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制服をよみがえらせ次の世代へ

  • 2024年4月5日

4月といえば進学の季節。多くの学校で必要となるのが制服です。物価高でさまざまな商品が値上がりしていますが制服も例外ではなく、総務省の「小売物価統計調査」によると、学生服の値段は10年前の2014年と比べて20%以上値上がりしています。

そんななか、制服購入にかかる金銭的な負担を少しでも軽くしたいと、役目を終えた制服を集めて再利用する取り組みを行っている女性たちが札幌市内にいます。「リユース制服」にかける思いを取材しました。(札幌局カメラマン 濵本航大) 

「制服を譲り合える環境を作りたい」と動き出した母親たち

制服のリユースを行っているのは、札幌市北区の新聞販売所で働く3人の女性です。販売所での事務や集金などの仕事の合間に、学生服の洗濯や補修といった作業を行っています。

この取り組みを立ち上げたのは、リーダーの田邊麻奈美さんです。きっかけは2年前、長男の中学校進学が近づいていたときに“気軽におさがりの制服を交換する場があれば”と思ったことでした。田邊さんは8年前に札幌市に引っ越してきましたが、身近にはそういった話をできる環境がなかったといいます。ちょうどそのころ、会社で新規事業の提案募集があり、田邊さんは社会貢献として「リユース制服」をとり扱うことを提案、見事採用されました。

田邊麻奈美さん

田邊さん
「ご近所づきあいっていうのがあまりなくて、まわりにもそんなに子どもも多くなかったということもあり、私のまわりで制服を譲り受ける機会がなかったなと。それだったらもう自分でやってしまおうという考えで始めました」

地域の人たちの協力で集まる無償の制服

しかし、どうすれば不要になった制服を集めることができるのか。考えた末、田邊さんたちは近隣のスーパーやスポーツ施設などにお願いし、制服を回収するための箱を設置させてもらうことにしました。いまでは市内8カ所に回収ボックスが置かれています。

スポーツ施設に設置された制服の回収ボックス

制服を提供する人たちは田邊さんたちの取り組みを歓迎しています。息子が使っていた制服を託した40代女性は、「捨てるにはお金もかかりますし、子どもの思い出を断ち切る気持ちになってしまうので、提供することで誰かのためになるのであればうれしいし、気持ちよく家から出せると思います」と、思い出の詰まった制服を見つめながら話してくれました。

自分たちの手でよりキレイに

価格を抑えることでより多くの人に提供したいと考えている田邊さんたちは、できるかぎり自分たちで制服をキレイにする作業をしています。汚れのひどい制服は色ごとに分けてつけ置き洗いをします。真っ黒に汚れた水を見ると田邊さんは“この制服は長く大事に着られていたんだなあ”と強く感じるそうです。

洗濯を終えた制服を田邊さんたちは、ひとつひとつ当て布をして丁寧にアイロンをがけ、服に縫われていた刺しゅうをきれいに取りはずし、次に使う人が気持ちよく使うことができるように仕上げていきます。こうして仕上げたリユース制服を田邊さんたちは新品の10分の1ほどの値段(上下セットでおよそ4500円)で販売します。経費や人件費を差し引くと利益はほとんど残りませんが、田邊さんは「利益を求めるより笑顔を求めたい」と、値上げは考えていないといいます。

新たな持ち主へ渡るリユース制服

3月中旬、田邊さんたちはリユース制服の販売会を開きました。この日は札幌市内の多くの中学校で卒業式が行われたばかりとあって、高校への進学を間近に控えた親子などおよそ30組が訪れました。

リユース制服を手に取った人たちは、想像以上にきれいなことに驚いた様子でした。

リユース制服を購入した女性

「新品と見た目が変わらないので、高校に進学する息子が良ければ中古でもいいのかなと思いました。子どもが3人いて全員新品に買い換えるとなると結構金額が行くので、きれいで費用が抑えられるなら助かります」

この春から高校に通う生徒も、リユース制服を手にして喜んでいました。

母親と一緒に制服を探す生徒

春から高校に通う生徒
「新品じゃなくても状態もいいし、捨てられるかもしれなかった制服をこうして私がもう1回着ることができるのはいいなと思います。高校生活が楽しみです」

この日の販売会では、一日でおよそ300着のリユース制服が新たな人のもとへ渡りました。制服を手にした人たちの感謝の声を聞いて、田邊さんたちはとても喜んでいました。

田邊麻奈美さん
「“本当にありがたいです”という声と聞いたときに、取り組みをやっていて良かったなと思います。制服を提供してくれた方の思い、そこに私たちの思いもちょっと乗っかって、これからも次の世代につないでいけたらいいなと思います」

取材後記

今回の取材を通して、私自身の学生時代のことを思い出しました。私は大学で応援団に所属していたのですが、部活で使用する学ランは先輩から引き継ぎ、引退するときに後輩に託しました。そのとき、先輩から「次はお前たちが頑張るんだぞ」という思いを受け取り、そして後輩にはこれからも頑張ってほしいという気持ちを込めて手渡していました。今回取材したリユース制服にも、きっといままで使っていた人たちのエールが込められていて、その思いを田邊さんたちがつないでいるのだと感じました。こうした取り組みがこれからももっと広まってほしいと思います。

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