ページの本文へ

NHK北海道WEB

  1. NHK北海道
  2. NHK北海道WEB
  3. ほっとニュースweb
  4. 雨雲レーダー“空白地帯”の謎

雨雲レーダー“空白地帯”の謎

  • 2022年8月26日

雨雲レーダーに“空白地帯”があるとご存知でしたか?雨の降る場所や強さをリアルタイムで地図上で見ることができる雨雲レーダーですが、実は、雨が降っていても雨雲が表示されないエリアがあるんです。今回のシラベルカは、そんな「雨雲レーダー空白地帯の謎」に迫ります。

雨が降っているのに、雨雲レーダーに表示されない!?

6月、シラベルカのLINE投稿フォームにこんな質問が寄せられました。

私は北海道に住んで3年が経ちますが、恥ずかしながらこの事実を知りませんでした。そこで、七飯町やせたな町が位置する北海道南部に雨が降った日、雨雲レーダーを見てみました。すると・・・。

たしかに、七飯町からせたな町にかけて、くさび状に雨雲が表示されていない“空白地帯”があったのです。

私自身、洗濯物を干すタイミングをはかるのに、頻繁に利用する雨雲レーダー。その空白地帯に住む人はどう思っているのか聞いてみました。

「知りませんでした。観測ポイントがないんですか?」(40代男性)
「えー天気の行方とか知りたいですね」(30代女性)

地元の人でも「知らなかった」という人が大半でした。犬の散歩をするタイミングをはかるために毎日雨雲レーダーを見るという60代の女性は、空白地帯は雨が少ないことを意味していると思い込んでいました。

「雨雲がただ表示されていないだけと知って、がっかりしました。いつ雨がやむかなと思ってレーダーを見てるので、やっぱり雨雲を表示してほしいですね」(60代女性)

レーダーの電波が山に遮られている!?

これは、我々が調べねば!
まずは、雨雲レーダーマップを表示しているわが社のアプリ「NHKニュース防災アプリ」の開発担当者に理由を尋ねました。

NHKニュース防災アプリ開発担当 山下和彦デスク
「NHKのニュース防災アプリでお伝えしている雨雲データマップという機能は、気象庁のデータをもとに表示しています。ですので、気象庁のレーダーが何を映し出して、何を読み取っているのか次第です」

となると、「雨雲レーダー空白地帯の謎」を知っているのは気象庁ということなのか。全国20か所の気象レーダーを管理している東京の気象庁に聞いてみました。

気象庁観測整備計画課 奥村栄宏主任技術専門官(レーダー担当)
「気象庁が横津岳という山の上に函館レーダーを設置しておりますが、横津岳の山頂より少し低いところに設置しています。そのため、アンテナをぐるっと回しながら電波を出して観測したときに、横津岳の山頂部分がちょうど電波を遮ってしまって、レーダーからこちらの方向が見えていないという状況になっております」

横津岳の気象レーダーの電波が遮られているとは一体どういうことなのでしょうか?シラベルカ取材班は現地に向かいました。
訪ねたのは、3か月に1回行っているという定期点検の日。日頃、横津岳のレーダーのメンテナンスをしている函館地方気象台の伊藤さんに案内してもらいました。特別なゲートを抜け、40分ほど山道を走ると、函館市街が見渡せる標高1111メートルの山の上に「横津岳気象レーダー観測所(函館レーダー)」がありました。

この日の定期点検ではレーダーの電波を一時的に停止させるということで、その間にレーダーの最上部に上がらせてもらいました。普段は強力な電波が飛んでいるために、絶対に入ることのできない場所です。レーダーの高さは30メートル。狭い階段を上っていくと、ついに気象レーダーの最上部にあるドームの内側、アンテナにたどり着きました。パラボラアンテナの大きさは、直径4メートルもあり大迫力です。1枚の写真におさまりきらないほどの大きさでした。

