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奧尻島に看護学生 離島を知って働いて

  • 2023年8月9日

北海道南部の離島、奧尻島。この島で暮らす約2300人の健康を守っているのが、島唯一の病院「奧尻町国民健康保険病院(国保病院)」です。さまざまな患者が訪れるこの病院では、いま深刻な看護師不足が進んでいます。こうしたなか、離島の医療について学ぶ授業の一環で、函館市から看護学生が島を訪れる初めての取り組みが行われました。(函館放送局 毛利春香)

離島の看護師に 大きなやりがい

奧尻町国保病院で看護師長を勤める松井哲也さん(55)。おととし函館市から移住しました。
退職後などいつか、憧れの島暮らしをしてみたいと考えていました。しかし、3年前に体調を崩して緊急手術をすることになり、「いつどうなるかなんてわからない。退職してから本当に島暮らしができるのか」と感じたそう。培ってきた看護師のスキルを生かしながら島で働けないかと考え、入院中に病院のベッドから奧尻島に電話をかけ、看護師の受け入れがないか確認したと言います。

函館では指導する立場が多かったという松井さん。奧尻島では現場に出ることがほとんどで、日々患者と向き合っています。医師とともに島民の自宅を訪れる訪問看護も担当しています。取材に伺った日、訪れた家にいたのは100歳のおばあちゃん。娘さんからふだんの様子を聞き取りながら診察を手伝います。
患者である島の人たちとの距離が近く、大きなやりがいを感じていると言います。

松井さん
「こういうことをしたかったのは確かです。現場を離れていて寂しさもあったので、今の方が楽しいですね。毎日、島の人たちと関わる中で何度も感謝の気持ちを声に出して言われる。本当に今までなんで看護師になりたかったかっていうところを、今やっと実感しているような気がします」

島の患者を一手に担う

島唯一の病院には、さまざまな患者が集まります。国保病院では外科や内科、小児科だけでなく、島の外から医師を呼んで整形外科や歯科、眼科にも対応していて、入院病床もあります。

島の医療を支える人もさまざまです。
この日、眼科を担当していた医師は約10年間、毎月必ず奥尻島に通っています。以前は函館から来ていましたが東京在住になった今も変わらず島へ。国保病院にない設備での治療は函館で受けてもらいその後の経過を診察するなど、島の眼科医として支えています。

眼科医
「誰でもやりたいと思うわけじゃない仕事ですし、僻地医療のなかでも離島は海を隔てているという特殊性があって、同じ考え方ではうまくいかない。そういう意味でよく理解しているつもりなので適任かなと。私にとっては一番大事な仕事ですし、一生懸命やるようにしています」

看護師が不足

島民の健康を守っている国保病院ですが、島では深刻な看護師不足が続いています。
看護師の数は現在の医療体制をぎりぎり維持できる16人。ことし3月には70歳と75歳の看護師が引退するなど島には新しい人材がおらず、島の外からの派遣にも頼らざるを得ない状況です。もし看護師の誰かが体調不良になったら、緊急の患者が来たら…など人手不足への不安は常にあると言います。

こうしたなか、授業の一環で函館市から看護学生が奧尻島を訪れることになり、相談を受けた松井さん。「若い人たちに興味を持ってもらえるチャンスだ」と二つ返事で協力を決めました。

松井さん
「島で支える人が足りていないんです。それに看護学校からの卒業生が確保されている函館市などと違って、ここは全く学生とのつながりがない。
田舎だから学習にならないと誤解されるかも知れないけれど、国保病院にはいろいろな人が全部集まってくる。そういう意味では学習する機会が多いのではないかと思います。
島暮らしをしながら患者さんと向き合うのもありだと思うので、こうした良さを学生に伝えたいです」

島の外から新たな人材を

そして7月24日、函館市の函館看護専門学校の学生40人が奧尻島に到着しました。
奧尻町の海洋研修センターで、島の医師や看護師、ケアマネージャーや社会福祉士、そして保健師から幅広く話を聞き、離島の医療について理解を深めます。
グループワークではそれぞれ、離島ならではの役割や特徴、やりがいや大変なことなどを尋ねました。

そして松井さんも国保病院の現状や課題のほか、働く看護師を支援する制度も紹介しながら離島の魅力を学生たちに説明します。

松井さん
「何科の人を見たいという志望はなくても、すべて見ることができます。何科かを絞りたくない人、絞れない人は奥尻に来たらいい。まず働いて島暮らしを楽しんでそれから専門の病院にいく手もある。島暮らしっていうのも選択肢の1つに入れてもらえたら。
 最大の問題はあなたたちが来てくれないこと。あなたたちがほしい」

松井さんはじめ島の医療・福祉関係者たちはそれぞれ学生の質問に答えながら、「島に来ることをぜひ考えてほしい」と思いを伝えました。

1泊2日、奧尻島で島の人たちから話を聞いた学生たち。
「離島での仕事も選択肢の1つにしたい」という声などが聞かれました。

学生
「奥尻の医療は病院や人手が限られている分さまざまな知識や技術が必要だということが知れて、看護を学んでいく身としてこれからも頑張っていかなきゃいけないと感じました。診療科が限られていなくて、いろんな知識を身に着けられるという点で、すごく魅力がある所だなと思いました」

学生
「離島の医療について勝手に、足りていない部分や補えない部分がたくさんあるのかなと思っていたんですけど、島では最大限の力を出して協力し合いながら成り立っているんだなとわかりました。奥尻島に来るまでは離島の看護とか考えたことがなくて函館の病院に絞ろうと思っていましたが、1つの選択肢として離島とかちょっと遠くも視野に入れてみようかなと思います」

松井さんは島の出身者がまた戻ってくることを待つだけではなく、島の外から新しい人に来てもらえるよう、こうした機会を継続していきたいと考えています。また、今回の授業を実施した函館看護専門学校では来年と再来年も継続して実施することが決まり、将来、離島も含め地域医療を支える人材を育てていきたいとしています。

松井さん
「島はなしじゃない。島での就職もあり、それだけでいいと思います。
これを何年間か続けてそのうち1人でも来てくれればいいし、そういうのが何年かごとにつながってくれれば病院も維持できるのかなと思います。
今みたいな病院をアピールすることも必要ですし、僻地医療をちゃんと理解してもらってそれを手助けする仕事がしたいという人が出てきてほしいです」

2023年8月9日

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「北海道南西沖地震から30年 語り部を続ける元消防士」

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