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「低出生体重児」 小さな命を育むための支援とは

  • 2022年12月9日

NHK北海道の取材チーム「シラベルカ」。 今回は体重2500グラム未満で生まれた「低出生体重児」についてです。 

(投稿)
「小さく生まれた赤ちゃん『低出生体重児』の母親です。まわりに同じような知り合いがいなくて孤独感や不安でいっぱいでした。『低出生体重児』の出産・育児の大変さを知って欲しいです」

室蘭市に住む「低出生体重児」の母親、高橋日奈さんが寄せてくださった投稿です。

早産などが理由で、体重2500グラム未満で生まれた「低出生体重児」。
40年余り前、1980年には全体の5%ほどでしたが、高齢出産の増加などを背景に増え、今では9%余り。10人に1人は「低出生体重児」となっています。

ただ、まだまだ、社会の理解は進んでいない現状があり、投稿してくださった高橋さんも困難を感じているということです。
小さな命を育むために必要とされる支援はー。「シラベルカ」チームが調べてきました。


育児の不安と孤独感

高橋さんの次女、愛乃さん(3歳)は772グラムで生まれた「低出生体重児」です。
自分では呼吸ができず、人工呼吸器をつけて命はつなぎ止めましたが、心臓にも異常が見つかり、生後は危険な状況が続いたといいます。

高橋日奈さん
「2か月ぐらいまでは本当に1歩進んだと思ったら3歩ぐらい下がるぐらい、すごい毎日がドキドキで…」

「低出生体重児」は体のさまざまな器官が十分に成長しないまま生まれてきます。
愛乃さんも目の網膜の発達が不十分で、3歳になった今も治療を続けています。
「低出生体重児」の多くは生後、継続的な医療ケアが必要とされる「医療的ケア児」です。
周りに同じような境遇の知り合いはおらず、高橋さんの子育ては悩みを抱えながらの毎日だったといいます。

高橋日奈さん
「小さく生まれたことで、これからどうなるんだろうって。大きくなるかなとか。すごい不安を抱えていくことになる。独りぼっちだなっていう感覚が強かった」

高橋さんは今年、「低出生体重児」の親たちに呼びかけ、サークルを結成。オンラインで情報交換を始めました。
多くの人に知ってもらおうと仲間と各地でイベントも開いていますが、まだまだ理解は進んでいないと感じています。

高橋日奈さん
「『小さく生まれただけでしょ』って思われがちなのかな。どこに相談していいかとか、どういうふうに相談していいかが分からなくなってしまう方もいると思います。寄り添って話を聞いてもらえるだけでも、すごく違うと思うので、そういう対応はもっとしていただけたらうれしいと思うんですけれども」


「リトルベビーハンドブック」

「低出生体重児」の親へのサポートについて考えを聞くため、北海道庁を訪ねました。
子ども子育て支援課の菅谷雅之主幹は支援の仕組みづくりに向けて、道としても準備を進めていることを明らかにしました。

北海道子ども子育て支援課  菅谷雅之主幹
「小さな赤ちゃんをお持ちのご家族が不安な気持ちに駆られるとか、客観的にお子さんの成長を見られなくなってしまうということが言われていますので、そういうことを解消することを目的に『リトルベビーハンドブック』の作成を考えています」

道が作成を進めているという「リトルベビーハンドブック」。
「低出生体重児」向けの母子手帳のことです。各地で発行する動きが広がっています。

赤ちゃんの成長を記録する母子手帳は通常、標準的な赤ちゃんを想定して体重は1キロ以上しか記入できません。
このため、「低出生体重児」の親は体重が書き込めず、小さく生んでしまった自分を責めてしまったり、「ほかの子と比べて成長できていない」と不安を強めてしまったりすることにつながってきました。

そこで、「リトルベビーハンドブック」は体重が1キロ未満でも記入できるようになっていて、772グラムで生まれた愛乃さんのような「低出生体重児」もきちんと記録をつけられるようになっています。

北海道版の「リトルベビーハンドブック」には「低出生体重児」の育児を支援するため、経験者から寄せられた応援メッセージのほか、「低出生体重児」を支援する団体の紹介や自治体の支援窓口なども掲載される予定です。

北海道子ども子育て支援課  菅谷雅之主幹
「お母さんだけではなくて、市町村の母子保健担当の方も一緒に見ていただいて、お母さんと一緒にお子さんの成長を見守っていただくようにして使っていただきたい。2023年の早い時期の発行・作成を目指して作業を進めているところです」


支援にあたる人材の育成も重要

一方、小児医療が専門の道立子ども総合医療・療育センターの中村秀勝医師はサポートを行う人材の育成も不可欠だと指摘します。

道立子ども総合医療・療育センター  中村秀勝医師
「この20~30年間というのは新生児医療が目覚ましく発展し、赤ちゃんの生存率が上がりました。その反面、親に対しての精神的なケアが十分に実践されてこなかった。特に体重1000グラム未満で生まれた『超低出生体重児』の在宅でのケアを考えたりすると、保健師さんたちの人材育成というのが非常に重要になってくるのではないかと思います」


取材後記

体重1キロ未満でも書き込める「リトルベビーハンドブック」。
「体重の欄が『1目盛り』増えただけで、何が変わるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でも、この僅かなことが大事なのだと、私は取材を通じて感じました。まずは不安や孤独を感じながら「低出生体重児」のお子さんを育てている親の存在を知ること。そして、「1目盛り」の「僅かなこと」でも、きちんと、その不安に寄り添って耳を傾ける姿勢が必要とされているのだと感じました。
高橋さんは「低出生体重児」について知ってもらおうと開いているイベントで、小さな「クマのぬいぐるみ」を展示しています。愛乃さんが生まれた時と同じ体重772グラムのぬいぐるみです。高橋さんは「低出生体重児」の重さを実際に感じてもらおうと、このぬいぐるみを作りました。

私は3歳になった愛乃さんがそのぬいぐるみを抱える姿を見ると、高橋さんが多くの不安を感じ、孤独感を抱きながらも、それ以上の愛を愛乃さんに注ぎ、育ててきたのだと感じるのです。
小さく生まれた赤ちゃんの命をつないでいくための支援。これからも見つめていきたいと思っています。

移植医療の現場で役立てられている「さい帯血」についての記事はこちら👇
さい帯血って何?

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