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続 雪おろし“命綱”の使い方は?

  • 2022年12月23日

雪おろしに注意の放送をご覧になった方から質問をいただきました。 雪おろしの時の命綱の正しい使い方や住宅に降り積もった雪への注意点について調べました。
※雪おろしにまつわる事故があとをたちません。この記事を再公開します。

腰ベルトで大丈夫?

今回、頂いた投稿は-。

「最近、命綱をしていたのに死亡事故が起きたと聞きました。万が一、屋根から落ちた場合、胴ベルトで大丈夫なのでしょうか」(50代女性)

答えは・・・
「6.75m以下の高さでの作業では胴ベルトの使用も認められていますが、転落時にはお腹や腰にかかるリスクもある」ということです。一体、どういうことなのでしょうか?

命を守る道具は適切な選択を

前回に引き続き、長岡技術科学大学の上村靖司教授に話を聞きました。全国の雪の事故の防止を研究している雪下ろしのエキスパートです。

胴ベルトは、ロープを体につけるための安全対策器具「墜落制止用器具」の一種です。作業を行う高さなどにより選択します。
▽胴ベルト型
▽シットハーネス型
▽フルハーネス型の3種類があります。

厚生労働省が定める規格では、2階の大屋根に相当する6.75メートル以下の場合は、質問にあった胴ベルト型も認められています。

厚生労働省 墜落制止用器具の規格
「6.75メートルを超える高さの箇所で使用する墜落制止用器具は、フルハーネス型のものでなければならない」

しかし、万が一、宙づりになった場合などを考えるとリスクがあるということです。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「(胴ベルト型は)宙づりになると、おなかに力がかかって内臓を痛めたり、あるいは背骨を痛めたりします。そういう意味では、ハーネスタイプをおすすめしています」

ハーネスタイプだと骨盤でしっかりと固定されることで万が一宙づりになっても体への負荷が軽減されます。登山用品店などで5千円から1万円程度で購入できるということです。

【シットハーネス型 墜落制止用器具】

安全対策は3点セットで!

上村教授によると、安全対策には墜落制止用器具だけでなく、3点セットが必要だといいます。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「屋根の雪下ろしというのは、高所作業ですから、万全の安全対策は必須です。(安全対策は)単純にロープが1本あれば終わりということではありません。3点セットが必要です」

3点セットとは-。
「ロープ」
「墜落制止用器具」と呼ばれる体につける部分
③ロープを結びつける場所「アンカー」

それぞれの使う時に気をつけるポイントを聞きました。

ロープは適切な長さに

もっとも重要なのが、ロープの長さを正しく調節することです。屋根の端からはみださない長さに調節することで、転落の危険性を低減できます。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「ロープの長さの考え方としては地面に激突しないじゃないんです。屋根からはみ出さないという長さにしなければいけない、つまり宙づりになってはいけないのです」

上村教授にロープの結び方も聞きました。おすすめの結び方は、「エイトノット」。十分な強度があり、使用後に元に戻しやすい結び方です。ロープの長さを調節したり、体とロープをつなぐ時に有効な結び方です。

また、落下時にも安全性を保つために、ロープは太さ8mm以上の「ザイルロープ」(登山用などで用いられる)がおすすめとのことでした。

ロープは頑丈な場所に結ぶ

命綱を結びつける場所は、本来、アンカーと呼ばれる専用のモノがあります。万が一、転落した場合にも、体を支えるだけの強度があります。しかし、道内の建物の屋根には、ほとんど設置されていません。アンカーが無い場合の対応を聞きました。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「建物の構造につながっているしっかりした柱とか、しっかりとした手すりとか、こういうものを使って頂くことは可能です。ただ、その場合もロープの長さはしっかり調整することが重要なポイントになります」

不要な雪下ろしは控えて!

上村教授は、命綱を使ってまで雪下ろしをする前に冷静に判断して欲しいことがあるといいます。その背景には北海道の建物の事情があります。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「北海道の多くの建物は、落雪型といいまして、雪が屋根に積もっても自動的に滑り落ちるという構造になっています。雪そのものがいつ動くか分からないという状況の上に人間があがるというのはありえない」

では、上がってもいい屋根かは、何を基準に判断すればいいのでしょうか。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「屋根の上に雪止めという金具があるかどうか、これ1点です。ないかぎりは、緩やかな勾配であってものぼってはいけないんです」

【雪止め】

その上で、事故が相次ぐ現状についてこう話します。

長岡技術科学大学 上村靖司教授
「北海道の場合は基本的に50年に1度の大雪に耐えられるように建物は設計されています。ですからちょっと積もったと思うくらいであれば、雪下ろしをする必要はないはずなんです。みなさんが不安に思う気持ちは、私も本当によく分かります。ただ冷静な判断が必要だと思うんですね。その時に命をかけてまで屋根に上がらなければいけないのかという、そのリスクの重みというところを考えていただきたい」

北海道が定める「建築基準法施行細則」で、建物が耐えられる積雪量を市町村ごとに定めています。また建物の基準については、自治体や建築会社などに確認することもできます。道立総合研究機構でも、▽一定の基準を超える大雪や▽老朽化した建物▽造りが弱い農業施設や物置などを除き、建物の性能としては、雪おろしを行う必要はないとしています。

取材後記

今回の取材で印象に残ったのは、「雪下ろしをしたい気持ちと命をかけて屋根に上がるリスクを天秤にかけて考えて欲しい」という上村教授の言葉でした。北海道にある「建築基準法施行細則」など基準があることや、そもそも雪下ろしの必要性を冷静に判断することについて、周知されていないのが現状だと感じます。雪下ろしの事故があとをたたない中、行政などによる注意喚起の方法や呼びかけの見直しを考える必要があると感じました。

2021年2月19日放送
2022年12月23日再公開
取材:北見放送局 住田達

まだまだ雪が降る季節は続きます。雪おろしに関するお悩みがありましたら、みなさんもぜひシラベルカに投稿してください。

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