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馬産地の未来を担う高校生たち~新ひだか町 静内農業高校を訪ねて~

  • 2024年1月19日

あのウオッカやタニノギムレットも輩出した新ひだか町。ここには、生徒自らがサラブレッドを育成し馬についての専門的な知識や技術を学ぶ、馬産地ならではの高校生たちがいます。担い手の確保が課題の馬産地で、地域が協力して馬産業を支えるプロフェッショナルな人材の育成にも取り組む静内農業高校。「優駿のふるさとは未来へ 第4弾」は、馬に魅せられた高校生たちが、馬とともに成長するその現場を取材しました。 (室蘭放送局 山本 直広) 

優駿のふるさとは未来へ 第4弾
馬に魅せられた高校生たち
初回放送:2024年1月27日(土)午前11時36分から 以降は随時放送 
総合テレビ 北海道ブロック
【ナレーター】大橋彩香(声優)
 

番組動画はこちら(1月29日 午後3時から配信)

 

「地域と連携した人材育成」

静内農業高校は令和3年度~令和5年度の期間、マイスター・ハイスクール指定校となり、地域の企業や団体と一体となって人材育成が行われています。軽種馬関連では、日本一の馬産地・日高という地域性を生かして日本中央競馬会(JRA)や日本軽種馬協会(JBBA)・日高軽種馬農業協同組合等と連携し、各分野の第一線で活躍するプロフェッショナルな専門家から最先端の知識や技能を生徒は学んでいます。取材したこの日は、JRA日高育成牧場から装蹄師の講師が招かれ、サラブレッドの生態から馬の蹄(ひづめ)に関する専門的な知識等の講義が行われていました。
※マイスター・ハイスクール事業
文部科学省が指定する専門高校等において、専門高校等と産業界、地方公共団体が一体となって最先端の職業人材育成を推進する事業。

 

「世界初となる3Dプリンターを活用した蹄(ひづめ)の治療研究」

同高では昨年度に道立総合研究機構等と連携し、3Dプリンターを活用した、子供たちでも足が載せやすい形状の樹脂製の「あぶみ」(乗馬の際に足を載せるための馬具)を製作。そして今年度、JRA日高育成牧場・日本軽種馬協会静内種馬場と連携し研究を進めているのは、競走馬の命ともいえる蹄(ひづめ)が割れてしまった際に症状の悪化を防ぐための治療用の樹脂素材を、1頭1頭の蹄に合わせて3Dプリンターを活用して製作する研究です。

現在、治療には主に鉄やアルミニウムを使った蹄鉄が用いられていますが、物理的に加工できない形であったり、細かい加工が難しいケースがどうしてもあるそうです。そこで、3Dプリンターの技術を活用して、実際の蹄の形にあった素材を製作しました。樹脂素材は温めることで特殊な形にも隙間なくフィットさせることが可能なため、病気により特殊な形の蹄鉄を必要とする馬の治療への活用が期待されます。また、素材自体が樹脂(植物性由来)からできているので、放牧地で仮に落ちたとしても自然界で分解されるといった利点もあると言います。まさに、最先端の技術と専門的な講師による充実した学びの場が、そこにありました。

 

「競走馬のせり市で販売」

静内農業高校では、サラブレッドの生産から飼育、競走馬のせり市での販売まで、馬産地を支える生産現場の一連の流れを生徒自らが経験する形で学んでいます。その集大成ともいえる実習が、生徒が自ら育ててきたサラブレッドを、日本最大規模の競走馬のセリ「サマーセール」で販売することです。

 

「無事にセリに送り出す」

兵庫県出身で、静内農業高校のOBでもある小林忍教諭。馬事コースの指導を担当する先生の一人で、静内農業高校に着任して11年目となります。無事にセリに送り出すことが当たり前ではない、と語ってくれた小林教諭。そこには苦い経験がありました。

小林忍教諭
「2年目の時、セリの直前に馬がケガをしていることがわかり、セリに出せなかった経験があります。衝撃的でした。怪我の早期発見や異変に気付くことの大切さを教わり、日々の管理が一番大変であり大切であることを実感しました」

