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Do! | #32 Takeda Ryohei

  • 2024年1月24日

第32回に登場するのは、札幌局で放送所の保守・整備を担当する竹田職員。昨年の8月に完了した手稲山の放送所にある放送設備の更新工事に携わりました。放送を途切れさせないように雪が積もる中、放送所に向かうことができるように雪山での訓練にも参加。さまざまな経験から学んだこととは。学生時代の話とともにたっぷりと聞きました。 

[Photo By 奥田 敬輔 ]
[聞き手 加藤 洋也(NHK札幌放送局 デジタル・戦略G)]

竹田 亮平 – Takeda Ryohei –
工学部電気電子コース。2019年入局。静岡県出身。趣味はサイクリング、ゲーム。特技は学生時代から始めた料理。今では魚を三枚におろすことができる腕前。カレーもスパイスから作る。

<目次>
1.放送を届け続けるためには
2.未知の分野と向き合う
3.やりたいことを見極める

1. 放送を届け続けるためには


――普段の業務内容を教えてください。

技術職の中でも「送受信技術」という分野を担当しています。全道にNHKの番組を届けるため、電波を用いた放送ネットワークが構築されています。それらの電波を発射するための放送設備の整備やメンテナンスを計画的に行うことで、安定した放送サービスを支える仕事をしています。札幌放送局では道央エリアを管轄しているので、主に札幌の手稲山や室蘭の測量山の放送所の設備点検などを行っています。

――具体的にはどのようなことをしているのですか?

ざっくりいうと放送設備の整備やメンテナンスです。例えば、放送所の設備が古くなり更新の時期になった時に、放送が途切れないように年度を通じて計画的に作業を行うための管理をしています。業者の方への発注、工事内容の調整や進捗状況を確認するため工事の立ち会いも行います。また工事後には月1回や年1回など定期的に点検を行っています。

――計画的に点検や更新を行っているのですね。

そうですね。少し調子が悪いかもしれないから点検をするのではなく、調子が悪くなる前に対応するようにしています。絶対に放送を途切れさせないという考え方に基づいての対応です。それでも機器が故障してしまう場合もあります。局内から遠隔で監視をしているので、何かエラーが出て故障していると判明した場合には、故障した機器の修理や交換を行うために直ちに現地へ出向します。標高1000m以上ある手稲山の放送所に登ったりもします。

――手稲山の放送所には冬でも行くのですか?

そうですね。雪がない時期は車で行けるのですが、雪が降るとスキー場のリフトに乗って、そこから20分ぐらい歩いて放送所まで行きます。リフトが止まっている時は、山の麓から放送所まで2時間ぐらいかけて登っていきます。手稲山はスキー場ということである程度は雪も踏み固められていて進みやすい状態なんですが、ほかの山間部にあるような放送所だともっと厳しい環境のところもあります。そういった場所だと雪上車(※)を使って現地まで行くこともあります。
※雪上車を使って放送所に行く様子はこちらから

――冬の作業で大変だったことはなんですか?

テレビやFMの放送所は基本的に電波の障害となるものが少ない標高が高い山に設置されるので、冬は風や雪などでかなり厳しい自然環境になります。しかし、放送設備に異常が発生するようなことがあれば、冬山を進んで放送所に向かわなくてはなりません。積雪がアンテナに悪影響を及ぼしそうであれば適切に除雪する必要があります。アンテナなど高所の雪下ろしは専門業者にお願いすることもあります。私は雪国出身ではないので、雪下ろし自体、札幌に転勤してから初めて経験したのですが、雪は重たくてとにかく骨の折れる作業だと感じました。

雪が積もった放送所

――雪の中での作業は慣れていないと難しそうですね。

難しいです。万が一のことがあってはならないので、放送所の保守点検を行う職員やロケで雪山に行く職員を対象にプロの山岳ガイドによる雪山での訓練を行います。私は去年の2月に行われた訓練に参加しました。初日は座学で、基本的な雪山の自然環境やどのような装備や食べ物が必要なのかなど、雪山を進むための知識や注意点、生き残るための心構えなどを学びました。このような知識を学んだうえで、2日目には実際に雪山に行き、新雪の中、スノーシューを履いて進んだり、更には雪崩を想定した捜索救助の訓練を行いました。

訓練の様子

――体力作りとかはしているのですか?

私はしていないですね(笑) 訓練の時は本当に疲れました。サイクリングが趣味で、体力はあるほうだと思っていたのですが、ふわふわした雪山の斜面を登ったりしたので、訓練が終わった後には足腰に疲労が溜まりましたね。

――訓練が活かされたことはありますか?

この訓練で初めて雪山に行ったので、スノーシューの使い方も初めて学びましたし、ラッセルも初めて経験しました。雪山の木の根元には空洞ができやすくて、落とし穴みたいになりとても危険です。先日、放送所の点検で雪山に行ったときに木の根元を見てみるとたしかに空洞があって、もし何も知らずに近づいていたら危ないと感じました。この訓練によって技術的なことではなく、安全に放送所まで行くための知識を学ぶ訓練の大切さを改めて感じました。

――2023年には手稲山にある放送所の設備更新があったんですよね?