気象レーダーは、アンテナを回転させながら電波を発射し、発射した電波が戻ってくるまでの時間から雨や雪までの距離を測り、戻ってきた電波の強さから雨や雪の強さを観測します。半径数百km内に存在する雨や雪を観測でき、函館レーダーは北海道南西部から青森県まで観測しているそうです。

続いて案内されたのは、ドームの外側。ドームに取り付けられた1メートル四方ほどの小さな扉を抜けると、外側に出ることができるのです。外に出ると、目に飛び込んできたのは、気象庁とは別のレーダーが建っている横津岳の山頂でした。NHKのヘリコプターから撮影した映像からは、気象レーダーが山頂よりも低い位置にあることが分かります。横津岳の山頂が1167メートルなのに対して、レーダ-の高さは1142メートル。およそ20メートルの高低差が、気象レーダーの電波を遮っていたんですね。地図で見てみると、たしかに山頂の方角に七飯町やせたな町があることが確認できました。

天気が良ければ、函館や室蘭の市街地、さらに青森県の下北半島まで見える、レーダーの設置にはうってつけの場所です。

なぜ山頂に設置しなかったの?

しかし、なぜ山頂に気象レーダーを設置できなかったのでしょうか?

再び気象庁に尋ねると、気象レーダーがもともと設置されていたのは夜景で有名な函館山でしたが、標高334メートルと低かったためレーダーが届かない地域が多かったようです。そのため平成4年に、より高い横津岳に移設しようとしたのですが、その時すでに山頂には国土交通省の航空路監視レーダーが設置されていたため、やむをえず山頂より低い場所に設置したということでした。このため、気象レーダーの電波が遮られて、マップに空白地帯ができていたんですね。

柏ビーム 2本の空白地帯の謎

道南に存在する「雨雲レーダー空白地帯」の謎は解けましたが、調査の過程で意外なこともわかってきました。この「空白地帯」が、仙台市と千葉県柏市にもあるというのです。このうち柏市のケースは、空白地帯が2本のビームのように見えることから「柏ビーム」と呼ばれ話題になっているようです。

「柏ビーム」が生じる原因は、都市化でした。地図で見てみると、気象レーダーの奥に2つの高い建物が見えます。これが手前の気象レーダーから出ている電波をさえぎり、「柏ビーム」をマップに出現させていました。

気象庁によりますと、これまでも都市化にともなって、気象レーダーの設置場所を見通しの良い場所に変えてきた歴史があるそうです。
柏ビームという空白地帯ができた電波を出している気象レーダー「東京レーダー」も元々は東京都大手町にある気象庁本庁にありましたが、周辺に高い建物が増えてきたため、1989年(平成元年)に現在の千葉県柏市に移設されました。北海道に設置されている他の2つの気象レーダー、「札幌レーダー」と「釧路レーダー」も元々は札幌市と釧路市の中心部に設置されていましたが、周辺地域の都市化に伴って郊外に移設されました。時代の流れに合わせて、気象レーダーの設置場所も移っていったんですね。

ところで、こうした雨雲レーダーの空白地帯、防災上は問題はないんでしょうか?。気象庁によりますと、国土交通省が設置している別の気象レーダーによって空白地帯がカバーできていることに加え、解析雨量やアメダスなど複数のデータから気象状況を分析しているので、防災上問題はないという見解でした。また現在、気象庁と国土交通省のデータをあわせてマップに表示するような改良を進めているそうで、北海道の空白地帯も数年以内には解消しそうだということです。

ちなみに、今回は物理的な障害物によって雨雲が観測されない事例を紹介しましたが、気象レーダーの電波が大気の屈折率の分布状態によって曲げられたりするなどして、雨が降っていないはずの場所でエコーが観測されたり、実際に降っている雨の勢いよりも強くエコーが観測されたりする事例もあるそうです。

2022年8月23日放送
(札幌局カメラマン 住田達)

投稿はこちらから↓

▶シラベルカ公式LINEアカウントが誕生!「友だち追加」をすると投稿ができます。
※NHKのサイトを離れます ※事前にLINEアプリのインストールが必要です。

シラベルカトップページ

ページトップに戻る