ページの本文へ

NHK北海道WEB

  1. NHK北海道
  2. NHK北海道WEB
  3. ほっとニュースweb
  4. あの日、出かけないでほしかった 暴風雪10年 遺族の願い

あの日、出かけないでほしかった 暴風雪10年 遺族の願い

  • 2023年3月2日

「出かけないでほしかった。いまさら時間戻せって言われても、もうどうすることもできないんですけどね」
10年前、北海道内を襲った暴風雪で家族4人を失った父親の言葉です。2013年3月2日から3日にかけて、暴風雪で車の立往生が相次ぎ、道内で9人が亡くなりました。 あの暴風雪被害の教訓を忘れてほしくないと、残された父親が語ってくれました。
(釧路局記者 島中俊輔) 

あの日、家族4人を失った

「忘れたことは1日もないです。子どもたちが大きくなったその姿、成長を見たかったなというのが今でもずっと思います」

10年前、中標津町で亡くなった宮下加津世さん(当時40)、長女の未彩さん(当時17)、次女の紗世さん(当時14)そして長男の大輝さん(当時11)。

4人は吹きだまりの雪で埋まった車の中から発見されました。車のエンジンがつけられたままだったため、排気ガスが車内に流れ込んだとみられ、一酸化炭素中毒で亡くなりました。

2月、家族4人を失った父親と面会し、話を聞かせてもらいました。当時、会社から急きょ現場に向かった父親が特に驚いたのが天候の急変だといいます。

「まさか吹雪であんな目に合うとは全く思ってなかった。本当に特別な大きな吹雪だったので、助けに行ったけどたどり着けなかった。本当にびっくりするくらい天候が急変した。日中なんか本当晴れていたのに。急にですからね」

あの日、急変した天候

「天候が急変した」という当時、上空では何が起きていたのか。釧路地方気象台の中山寛観測予報管理官に聞きました。
当時は低気圧が発達しながら北海道上空を通過していました。天気図の根室地方付近を見てみると、3月2日の朝は低気圧の中心付近がありました。しかし、昼過ぎ、夕方となってくると、低気圧が通過して根室地方に多くの等圧線がかかっているのがわかります。等圧線が多くかかる、つまり混んでいれば気圧の傾きが大きく、風が強く吹きます。

釧路地方気象台 中山寛 観測予報管理官
「低気圧の中心付近はむしろ等圧線が混んでいなくて、台風の目のような形で晴れている場所になるので朝は晴れていた。昼過ぎになって、低気圧の中心が東へ抜けて、等圧線が混んでいる風の強い領域が根室地方にさしかかってきたということで一転して暴風雪になった」

一気に悪化した天候。気象台は暴風雪警報を昼過ぎに発表していましたが、被害は起きてしまいました。中山さんは当時の警報、つまり気象台としての災害への緊迫感を、一般の人たちに伝えることの難しさを話します。

釧路地方気象台 中山寛 観測予報管理官
「低気圧の中心付近が晴れて、周辺が風が強くて暴風雪になるということはそんなに珍しいことではない。ただ3月2日の現象は、数年に一度ぐらいの風の強さ、暴風雪であったというふうに考えている。ただ、朝晴れていて天気が良いと、警報とか気象情報に注意を払ってもらうことがなかなか難しい」

“数年に一度の猛吹雪”“外出を控えてください”

気象台はこの被害を教訓に気象情報の発表を改めました。より緊迫している状況を伝えようと、「数年に度の猛吹雪」「外出を控えてください」という短い2つのキーワードで警戒を呼びかけることにしたのです。

北海道だけで独自に発表しているこの情報は、被害から9か月後、2013年12月から運用が始まりました。これまでの10年間に、この情報が発表されたのはわずか4回。まさに“数年に一度の猛吹雪”という状況の時にしか発表されません。

釧路地方気象台 中山寛 観測予報管理官
「この2つの“数年に一度の猛吹雪”“外出を控えてください”というキーワードが使われていた場合は、晴れていても2013年の時のような猛吹雪に天気が急変すると考えていただいて、外出を控えていただいたり、行動を見直していただけたらと考えている」
「時間に余裕がなければ、近くの避難場所に避難していただく。自治体の避難所に限らずに、スーパーやコンビニなどでもいい。車を停めて建物の中に入りさえすれば安全に過ごすことができる」

天気図から読み解く暴風雪“七五三”

また、私たちでもテレビや気象庁のホームページなどで見られる天気図から暴風雪のおそれを読み解くことができます。それが等圧線が北海道付近にかかった本数から読み解く方法です。“七五三”と呼ばれています。

等圧線のかかる数が…

▼7本の場合/数年に一度の猛吹雪クラス、外出は控えて
▼5本の場合/暴風雪警報クラス、猛ふぶきや交通障害に警戒
▼3本の場合/風雪注意報クラス、ふぶきや吹きだまりに注意

といった形です。あくまで目安のため、気象台がこれだけで警報や注意報を発表しているわけではありませんが、等圧線の間隔が狭くなっているのが視覚的にわかればふだんよりも注意することができると思います。

もし立往生してしまったら…

ただいくら暴風雪に警戒していても、立往生してしまう場合もあります。暴風雪災害に詳しい専門家、日本赤十字北海道看護大学の根本昌宏教授は10年前の被害で忘れてはならないことを次のように話します。

日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授
「暴風雪で立往生してマフラーが埋まりそうな時には、エンジンを切る。これはやはり繰り返し啓発する必要がある。去年も車のマフラーが埋まって一酸化炭素中毒で命を失った事案が本州であった。これは知識さえあれば予防ができる」

根本教授によると、エンジンを切れば外気温がマイナス5度前後の場合、2時間程度で車内の気温が氷点下となり、4時間程度がたてばほぼ外気温と同じような気温となるということです。そうした場合はただの防寒着だけでは車内にとどまるのが難しいため、防寒対策、そして車内で過ごすために備えておくべきものがあると言います。

▼寝袋、もしくは毛布
▼カイロ
▼車の窓ガラスを覆うカーテン、シェード
▼携帯トイレ、もしくはビニール袋
▼ようかんなどお菓子類

日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授
「そんなに難しいものではなく、ふだん地震や津波に備えておく防災グッズとすごく似ている。冬の車中泊で注意すべき疾患は4つで、一酸化炭素中毒、低体温症、エコノミークラス症候群、そしてカイロなどを使うことによる低温やけど。逆に言えば、この4つさえ留意して解消できるようにしておけばいい。これを踏まえて車内に備えておくべき防災グッズを考えていただきたい」

出かけないでほしかった 遺族の願い

猛吹雪で立往生した車の中で亡くなる被害は後をたちません。10年前、家族4人を亡くした父親は今でも亡くなった家族のことを思い返す瞬間があると言います。

「ふとしたことでやっぱり思い出したり、空に向かって手合わせたりします。亡くなったひとりひとりの名前を呼んで、みんな元気にしてるかなっていう感じで言葉をかけてますよ。そのうち会えるといいねって。そう毎回、言ってます」

命を守ることが一番だと話す父親。後を絶たない暴風雪の被害に願うことがあります。

「吹雪になると分かっているなら、出歩かないのが一番ですよね。やむを得ず出かけた場合は一酸化炭素中毒の危険性への対処をちゃんとしないといけない。吹雪でどうしてもいちいちマフラー周りなんか除雪しないことがある。でも10年前のようにあれだけ大きな災害があったんだから、そうした対処をすることをもう少し分かってもらいたい」

ストップ暴風雪被害キャンペーン
始動!NHK北海道の太平洋防災プロジェクト

ページトップに戻る