ページの本文へ

NHK北海道WEB

  1. NHK北海道
  2. NHK北海道WEB
  3. ほっとスポーツプラス
  4. 今も現役を続ける その理由は

今も現役を続ける その理由は

  • 2023年7月20日

札幌市に、国内最高齢のバスケットボール選手がいます。在間弘(ありま・ひろむ)さん、98歳です。競技歴は実に80年以上!どうして今もプレーを続けるのか。お話を伺うと、学生時代のある経験が、在間さんを今も突き動かしていることが分かりました。

“レジェンド”在間弘さん

札幌市のシニアバスケットボールクラブ、その名も「ロートルズ」。週1回、市内の小学校の体育館に集まって練習しています。平均年齢は73歳!高校の元体育教諭の方など経験者もいれば、老後になって始めた人もいるなど様々。共通しているのは、皆さん仲良く、楽しくプレーしている事です。

ここに所属する、在間弘(ありま・ひろむ)さん(98)です。日本バスケットボール協会に登録された国内最高齢の選手で、得意技は正確なフリースロー。Bリーグ・レバンガ北海道の公式戦や、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAの試合が日本で開催された時のオープニングセレモニーなどで、多くの観客を前に腕前を披露したこともあるんです。すごいですね!チームメートは、そんな在間さんを“レジェンド”と呼びます。

今も、自宅での毎日のトレーニングを欠かさないという在間さん。バスケットボールに出会ったのは12歳のときで、競技経験のあった恩師に「背が伸びるぞ」と勧められたのがきっかけでした。ただ、ご本人いわく「背は全く伸びなかった」そうです(笑)。

長年、体育教諭として中学校や高校でバスケットボール部の指導にあたり、チームを全国大会に導くなどしてきた在間さん。競技歴は実に86年。どうして今もプレーを続けるのか、それは学生時代のある経験が理由でした。

“敵性スポーツ”でプレーできなかった

昭和16年、在間さんが札幌師範学校2年生のときに太平洋戦争が始まりました。すると、アメリカ発祥のバスケットボールは“敵性スポーツ”と見なされ、全ての対外試合が禁止されました。当初は学内で練習こそできていたものの、それもだんだんと厳しくなり、遂には籠球部(当時のバスケットボール部の名称です)の練習は銃剣術に置き換わったといいます。

(昭和15年、15歳のときの在間さん)

在間弘さん
せっかく下級生としてそれまで厳しい練習に耐えてきて、やっと試合にも出られると思ったのに試合が禁止になってしまい、とても悔しかったです。

昭和18年になると、戦況の悪化にともない学生に対する徴兵猶予が撤廃され、全国から10万ともいわれる学徒が出征しました。在間さんも仙台にあった陸軍予備士官学校に送られ、将校になるための訓練を受けました。そしてまさに戦地に送られようとしていた昭和20年8月に終戦を迎えたのです。自分たちを厳しく指導していた上官が、終戦の報に触れると、完全に冷静さを失った状態で、持っていた日本刀で周囲の竹やぶの竹を切り刻んでいた様子を在間さんは今も鮮明に覚えています。「日本の敗戦を受け容れがたかったがための行動でしょう。それを見た瞬間、私も、それまで自分たちが教えられてきたものが一気に崩れたように感じました」と在間さんは振り返ります。

平和の尊さをかみしめながら

今から5年前、在間さんは、母校の札幌師範学校、今の北海道教育大学札幌校の同窓会館に、学生時代に制作し大切に保管してきたアルバムを寄贈しました。籠球部のチームメートと映ったものや、当時住んでいた寮仲間との写真など思い出がびっしり詰まったそのアルバムの最後のページには、出征を前にした在間さんに仲間たちから寄せられたメッセージが残されていました。

在間弘さん
これは私が1番親しかった友人からです。『ついに別れか』と書いてあります。とても賢い男でしたよ、字もうまいでしょう?

16ページにわたる寄せ書きは、在間さんにあてて書いたのと同時に、まもなく出征する自分自身を鼓舞するために書いたとも見え、当時の学生たちの複雑な心境が伝わってきます。仲間たちの多くは、在間さんと同じように戦地に赴く前に終戦を迎えました。それでも在間さんは、今でも平和の尊さを強く感じています。

在間弘さん
今思えば、不幸な時代に巡り合ったと思います。やっぱり平和はありがたい。今もウクライナのニュースを見ると当時を思い出します。スポーツができることは平和であるということ。これからも、1年でも長くバスケットボールに関わっていきたいと思っています。

プレーできる喜びをかみしめて、今日もコートに立つ在間さん。北海道ではことし、36年ぶりに全国高校総体=インターハイが開催されます。高校生たちには、スポーツができることに感謝して全力を尽くして欲しい---在間さんの願いです。

(在間弘さん、アルバムを保管している北師会館の小西俊之館長と)

NHK札幌放送局アナウンサー 芳川隆一
戦争の記憶と平和への思い 他にも取材しています
侵攻に揺れる根室の高校生 
深夜便インタ“全部載せ”!
ウクライナ避難民を助けるロシア店主 
知っていますか、被爆した留学生たちのこと

ページトップに戻る