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カープ・栗林良吏投手  いざWBCへ  公式球と向き合うキャンプ

  • 2023年02月13日

プロ野球、カープの抑え、栗林良吏投手は、来月開幕するWBCの日本代表に選ばれ、早めの調整を進めてきました。栗林投手が日南キャンプで向き合ってきたのが3月に行われるWBC=ワールド・ベースボール・クラシックの公式球でした。「滑る、重い、大きい」というボールに慣れようとしている栗林投手を取材しました。
(広島放送局 記者 横山悠)

 

WBCに向けて朝から練習

朝のランニングをする栗林投手 日南キャンプにて

カープのキャンプ地、宮崎県日南市の天福球場。日が昇ったばかり午前8時ごろ。栗林投手は、朝日に照らされた球場の周りを毎日、黙々とランニングしていました。チームの全体練習が始まる1時間半前からなぜ走っているのか。栗林投手に聞いてみると、WBCへの特別な思いがありました。

(栗林投手)WBCのボールが重く体への負担が大きいと感じています。練習の前にしっかりと体を温めて投げるための準備をしています。準備をしっかりして、100%の状態でキャッチボールをしたいと思っています。

WBC球を使った調整

1月の自主トレーニング

栗林投手は、チームでただ1人、WBC日本代表に選ばれました。去年のオフからWBCの公式球を投げ始め、キャンプ前にはブルペンに入るなど早めの調整を進めてきました。日南キャンプでもほぼすべてのメニューで公式球を使って練習しています。

ブルペンでは違和感

2月2日。キャンプ2日目。栗林投手は、早速、WBCの公式球を持ってブルペンに入りました。この日は、ストレートを中心に46球。しかし、どこか納得いかない表情でした。

イメージするのはバッターが空振りやファールになる伸びのあるストレート。しかし、実際のストレートの軌道はシュートしていました。さらに、ボールの回転数などを測る機械で確認したところ、ストレートの回転数がシーズンより少なかったことが分かりました。最初のブルペンは、栗林投手にとって課題を残す結果となりました。

(栗林投手)ずっとWBCの公式球を使って練習してきましたが、日本のボールの方が投げやすいと感じています。まだ思ったボールが投げられず、今の状態は50パーセントくらいです。

ボールの違いとは

WBCの公式球(左)とNPBの公式球

WBCの公式球は日本で使っているボールと何が違うのか。栗林投手は自身の感覚を「滑る、重い、大きい」と表現します。大リーグで使われているボールと同じWBCの公式球。日本のものと並べても分からないぐらい、ほんのわずかな違いです。その違いが繊細なピッチャーのリリースの感覚を狂わせていました。リリースした瞬間の力の伝わり具合で投げたボールの質は大きく変わるため、僅かなボールの違いもピッチャーにとっては大きな問題でした。

ルーティンにも影響

ほかにも栗林投手には気になることがありました。WBCの公式球を同じ縫い目に沿ってストレートを投げようとすると、ボールに印刷されているマークが見えなくなるのです。栗林投手は、マウンドに上がる前には内野のラインの前で一礼するなど、登板にあたって多くのルーティンを大切にしています。マークを目印にボールを握ってきた栗林投手は、わずかな違いにも違和感を感じていました。

(栗林投手)ルーティンが多いタイプなのでマークが見えないと「嫌だな」と思います。

遠投で対応

こうした課題をクリアするために栗林投手が取り組んだのが遠投でした。シーズン中にも調子が落ちたと感じると立ち返るというのが遠投です。

キャンプで遠投をする栗林投手

ボールを遠くに投げるには、きれいな縦回転をかける必要があります。栗林投手は、キャッチボールではどんどん後ろに下がって周りの選手より早く相手との距離をとっていました。セットポジションやステップを踏んで次々と投げ込みます。遠投をするとシュート回転して勢いが失速するボールがはっきりと分かりました。滑るボールでもいかにスピンの利いたボールを投げるのか。毎日遠投を繰り返して、力強いリリースの感覚をつかんできました。

(栗林投手)遠投をしっかりやることによってボールの回転数も上がると思います。強い球を投げるためには遠い距離を体全体を使って投げることが大事だと思います。徐々に力のバランスが分かってきました。

黒田博樹さんから助言

自分なりに練習方法を工夫して模索してきた栗林投手に力強い味方が現れました。今シーズンから球団アドバイザーに就任した黒田博樹さんです。黒田さんは、日南キャンプに訪れて5日目から本格的な指導に当たりました。栗林投手は、日米通算203勝をあげ、大リーグで7年間プレーした黒田さんにボールの握り方を変えた方がいいのか聞いてみました。

黒田博樹さんからアドバイスをもらう栗林投手

(黒田さん)自分は大リーグで長くプレーして少しずつ握りを変えていった。WBCのために急にボールの握り方を変えると違和感が大きくなるのではないか。

黒田さんからは自身の経験を踏まえて少しずつ慣れていくようアドバイスをもらいました。ほかにも1球ごとにボールの質が違って自分に合うものと合わないものがあること。滑り止めのロジンバックはマウンドの砂と合わせて使うことでさらに効果的なことなど、黒田さんの確かな経験に裏付けられた公式球対策を教えてもらいました。

(栗林投手)黒田さんからたくさんアドバイスをいただけてありがたいです。聞いた話を自分の中の引き出しに加えて、いいものにつなげたいです。

バッター相手に手応え

フリーバッティングで登板する栗林投手

第2クール2日目の今月8日、栗林投手はキャンプで初めて打者相手にピッチングをしました。「バッターの反応を見たい」と上がったマウンドでした。この日は45球を投げて最速145キロながらキレのあるストレートで詰まらせたり、空振りを奪ったりする場面も見られました。慣れない公式球に徐々に対応している姿がありました。

(栗林投手)違和感なく普通に投げきれたので、公式球への対応は大丈夫だと思います。あとは精度を磨いてどの球種も勝負球で使えるようにしたいです。

WBCの頂点へ

先月26日、日本代表メンバーとして名前が呼ばれた日でした。「WBCで投げたい気持ちが50パーセント、投げたくない気持ちが50パーセント」。栗林投手が口にしたのはプレッシャーからくる率直な不安でした。怖さを力に。不安な気持ちを乗り越えるため、日南キャンプで慣れない公式球と徹底的に向き合ってきました。その先に見据えるのは、“世界一”の景色です。

(栗林投手)今はWBCで世界一をとることだけを考えて練習しています。日本代表のプレッシャーを力に変えて、1つでも多くのアウトをとって与えられた場所でベストパフォーマンスを出したいです。

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