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未踏峰への挑戦~ディレクターのヒマラヤ日記①~

  • 2023年12月5日

ジャルキャヒマール登山隊 4人の素顔をちょこっと紹介

大自然に対峙するとき、命の危険はつきものです。パーティーを組んでの山行は、互いの性格や技量、食料の分量や水の確保の方法に至るまで、互いを知り尽くすことがとても大事です。45日間にわたる過酷な挑戦に同行取材をしたからこそ知ることができた彼らの素顔を、ディレクターの小林目線でご紹介します。「未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~」NHKプラス配信中

野村良太さん(28)は北海道の登山ガイド

2022年に宗谷岬から襟裳岬まで、北海道を南北に貫く分水嶺を2か月間かけて単独踏破し、「植村直己冒険賞」を受賞した注目の若手です。

「北海道の北の端から南の端まで2か月間かけて歩き通した体力の持ち主と一緒に山歩きができるのだろうか」
同行取材が決まったときに真っ先に私が思ったことです。ロケまでの期間は1カ月。なんとか体力をつけようと、自分に“毎日の筋トレ”と“ジム通い”を課しました。

しかし、当たり前ですが、そんな付け焼刃のトレーニングで間に合うはずもありません。不安は的中。標高869mの村から標高4567mのベースキャンプまでは10日間かけて歩かなければなりません。長いときで一日8時間ほど歩きます。歩き始めた初日に、大声で歌いながら前を歩く野村さんが、一番後ろを必死で歩く私に「これはまだお散歩です」と笑顔で言った時の絶望感は忘れられません。2ヶ月間北海道の山を歩き続けた強者の体力、おそるべし。

そんな野村さんに、びっくりさせられ続けたことがあります。それは「食べるごはんの量」。毎回、ものすごい量のご飯をかき込んだあと、追加のおかわりが1杯、2杯、3杯・・・!?挙句の果てには、ネパール人スタッフが持っている米びつを指さして、「サッパイ!(ぜんぶ!)」と元気に叫んで平らげてしまうのです。その度に、食卓を囲むみんなの顔に笑顔が広がります。気持ちよく、たくさん食べる。野村さんの底なしの強さの秘密は、そんなシンプルなところにあるのかもしれません。

ただ、今回が初めての高所登山だったという野村さん、そんな調子で食べ続けていたら、標高4500mを超えるベースキャンプでおなかがゆるくなったようで・・・「ちょっとおなかが大変です」と顔をゆがませながら共用テントに入ってくる場面も・・・(笑)
底なしの体力の持ち主でも、高所となると事情が少し違うようです。
幸い、私はおなかだけは強いので、そんな野村さんの姿を見てちょっとニヤっとしていたのはここだけの話です。

竹中雅幸さん(33)は奈良県の登山ガイド

2020年に自ら隊長を務め、ジャルキャヒマール登頂を目指しています。そのときは雪や氷などの悪条件に見舞われ撤退しました。今回は2度目の挑戦です。

山頂に向けてベースキャンプを出発する前日、テントの前で一人、たそがれている竹中さんの姿が目に焼き付いています。
「何を考えていたんですか?」と聞くと、「山並みを見ていたら、ヒマラヤがとても優しく包み込んでくれているように感じます。」
と、そんなことを言います。
山に登る時、「挑む」という気持ちになりがちですが、「山に受け入れてもらえるか否か」という感覚も大事なんじゃないかと思う、と竹中さんは言葉を続けました。竹中さんらしい優しい言葉だなと記憶に残っています。

今回、撮影のために撮影班が通過した最高所は5106m。付け焼刃の筋トレしかしていない私も、もちろんみんなと同様にその高所を越えなければいけません。酸素が薄く、一歩一歩がとってもしんどい。もうだめかもしれない、歩けなくなるかもしれない、息が吸えない!!と思ったときでした。