 

「セリ当日の引き馬」

静内農業高校で生産され、育成が行われてきたサラブレッドの光翔(みなと)にとっては、同い年の他の馬と会うことはセリ会場が初めてになります。"同級生"を見て光翔(みなと)がどういった反応をするのか、不安があったそうです。パレードリンクで実際に馬を引いた3年生は、その不安をよそに、セリ会場では馬に助けられたと語ってくれました。

3年生 
「もっとうるさいと思っていましたが、思った以上に(馬が)静かで、自分でも制御できたと思います。今日は馬が落ち着いていて、馬に助けてもらいました」

 

「馬とともに成長する」

1年半の間、出産時から馬を育ててきた生徒たちを間近で見続けてきた小林教諭。実際にセリで馬を引く生徒を見て、小林教諭だからこそ感じることがありました。

小林忍教諭
「技術面も含めて、精神面の成長を感じました。大舞台でプロのホースマンたちと肩を並べて、堂々と馬を引くことができていました。馬も幼い馬でしたが、おとなしく理想的にこなしていました。馬も人も成長したな、と思います」

 

「セリの瞬間」

コロナ禍を経て、4年ぶりに馬を引く生徒以外も会場に足を運ぶことができた今回のセリ。生徒は間近でセリを見られることの嬉しさも感じていました。そして、これまで光翔(みなと)と過ごしてきた時間やセリに向けたトレーニングの場面など、生徒それぞれが光翔(みなと)への思いを抱きながらも、一つの同じ願いがありました。
「無事に買い手がついてほしい」
その願いが叶うことを信じて、セリの瞬間を見守りました。そして、無事に買い手がつきました。

3年生 
「声がかけられて良かったです。光翔(みなと)と馬を引く仲間が準備してきてくれたので、無事に声がかけられたと思います。普段世話をしている時は競走馬という実感はあまりなかったのですが、セリを終えて、競走馬として育っていくのだなと実感しています。ここからがスタートなんだと思います」

 

「静内農業高校旅立ちの日」

セリが終わってから2週間後、出生から立ち会い、約1年半の間生徒たちが育成に取り組んだ光翔(みなと)が、静内農業高校を旅立つ日を迎えました。移動する馬運車に乗せるために、いよいよ厩舎から馬を出す直前まで、生徒たちは普段通りの雰囲気をつくるよう努力していました。人の気持ちを察し環境の変化に敏感な馬は、寂しさをにじませると馬運車に乗れなくなってしまうからです。

3年生 
「いなくなると考えると馬を見に来たかったんですけど、あんまり(厩舎に)来すぎると、馬が環境の変化に敏感なので、馬のことを考えて来ないようにしていました。ここからは(競走馬として)活躍してほしいという思いだけです」

 

「馬への感謝」

出産直後の光翔(みなと)に触れてきた3年生。普段の馬のお世話や育成等を通じて、様々なことを馬から学び、馬と共に成長してきました。

3年生 
「これからが(競走馬としての)スタートになるので、次の場所では慣れない環境の中で疲れることもあると思うけど、頑張ってほしいです。生まれた光翔(みなと)をタオルで拭いた時から、これまでずっと一緒に過ごしてきました。私たちに競馬の世界を教えてくれた大切な存在です。ありがとう。」

生まれて1週間頃の光翔(みなと)と生徒たち

 

セリで買い手がつき、無事に競走馬としてのスタートを切らせることができたことの喜びや苦労を実体験として学んだ生徒たち。手塩にかけて育ててきた馬との別れの日にも、馬のことを第一に考えて、最後まで普段通り馬と接するたくましい生徒たちの様子を間近で見ることができました。サラブレッドに関わる様々な技術や知識を学びながら、何よりも競走馬と向き合う大切な「心」も磨いてきたのだと感じました。そして、馬産地を支える未来のホースマンたちが、確実に育っていることを実感する取材となりました。

 

馬産地応援ページはじめました
「優駿のふるさとは未来へ」のまとめページです

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