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小さな旅 「荒波を越えて ふたたび ~北海道 厚岸町~」

  • 2023年12月1日

番組は12月10日(日)午前8 :00~<総合>放送の「小さな旅」でご覧いただけます。*NHKプラスでの配信、BSP4K放送、再放送についてはこちら 

道東にある港町・厚岸町。カキにサンマ、ウニ、タラ、カレイ・・・。 多種多様な海の幸が獲れるこの町の背景にあるのは、荒波と復活の歴史。 昭和58年に起きたカキの大量死。2021年にウニを死滅させた赤潮。 今、カキは当時の30倍の水揚げがあり、 ウニは赤潮から2年で回復の兆しを見せ始めました。 何度でも荒波を越えていく厚岸の人々。その力強い姿を美しい4K映像で紹介します。

3つの海が育む多様な生き物たち

道東でもひと際、とれる海産物が豊富な厚岸町。その秘密は複雑な地形が生む3つの海。

厚岸湖

内陸に広がる別寒辺牛湿原から海に向かうと、最初に見えてくるのが厚岸湖
湿原の水と海水が混ざり合う汽水湖で、塩分濃度は2%ほど。
湿原は周りの山々や、泥炭層の影響でミネラルたっぷりな水を蓄えています。
その水が流れ込む厚岸湖は、この場所特有の植物プランクトンが増え、カキの養殖に向いた海です。

厚岸大橋と厚岸湾

厚岸湖から、町のシンボル・厚岸大橋を越えて見えてくるのは厚岸湾。塩分濃度は3%。
外洋からの豊富な栄養分を受け取りつつ、天候が荒れても時化づらい海で、貝類の地まき養殖が盛んに行われています。

外洋

最後は塩分濃度4%の外洋。栄養塩と植物プランクトンを運ぶ親潮と暖かい海流・黒潮がぶつかる潮目。回遊魚やカニの漁が行われています。
このように性格の違う3つの海があるおかげで、厚岸では多種多様な海産物がとれるのです。

1年中食べられる厚岸のカキ

厚岸湖のほとりに、ひと際目立つ建物があります。2階はオイスターバーになっており、経営するのは自身もカキの養殖を行う中嶋均さん、64歳。自分で育てたカキをバーで提供するのがこだわりです。

中嶋 均 さん

厚岸のカキは3年物。他の地域のカキに比べ、長い時間かけて養殖されます。
冬の寒さを乗り越えるため、身にじっくり甘みを蓄えるんだそう。
しかも厚岸のカキは1年を通して生で食べられるのもウリ。その仕組みは、厚岸湖・厚岸湾2つの海で育てること。

まず、カキを育てるのはプランクトンが多く、波穏やかな厚岸湖。稚貝を2年かけてじっくり育てる。出荷サイズに育ったカキは湖より水温の低い厚岸湾の養殖施設へ。冷たい海で育てることで、カキの卵持ちを遅くし、卵抜けも遅くなる。2つの海で交互に育てることで、カキの食べごろをコントロールし、1年中出荷できるようにしているのです。

荒波を乗り越えた厚岸のカキ

古くからカキの恵みを受けて生きてきた厚岸の人々。明治時代、乱獲でカキがとれなくなるも、宮城県から稚貝を購入し、厚岸湖で育てることに。しかし、昭和58年、厚岸湖のカキが原因不明で全滅してしまいました。当時25歳だった中嶋さん。それを機に海だけでなく、町の環境に目を向けるように。

(中嶋さん)
やっぱりカキをどう残していくかっていうことを含めて色々と調べたり、当然何で死んだかっていうことで、環境というか、海だけじゃなくて、陸上の生活排水とか、川とか、山とかを見るきっかけにはなりましたね。

中嶋さんは漁協青年部の仲間と始めたのは植樹。当時開発が進み、木がなくなっていた森が海にまで影響するのではないかと考えたのです。

また、明治時代に数を減らした、寒さに強い厚岸原産のカキを人工で増やせないか研究し、当時日本初となる「シングルシード式」という方法で厚岸のカキを取り戻すことにも成功。大量死前はおよそ30トンだったカキの水揚げは、現在約600トンになり、厚岸のカキは全国的なブランドになりました。1つ1つの自然と丁寧に向き合い続け、ようやく荒波を越えることができたのです。