後ろで誰かがひたすらに叫んでいました。
「小林さんなら行けます、大丈夫、大丈夫、大丈夫でえええーーーす!」
あの竹中さんの激励がなければ、もう前には進めなかったと思います。5106mを超えた時、あまりの苦しさと安心で私は泣きました。横を見たらなぜか竹中さんも泣きそうでした。
そんな、誰よりも優しい竹中さんです。

杉本龍郎さん(34)は山梨県の登山ガイド

新卒で入った商社を1年で退職し、登山にのめり込んで10年目。

「人生は一回しかないですから」龍郎さんがよく口にしていたことばです。
「だから、好きなことに打ち込む」「だから、行ったことがないところに行ってみる」龍郎さんの生き方そのものが、やりたいことをやるというシンプルな前向きさに溢れていると思いながら、そのことばを聞いていました。

龍郎さんは、高所に順応するためのトレーニング「高所順応」に誰よりも真剣に取り組んでいた印象が強く残っています。4500mを超える高所では、普通に生活しているだけでも息苦しいような特殊な環境です。体を慣らすためには、より標高が高いところまで行き、そのあとで下山して体を休めるということを繰り返す必要があります。文字で書くと簡単なことのように見えますが、これがめちゃくちゃしんどいんです。想像してみてください。息がまともに吸えないような環境で、もっと空気の薄い高所を目指して山の斜面を登るのには、相当強い精神力が必要です。それでも、時間があったら少しでも高度順応に出かける、そんなストイックさが龍郎さんにはありました。

そんな龍郎さんを見ていて、「好きなことをする」というのはただ快楽を追い求めることではないのだと思いました。好きなことをするための準備やトレーニングにも手を抜かないそんな一生懸命さが龍郎さんにはありました。
圧倒的にポジティブ。そして誰よりも一生懸命な龍郎さんです。

今回の登山隊リーダーの齊藤大乗さん(37)

北海道の北部に位置する島・礼文島の出身です。

「大乗さん、腹を割って話しましょう」
標高4500mのベースキャンプ、撮影班の機材テントの中で私と大乗さんは向き合っていました。
ベースキャンプに到着して、半分以上の日程が過ぎ、体力的にも精神的にもメンバーの中に疲れが見え始めていました。高所という特別な環境下でハードな登山に挑むのですから、疲れるのも当然です。登山隊の中では意見の食い違いでちょっとした衝突も起き、隊の雰囲気が悪くなることもありました。そんな中、彼らの姿を追ってきた私自身も、番組の方向性を見失いかけてしまっていました。本当に番組はできるのだろうか。不安で押しつぶされそうになっていた私は、いま一度、未踏峰に登る意義を問い直そうと、大乗さんに話を持ちかけたのです。

テントの中で話しあうことなんと4時間・・・(笑)
大乗さんはこんなことを言ってくれました。
「数年前、初めて未踏峰を目指した時に、とてもきれいな光景を目にしたんですよ。それはまだ世界で誰も目にしたことのない風景だって思った瞬間にものすごく心が揺さぶられたんです」
だから未踏峰に登りたいし、番組としてこの挑戦やヒマラヤの景色を記録してほしいと。

なぜ4人が苦しい思いをしてまで未踏峰を目指すのか。大乗さんのことばにヒントが隠されていました。

まだ誰も見たことのない風景が、この世界のどこかに広がっている、そんなことに思いを馳せれば、日常の見慣れた風景も少しわくわくして見えるのかもしれない。そんなことに気づかされたのは、大乗さんの飾り気のない言葉が持つ力だなと思います。
熱い思いを持つリーダー、大乗さんです。

未踏峰登頂を目指した4人。番組を見ながら、個性豊かなメンバーとの旅をお楽しみください!

(札幌放送局ディレクター 小林美月)

未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~
2023年12月18日(月)夜10:45~11:28<総合・全国>

【出演】野村良太、齊藤大乗、杉本龍郎、竹中雅幸
【語り】桐谷健太 【朗読】小林エレキ
※NHKプラスで見逃し配信中 (配信期間:12/25(月)午後11:28まで)

▶未踏峰への挑戦~野村良太のヒマラヤ日記~特設サイト

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