はい、私もテレビ送信機の更新整備に携わりました。このテレビ送信機は地デジが開局した2006年から約17年も稼働し続けてきた設備で、総合とEテレ、FMのうち総合とEテレの設備を新しいものに更新しました。とても大掛かりな工事でしたが、担当者が一丸となって取り組み、無事に更新作業を終えることができました。手稲山の放送所からのテレビ・FMの電波は石狩平野のほぼ全域におよぶ約130万世帯に届いています。今回の工事では改めてその重要性を認識する機会となりました。

――大変だった点はありますか?

送信機をまるごと更新するため、大きな機器を手稲山に搬入するだけでも大規模なものとなりました。また、新しい機器にあわせて建物を改修したり電源設備を変える必要がありました。単純に機器を入れ替えるだけでなく、さまざまな変更が必要となるので、いろんなことを想定しながらの工事でした。

――放送に影響がでないように送信機の更新作業を行ったのですよね?

夜中にテレビをつけてみると放送休止の時がたまにあると思うのですが、その時間で旧送信機から新送信機の切り替え作業を行いました。放送休止は午前1時~午前4時の約3時間と限られています。短い時間で切り替えられるよう、入念に準備をし効率よく作業を行いました。

――じゃあ私たちが寝ている間に作業をしてくれているおかげで朝、ニュースや朝ドラが見ることができるんですね。

そういうことになりますね(笑) あとは作業時間の制約があるので、放送開始に間に合うかどうかは常にハラハラしています。トラブルが発生した時、想定していないようなエラーが起きたりした時にどう対処するかは現地で考えないといけません。そのエラーを解消して新しい送信機に切り替えるか、あるいはエラーの解消には時間がかかるので新しい送信機に切り替えることをやめて古い送信機に戻すかとか、その場での判断が求められます。無事に手稲山の工事が終わって、山頂から朝日を見ることができたときはとてもほっとしました。あと実は深夜にテレビをつけるとたまに流れているカラーバーは、映像や音声がきちんと送ることができているかを確認する試験信号なんです。だからもしテレビでカラーバーや放送休止の画面を見かけたら、技術職員が作業しているのかもと想像してもらえたら嬉しいですね。

――送受信技術の重要性とはなんですか?

NHKに入局する前までは放送の電波は常に出ているのが当たり前でそれを特に意識をするということはなかったんですが、放送所の保守や更新に携わることで、放送の電波がどれぐらいの規模の設備からどういう仕組みで出ているのか、それを維持するのもどのくらい大切なのかっていうのは改めて感じました。手稲山の放送所は石狩平野のほぼ全域におよぶ130万世帯をカバーしており、設備のボタン一つを押し間違えると130万世帯のテレビが映らなくなる可能性もあります。この業務を担当して、当たり前に行っている放送サービスを支えるため、さまざまな作業を行っているのだと改めて感じました。また、特に災害時などに情報が出せない状況になるとNHKとしての役割が果たせないので、常に放送を出し続けることができるようにしておく重要性を感じました。

2. 未知の分野や課題と向き合う

――大学院ではどのような研究をしていたんですか?

大学院の研究室では電磁波について企業と共同で研究していました。研究の目的は、例えば何らか電子機器からノイズが出ているとき、その電子回路のどこからノイズが発生しているのかを突き止めることです。ノイズは電波として空間に放射されていくので、その空間の電波を観測することでノイズとなる電波の出所を突き止める方法について研究していました。

――その手法として機械学習(※)を取り入れたのですよね?

当初考えていた方法では、電波の基本的な伝わり方は数式で表すことができるので、その数式を解析することで電波の出所を逆算して推定するというものでした。ただ、簡単なモデルの場合は理論的に計算することができるのですが、さまざまな電波が入り乱れるような実際の環境を考えると、計算モデルが複雑になり過ぎて解析ができなくなってしまいます。研究の進め方について悩んでいたとき、機械学習という別のアプローチはどうかと当時の指導教官からアドバイスを貰いました。
※機械学習・・・データを分析する方法の1つ。コンピューターが自動で学習し、データの規則性などを発見する方法。

――機械学習についてはもともと勉強されていたんですか?

私は電気電子系の勉強しかしていなかったので、機械学習やプログラミングなど情報工学系の分野は一から勉強しました。試行錯誤の連続でしたけど、最終的にはなんとか修士論文として形になるものができたかなと思います。

――この研究によって学んだことはなんですか?

未知の分野や課題に対して、どのように取り組むべきであるかということは常に意識していました。私は機械学習という分野でしたが、どんな分野においても課題というものは存在して、その課題への向き合い方は共通しているかなと思っています。課題を分析して、目標をどこに定めるのがよいのか、その目標を達成するためにはどのようにアプローチをすればよいのか、そのためにはどのような技術が必要なのか、ではその技術の最新の状況や先行研究はどうかなど、課題に対しての取り組み方はどんな分野でも共通していると思います。だから、この研究を通じて、未知の分野や課題に対して、目標から逆算してアプローチしていく方法を身に付けることができたと思います。

――今の仕事にも役立つ部分はありますか?

