふたりにとって、山菜採りは日常のようです。そしてそれを配ったり、下処理や調理までしておすそ分けしたりするのも日常茶飯事だといいます。さらに聞いてみると、食材をもらってくることも多々あるのだとか。

高橋:鹿肉は、村のハンターの知り合いから連絡が来て。鹿の解体を手伝いに来いって。父ちゃん(夫)は解体できるのよ。そうやって手伝ったら、ちょっとお肉を分けてもらえる。あとは魚ももらうね。家に帰ってきたら、大量の魚が玄関の前においてある(笑)。

さらに、とある地域では牛農家さんから牛肉をおすそわけしてもらうこともあるとのこと。農業や漁業といった一次産業がある地域では、規格外品や取れすぎてしまったものがお隣さんの家に届いてくることがあるのです。

トークを聞いていた下川町の小嶋恵実さんも、とある体験を教えてくれました。

小嶋:みなさんから親切にされていると、時間に余裕ができるんです。本来は自分で買い物に行かなきゃいけないけど、食材をいただいたらその時間が浮く、みたいな。だから、おすそ分けをもらった方からポロっと出てくる悩みにも答えられるんですよね。前に、お礼としてWebサイトをつくったこともありましたね。

お互いの得意なことで、助け合って暮らしていく。そんなローカルの暮らしが垣間見えてきました。そして話は、小嶋さんと大の仲良しの谷山嘉奈美さんが行っている「移動式サウナ」へと移ります。

小嶋:このあいだの(谷山さんの)サウナのイベントでは、サウナ後の食事としてカレーを出していたんです。カレーの付け合わせが「ゆで卵のピクルス」。ワケを聞いてみると、サウナ後にはたんぱく質が必要だ!って。

大隅:谷山さんの料理って、死ぬほどおいしいんですよね。

谷山:大きな病気を経験した私としては、「勝手に健康になる仕組み」を一番のテーマにしていて。病気にならない予防って誰にでもできることじゃないですか。

小嶋:こないだ、谷山さんが私の健康管理をしてくれたんです。レシピを教えてくれたり、買い物のリストをチェックしてくれたり。おかげで、バランスの良い食事ができるようになりました。

さらに、”助け合い”だけではなく、”感謝”や”恩送り”もローカルの暮らしには存在しているのです。

高橋:わたしはたくさんおすそ分けをしてあげるけど、実はあまり見返りは求めていなくて。食べてくれてありがとうって思うのよ。

鷲見:町に移住者を見かけたら、どんどんおすそ分けをする。そうやって町の人との距離が近くなって、町を好きになってくれて、町にずっと住んでくれて、そして次の移住者にその人がおすそ分けをしてあげて。そういう循環になっていけばいいかなって。

お金ではない関係性 ローカルの暮らしのリアル

「食」をテーマにしたミーティング。見えてきたのは、食の豊かさやおいしさだけではありませんでした。

都市部では「貨幣経済」、つまりお金を出してモノを買う仕組みでものごとは動いています。
それに対して、人口1,000人の西興部村などでは、貨幣で買うのではない、いわば「信頼経済」のようなものが動いていました。

その二者の違いの大きなこと。私たちはこれまで、「ローカルには濃密な関係性が張り巡らされている」と、頭では分かっているつもりでした。ですが、食べ物のネットワークを具体的に見た時に、はじめてローカルの暮らしのリアルに触れることができたような気がします。

前回のミーティングに引き続き、解散が惜しまれるほど学びの多い会となり、参加者からの感想も溢れ出てきました。その一部をご紹介します。

「採ったものを人にあげる、もらったらお返しをする。そこで近隣の人とのコミュニケーションができて、安否確認などもできるのかなと気がつきました。 そして食にもストーリーがあり、食べることに感謝しなくてはと思いました」

「食材の背景を辿ることで出てきた驚きは、ズドンと脳みそに焼きつきました」

「物々交換コミュニティに入っていく話は、得意な人が得意なことをして、そしておすそ分けしていることの連続だなぁと思いました」

「これまで3年間、ローカルフレンズ滞在記を作って、地域のことが分かったつもりになっているが、実際には、札幌に住んでいる私たちとはまったく違う世界が広がっていて驚いた。やはり知った気にならずに、実際に現場を訪ねて、地域への解像度を上げる努力をしていきたい」

ふだん札幌に暮らすわたしたちが、普段の生活から一歩出てきたことで気がつけた、ローカルの価値。「ローカルフレンズ滞在記」を通して、また新たな「地域の宝」を見つけることができました。

2023年6月16日(金)谷郁果

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