(中嶋さん)
自然の力を信じながら、今年はいいカキになるようにって、そういうことでしかないような気するんですよね。ちょっとは人の力で何かはやりますけれども、あとはもう自然の力に委ねるというか。

命がけでつないできたウニ漁

埠頭に行くと、冬場の風物詩・潜水ウニ漁の準備中。厚岸では「潜り」と呼ばれる潜水漁師・毛利哲也さんに出会いました。町に3人しかいない「潜り」の1人です。

潜水ウニ漁師 毛利 哲也 さん

ウニをとるのは外洋と湾の境目。速い潮に流されないよう、全身に60キロものおもりを付け、海に潜ってウニをとる漁です。船とは吸気ホースと命綱でつながれ、それが船のスクリューにまかれたら大事故にもつながります。
大事なのはチームワーク。「潜り」の行きたい方へ船を微調整する「船頭」。命綱と給気ホースをさばき、「潜り」の位置を把握したり、スクリューにまかれないようにする「綱夫(つなふ)」。そして彼らに命を預けてウニをとる「潜り」。息をぴったり合わせて漁を行います。

(毛利さん)
人に命を預ける怖さっていうのと、あと海の中に入っちゃったら、
もう自分一人しかもういないんで。海の中で何が起きるかも分かんないんで。そこが一番、恐怖っていうかね、いや、怖いです。

赤潮によって消えたウニ

命がけでつないできた厚岸のウニ漁。2年前に大きな打撃を受けました。
2021年北海道を襲った赤潮です。厚岸のウニもほとんどが死滅しました。

当時の厚岸の海

海底を覆うのは、とげが抜け白骨化して死んだウニです。
厚岸のウニ漁は5mmほどのウニの子供・稚ウニを海にまき、およそ5年後、
大きくなったところで出荷するやり方。この赤潮によって、向こう数年漁ができなくなったのです。さらに、今までウニ漁を行う海域にはそれほどいなかったヒトデが大量発生。
死んだウニの匂いをかぎつけ寄ってきたのです。放っておけば生きているウニも食べてしまう漁師の天敵です。

漁師の天敵・ヒトデ

この海に稚ウニをまいてもウニが育つのか?
漁師たちは葛藤の末、これまで続いてきたこの漁を守るため、赤潮が来た年に
新たな稚ウニをまくことに決めました。

この2年、毛利さんたちは水揚げがない中、約10トンのヒトデを駆除。
また、とったウニも出荷するわけではなく、ウニが食べるコンブがより多く生えている場所に移してきたのです。

そして今年。海の中を見た毛利さんは手ごたえを感じていました。赤潮の年にまいたウニが予想以上に身が詰まっていて、数も十分。ヒトデの駆除と、ウニの移植が実を結んだのです。

(網夫)ウニの育ち早い。
(毛利さん)にしたら早いな。もうちょっとヒトデにやられるかなと思ってたんだけど

ウニ漁は12月のひと月のみ再開が決定。通常の水揚げは10月から12月ということを考えれば、まだまだ回復したとは言えません。しかし、今年ようやく赤潮から復活の兆しが見えました。

(毛利さん)
自然相手なんで、自分たちがどうこうできる問題でもないんですけど、
そこはうまく付き合っていこうかなっては思ってますね。

一度は全滅に追いやられたカキとウニ。そこで自然と向き合い、荒波を乗り越え、ふるさとの海と生きる。出会った厚岸の人々から、そんな強い姿を見ることができました。

(札幌局・ディレクター門脇陸)

小さな旅「荒波を越えて ふたたび ~北海道 厚岸町(あっけしちょう)~」
<総合>2023年12月10日(日)午前8:00~ ※近畿ブロックは別番組放送
     (再)2024年1月8日(月)午前4:20~
※NHKプラスで同時配信、放送後1週間見逃し配信予定

その他、BSやBS4Kでの放送は以下の日時で放送。
<BSP4K>2023年12月16日(土)午前6:05~、12月22日(金)午前9:00~
<  B  S  >2023年12月22日(金)午前10:30~

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