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十勝からウガンダの酪農を救え!

  • 2023年7月26日

十勝から遠く離れた東アフリカのウガンダ。
畜産・酪農がさかんなウガンダでは、今、「マダニ」が農家を苦しめています。
マダニが媒介する感染症で命を落とす牛が後を絶たないなか、酪農王国十勝が蓄積した知識と技術でウガンダの牛を救い、農家を守るプロジェクトが始まっています。(帯広放送局記者 堀内優希)

ウガンダの酪農に影を落とす「マダニ問題」

日本から1万キロメートル以上離れた東アフリカの国、ウガンダ。
主な産業は農業です。特に、北東部から南西部にかけての一帯は牛回廊(Cattle Corridor)と呼ばれ、酪農・畜産業が住民の生活を支えています。
しかし、ウガンダでは今、農家たちがとある厄介者に頭を悩ませています。

それがマダニです。
牛に寄生したマダニは、牛の血液を吸い、貧血の原因となるほか、血中感染症を媒介します。感染した牛は、体調を崩し、死んでしまうことも多いといいます。農家の経済的な損失も大きく、深刻な問題となっています。

ウガンダのマケレレ大学でマダニ対策について研究しているマリア・トゥムウェバゼさんです。マリアさんは、ウガンダでは、多くの農家がマダニ対策のために何をすればいいのか、よく理解できていないのが現状だと話します。

問題を深刻化させる薬剤耐性マダニ

そして今、ウガンダでは薬剤に耐性を持つマダニが出現し、問題の解決をさらに難しくさせています。
薬剤耐性マダニが現れた背景にあるのは、「知識不足」です。
マダニを効果的に駆除する薬剤の選び方や牛への噴霧の仕方、必要な器具など、基本的な知識がウガンダの農家の間では共有されておらず、薬剤の誤用や乱用が相次いでいるといいます。

マリア・トゥムウェバゼさん
なかには、殺ダニ剤ではダニを駆除できなくなってしまったからといって、野菜用の農薬を牛にかけている農家もいます。ウガンダの農家にとっては、新しい殺ダニ剤を選ぶよりも農薬を買う方が手軽なんです。でも、農薬の使用や殺ダニ剤の乱用は、人間の健康にも悪影響を及ぼします。

十勝から知識と技術を

マリアさんとともに、この問題を解決しようと取り組んでいるのが、帯広畜産大学原虫病研究センターの鈴木宏志教授です。10年前から定期的にウガンダに足を運び、調査を続けてきました。
マリアさんも3年前まで研修員としてこのセンターに在籍し、鈴木教授のもとで学びました。

帯広畜産大学原虫病研究センター 鈴木宏志教授
現地の農家も何もしてないわけではなく、自分たちがしているマダニ対策が本当に効果的なのかどうかわからないまま、日々駆除の努力をしているんです。そういった農家に対して、正しい知識・情報を提供する仕組みも十分につくられていないのが現状です。

こうした状況を変えるため、2020年、鈴木教授はJICA帯広と協力し、マダニ対策の技術を伝えるプロジェクトを始めました。
重要なのは、むやみやたらに対策するのではなく、本当に効果を発揮する方法を知ることです。プロジェクトでは、科学的根拠に基づいたマダニ対策の方法と、その大切さを伝えています。

画像提供:帯広畜産大学原虫病研究センター

科学的根拠に基づいたマダニ対策の基本となるのが、適切な薬剤の選択です。
「薬剤感受性試験」と呼ばれるこの試験では、何種類もある薬剤の中から、効果があるものはどれなのか判定します。

薬剤感受性試験は従来、農場から採取した成ダニをふ化させ、幼ダニを使って行われてきました。そのほうが、サンプルとなるマダニの数量を安定的に確保できるからです。しかし、それだと幼ダニをふ化させてから試験する必要があるため、結果がわかるまでに1か月以上の時間がかかっていました。
そこで、プロジェクトでは、成ダニを使った試験を導入したのです。

帯広畜産大学原虫病研究センター 白藤梨可准教授
長らく試験方法の改良もされていなければ見直しもされていなかったので、もう少し簡単に、そして短い期間で結果がわかるように、成ダニを使った試験を取り入れました。

この試験を現地の研究所で導入することによって、試験を実施してから農家へのフィードバックまでに1か月以上かかっていたのが、3日程度に短縮されました。次の薬剤噴霧のタイミングに間に合うようになったことで、より迅速で効果的な対策が可能となったのです。

画像提供:JICA帯広

帯広畜産大学原虫病研究センター 鈴木宏志教授
いま通常行われている作業について、否定的・批判的な目でその内容を勘案して改善策を提案し、それを実行する。そういう仕組みづくりが必要です。

持続可能なマダニ対策を目指して

このプロジェクトはこれからも続きますが、鈴木教授は、ウガンダの政府と農家が、科学的根拠に基づいたマダニ対策を自立してできるようにならなければ意味がないと話します。
ウガンダの酪農が持続可能なものとなるためには、マリアさんのような現地の研究者の努力が欠かせません。マリアさんは、鈴木教授やJICA帯広と連携しながら、基本的な酪農の知識からマダニや薬剤に関する科学的な技術まで、農家を回って丁寧に指導しています。

マリア・トゥムウェバゼさん
指導を受けた農家の多くは、マダニ対策の基本を教えてくれるこのプロジェクトに感謝しています。私はこの問題についてこれからも研究を続けていくつもりです。将来的には、政府にも働きかけてこの問題に目を向けさせ、薬剤耐性マダニへの対策を支える政策を打ち出していきたいです。

マリアさんは、「知識」こそが牛を守り、産業を守り、そして人を守ると語ります。

マリア・トゥムウェバゼさん
すごく、すごく大切です。知識は力なんです。

取材後記

安定した通信環境がないなか、嫌な顔ひとつせずインタビューに応じてくれたマリアさん。とても明るく熱意に満ち溢れた研究者でした。
マリアさんのように十勝で学んだ外国人研究者が世界で活躍し、十勝にも、さらなる知識や経験を還元してくれることを期待します。

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