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“きつ音”伝える絵本 当事者たちが込めた思い

  • 2023年6月26日

ことばがスムーズに話せなかったり、つっかえたりしてしまう「きつ音」。子どもたちに知ってもらいたいと、当事者や言語聴覚士たちでつくる札幌市のグループが絵本を制作しました。
「ひとりじゃないよ」。絵本に込められた当事者の思いを取材しました。 (札幌放送局  浅井優奈) 


「ぼくは、へん?」

6月に完成した絵本「うまくしゃべれない ぼくは、へん?」。
思うように話すことができずに悩む小学2年生の「ひろと」くんが、自分が「きつ音」であることを知り、向き合っていく過程が描かれています。

絵本を制作したのは、札幌を中心に活動するきつ音の当事者と言語聴覚士のグループです。
メンバーの1人、三谷潤さんは言語聴覚士としてきつ音がある人の相談にあたってきました。三谷さんによると、当事者の多くが、子どもの頃、悩みやつらさを自分ひとりで抱え込んだ経験を持っていると言います。

言語聴覚士  三谷潤さん
「小学校時代に誰にも相談できなかったという当事者が多い。小学校のうちから、自分だけじゃないんだっていうふうに思えるようになってほしい。相談してもいいんだっていう気持ちになってもらいたい」

三谷さんは、悩んでいる子どもや家族の助けになればと、当事者とともに絵本の制作を進めてきました。

三谷さん(真ん中)と当事者たち

自分だけが異質な存在

制作に携わった当事者の1人、寺島渓さん。5歳の頃から話しづらさを感じるようになりました。今も、話したいことばの最初の音が詰まってしまい、思うように出てこないことがあります。

きつ音の当事者  寺島渓さん
「なんで自分は全然しゃべれないんだろうと思いましたし、自分だけがなんでこんなに普通じゃないんだろうという感覚でした。ほかの人とは違う、自分だけ異質な存在であるような感覚がずっと強かったので、どんどん自分のことも嫌いになっていってしまいました」

制作した絵本では、寺島さんたち当事者の経験が描かれました。
主人公のひろとくんは、授業の音読でうまくことばが出てこず、落ち込んでしまいます。

寺島渓さん
「うずくまっているというか、ひざを抱えて悩んでいるシーンなんですけど、これは本当に僕自身もずっと、こうでした。授業中とかも当てられないように下を向いていたりとか。きつ音がある人だったら、こういう経験は少なからず、あるんじゃないかなと思いますね」

もともとは人と話すことが好きだった寺島さん。しかし、徐々に話すのが怖くなり、学校に行くのも嫌になってしまいました。誰にも相談できず、ひとりで抱え込んでいたと言います。家族にも悩みを打ち明けることはありませんでした。

知ることで気持ちが楽に

寺島さんが、自分がきつ音だと知ったのは中学生になってからでした。話しづらかったのがきつ音のためだと分かると、少し心が軽くなったと言います。

寺島渓さん
「知っているか、知らないかで、だいぶ自分の中の気持ちの楽さが違うんですよね。早い時期に知っていれば、その分、早いうちから、きつ音と向き合っていく準備もできますし、自分なりの対処法みたいなものが、そこから考えられると思う」

中学生の頃の寺島さん

寺島さんたちは、絵本に込められた当事者の思いが、つらさを抱える子どもたちに届いてほしいと願っています。

寺島渓さん
「自分のきつ音というものを、しっかり知るということ。つらい思いをしているのは自分ひとりじゃないんだよということ。そして、周囲の人にちゃんと相談してもいいんだよということを、絵本を通して伝えられればと思います」

【絵本について・きつ音に関する相談】
「北海道吃音・失語症ネットワーク」 070-4539-7211

2023年6月26日

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