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厚真町の森を取り戻したい 町内唯一の林業会社の挑戦

  • 2023年9月4日

胆振東部地震から5年。被災地では大規模なインフラ整備などはほぼ完了し、「復旧」から「復興」へと向かおうとしています。しかし、今後も長い年月がかかるとされているのが土砂崩れで大きな被害を受けた森林の再生です。厚真町で森と向き合い続ける町内唯一の林業会社を取材しました。(苫小牧支局・臼杵良)

明治以降最大の被害

厚真町の森林。上空から見てみると、今も地震直後と似たような光景が広がっています。地震で被害を受けたのは厚真町、安平町、それにむかわ町の3町をあわせておよそ4300ヘクタール。記録が残る明治以降、最大となりました。豊かな森林から生み出される木材などが地域の経済を支えてきただけに、地域にとって、森林を再生していくことが課題となっています。

道などは、去年(2022年)森林再生計画をまとめ、被害木の整理や林道の整備、そして植林などを5年間かけて集中的に進めています。地道な取り組みが続けられていますが、厚真町の宮坂尚市朗町長は森林の復興には長い年月がかかると説明しています。

厚真町 宮坂尚市朗町長
「引き続き復旧事業を継続していかなければならないものもあります。その代表的なものが森林再生で、相当な時間を要すると思っているので、全力を尽くして対応していきます」

厚真町唯一の林業会社

こうした中、森林の復興に取り組んできたのが丹羽裕文さん(66)。65年前から厚真町で林業を営む老舗企業の2代目の社長です。地震によって森林が破壊され、ほかの林業会社は相次いで廃業し、町内で唯一の会社となりました。地震では、重機3台が土砂に埋まるなどの被害があり、会社をたたむことも頭をよぎったといいます。

丹羽裕文さん
「地震のあと、状況がわかってきたら仕事もできませんでした。今後、どうなるのかっていう心配が多かったです。やっぱり、会社は難しいかなって考えたことはありました」

しかし、丹羽さんは森と向き合っていくことになります。土砂崩れで多くの木が倒れ、復旧作業の妨げにもなることから、丹羽さんのもとには処理の依頼が相次いだのです。そして、厚真町や厚真の森林のためにできることをやりたいとの思いを強めていきました。

そのために、力を入れたのが豊かな森を取り戻すことです。道や町とも連携を取りながら、これまでに10ヘクタール、本数にしておよそ2万本のカラマツなどを植えてきました。斜面の草を刈り取るなど、丁寧な森づくりを心がけています。

丹羽裕文さん
「やっていこうっていうか、やらざるを得ないっていうのが正しいのかわかりませんが、厚真町で結局うちの会社だけが残ってしまった状況でした。それなので、やめられないというのもありました。厚真町の森林のために森林復興っていいますか、そういうことを進めていきたいという気持ちはありました」

次の世代へつなぐバトン

森林をよみがえらせるために丹羽さんが欠かせないと考えているのが、次世代の担い手です。苗を植えて育て、木材などに活用できるようになるまでには50年から60年ほどかかり、息の長い取り組みが求められているからです。

丹羽さんは、道がつくった1次産業をPRする動画にも出演するなど、林業の魅力をさまざまな形で伝え、若い人にも興味を持ってもらおうとしています。

会社を継ぐ長男の智大さんとも力を合わせて、地震のあとには新たに3人の若手社員を雇用しました。今では社員の半分以上が40代以下となっています。

丹羽智大さん(下の写真・右)
「今はどんどん仲間ができているので、仲間と一緒にいい山づくり、森づくりをできたらいいなという気持ちでいます」

丹羽さん自身は、最近は現場で作業をすることは少なくなりました。しかし、作業の前の打ち合わせはみずから取りしきるなど、森や林業への考え方を積極的に伝えています。丹羽さんの厚真町の森にかける思いは若い社員にも伝わっています。

木戸達也さん(下の写真・左)
「復興の過程を見守るじゃないですけど、成長していく、変わっていく様子を楽しみにしたいなと思います」

まだまだ長い道のりが続きますが、若い力で林業が盛んな厚真町を取り戻すことこそが町の復興にもつながると丹羽さんは信じています。

丹羽裕文さん
「林業自体を盛り上げて、森林に対する考えをやっぱり若い人に覚えてもらって、今後のためにやってほしいなっていうのはあります。厚真町に住んでもらって、林業に従事する人が増えてきていることに関していえば、やっぱり楽しみっていうか、期待する部分もあるので、今後、若い人に将来の厚真町の森林を守ってほしいです」

胆振東部地震から5年 特設サイト 
あの日の記憶や教訓を忘れずに、次の大災害に備えるため、被災地の現状や減災に向けた新たな取り組みなどについてお伝えします  

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