目標から逆算してアプローチする方法は役立っていると思います。例えば放送所の設備に障害が起きている場合には、なにが原因なのかを見つけるために、ここは正常に動いているから違うところに異常がある、というふうに一つ一つに切り分けて考えることが必要となります。こういう論理的な思考力は今でも活かされているのかなと思いますね。

――なぜ電気電子系に進もうと思っていたのですか?

もともと数学や理科が好きで、なんとなく興味のあった電波や通信系の分野に進もうと思っていました。改めてきっかけを振り返ってみると、子供のころに遊んだゲーム機の赤外線通信だったと思います。ケーブルもなにも繋がっていないのにゲーム機同士で通信できるというのが子供ながらにとても不思議で、電波や無線通信に興味を持つようになりました。

3. やりたいことを見極める

――NHKを志望した理由はなんですか?

大学院の研究室では電波について研究していたので、その分野の専門知識が活かせるような業種を考えていました。就職活動の時にはテレビ以外にも、通信インフラや電機メーカーなどの企業も受けていたりしました。NHKは技術職といっても、私が今担当している送受信技術のような放送設備の整備のような仕事もあれば、研究の仕事もあるし、番組制作に携わる仕事もあります。結局のところは、視聴者へより良いコンテンツを届けるという目的があった上で、色々な領域に取り組むことができるのは組織として面白いなと思いました。他のメーカーとかも面白そうだとは思っていたのですが、ひとつの技術を突き詰めて、研究に専念したりするというのは自分には向いていないのかなと感じていました。一方、NHK ではその技術職だけじゃなくて、いろんなクリエイターの人とか多様な人材が働いている環境でもあるので、凝り固まった視点になりにくい組織かなと思い入局を決めました。

――就職活動で印象的だったエピソードはありますか?

他社の最終面接で「おはぎとぼた餅の違いを教えてください」といきなり問われて、何も答えられずに落ちたことが一番ショックでしたね(笑)とっさに言われたので、何も浮かばずに言葉に詰まってしまいました。多分、今考えてみると、わからなくてもわからないなりに喋ればよかったかなと思うんですけどね。考え込んじゃって、それがあまり良くなかったのかなと思います。結果的に落とされてしまいました(笑)

――NHKの面接はどんな雰囲気だったのですか?

NHKはそういう無茶ぶり質問はなくて、エントリーシートを深掘りをするような質問が多く、穏やかな感じで面接が進んだ印象があります。私は技術職を志望していたので、ほかのメーカーとかでは「あなたの研究はどう役に立つのか?」や「この会社で研究によって得た知識をどのように活かせるのか?」など、やってきたことで会社へどう利益を生みだすことができるのかというような視点の質問が結構多いんですけど、NHKの面接では、なぜNHKに興味を持ったのか、世の中で起きたでき事に対してどのような感性を持っているのかを引き出す質問が多かった気がします。

――実際に入局してみてどうですか?

研究室の先輩がNHKに就職していて、職場の雰囲気とかは聞いていてあまりギャップはありませんでした。ただ放送技術という専門的な知識が必要なため、大学で学んでいた知識を使うというよりは入局して学んだ知識を使っているように思います。逆にいうと電波関係を研究していないと難しい仕事というわけでなく、どの分野を学んでいた人でもチャンスはあるのかなと思います。当然、入局してから必要な資格をとるためのサポートも充実しているので、そこまで心配いらないのかなと思います。

――資格はいつ取得したのですか?

私は陸上無線技術士(※)という資格を入局1年目の時に取得しました。実際周りの職員も1年目~3年目の間に取得しています。入局して5月ぐらいに初任地に配属されて、年明けの試験を受けたので、勉強の期間としては半年ぐらいでした。試験の分野は電気電子系ともかぶるので、そこは大学で学んだ知識が活かされましたね。
※陸上無線技術士・・・陸上の無線設備の技術的な操作を行うために必要な資格。

――就職活動でやっておいてよかったなということはありますか?

私は電波の研究をしていたので、研究分野の知識を活かせるという軸で考えていました。私はあらかじめやりたいことがはっきりしていたんですが、やりたいことが何かと自分を振り返ることは大切だと思います。今後のキャリアを形成するうえでも自分はどうしたいのか、何がやりたいのかはっきりしていたので、いろいろ自分の行きたい企業も見極められたし、面接でもちゃんと言いたいことが考えやすくなりました。

――今後の目標は?

やはり今担当している送受信技術の分野で専門性を高めていきたいなと思っています。入局して5年目になりますが、まだまだわからないことが山ほどあります。一つ一つの業務を行う過程で必要な知識を吸収していき、立派な送受信技術者として独り立ちしていきたいなと思います。そして放送を途切れさせることなく、放送サービスに貢献したいです。

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